~柴犬ポポチとゆっこちゃんの冒険~
冬の童話祭2025参加作品です✴
赤い屋根の小さなお家にゆっこちゃんという女の子が住んでいました。
ゆっこちゃんは今年で六歳。
その年のクリスマスの出来事でした。
ゆっこちゃんのお母さんのお友達の家で犬の赤ちゃんがたくさん生まれたので、ゆっこちゃんも様子を見に行ったのです。
「そーっとね」
お母さんに言われてゆっこちゃんは息を止めてゲージの中を覗き込みました。
小さな小さな固まりがもぞもぞといくつも動いています。
ほぅっとゆっこちゃんは息を吐きました。
「可愛い!」
お母さんに向かってゆっこちゃんは目をきらきらさせて言いました。
犬の赤ちゃんを見ているだけでゆっこちゃんの胸は何だか幸せな気持ちになりました。
「ゆっこちゃん、よかったら一匹もらってくれない?」
お母さんのお友達が言ったその言葉にゆっこちゃんは目を丸くしました。
お母さんを見ると笑顔で頷いています。
そうして、春になった頃に柴犬の雄の赤ちゃんが少し大きくなってゆっこちゃんのお家にやってきました。
ゆっこちゃんのお父さんが名前を決めました。
「ポチにしよう。どうだいいだろう」
どうだ、とお父さんはゆっこちゃんを見ます。
「ゆっこ、ポチは嫌だ。ポポチがいい!」
ゆっこちゃんとお父さんはじゃんけんで決めることにしました。
結果は、ゆっこちゃんの勝ち!
柴犬の名前はポポチになりました。
ポポチはとにかく元気な犬で家中あちこち走り回りました。
ゆっこちゃんと一緒になって眠ったりもしました。
そんなある日。
ゆっこちゃんのお母さんもお父さんも用事でお出掛けをしてて、もうすぐ小学生になるゆっこちゃんはお留守番を任せられることになりました。
ポポチと二人でお留守番です。
絵を描いてたゆっこちゃんがふと時計を見るとお母さんが帰って来るはずの時間でした。
それから時計の針がぐるりと回ってもお母さんは帰って来ません。
ゆっこちゃんはとても不安になりました。
「くぅーん」
ポポチが鳴きました。
「どうしたのかなお母さん」
「くぅーんくぅーん」
ポポチも不安そうに鳴きます。
「お母さん今度ゆっこが行く学校に出掛けるって」
ゆっこちゃんは立ち上がってポポチを抱きました。
ポポチは不思議そうにゆっこちゃんを見ています。
「そうだ! お母さんを一緒に迎えに行こう!」
突然ゆっこちゃんは思い立って言いました。
ゆっこちゃんはまずポポチにリードを付けました。
初めての散歩の時は必ずリードをするのよ、とお母さんが言っていたのを思い出したのです。
靴を履いて、ゆっこちゃんはそろそろと玄関の扉を開けました。
ポポチはそんなゆっこちゃんの後ろをとことことついていきます。
ゆっこちゃんはよし、とリードを握ってポポチと一緒に小学校の方に向かって歩きだしました。
「お散歩だよ、ポポチ!」
何だかゆっこちゃんはわくわくしてきました。
初めてのお外にポポチは興味津々です。
道端のお花の匂いを嗅いだり、ちょうちょに驚いたり、そんなポポチを見てゆっこちゃんは笑い声をあげました。
「ポポチにとって冒険みたいだね」
ゆっこちゃんはこの間読んだ絵本を思い出しました。
お姫様が海賊にさらわれたのですが、最後は一緒になって冒険に出かけるお話でした。
ゆっこちゃんは楽しくなって、
「ポポチ、冒険に出かけよう! 道のりは遠いぞ!」
と絵本の言葉を思いだして真似をして言いました。
「アオン!」
ポポチも嬉しそうに鳴きました。
それからはゆっこちゃんの頭の中では川の橋が丸太の吊り橋に変わり、
「気を付けてポポチ揺れるよ!」
と言ってみたり、空を飛んでるカラスを見ては
「ポポチ恐竜に見つからないように静かに行くよ」
とそろそろ歩いたりもしました。
本当にポポチと二人で冒険に出かけてるみたいでした。
「おっと、お城に到着!」
大きな門の前でゆっこちゃんはポポチを抱き上げました。
実際は小学校をお城にしてみてだけでしたが、ゆっこちゃんは大満足です。
「ゆっこちゃん! ポポチ!」
お母さんの驚く声が聞こえて、ゆっこちゃんは手を振りました。
そしてポポチにこっそり言いました。
「また冒険に出かけようね!」
「わん!」
ポポチの元気な声が空に響きました。
~おわり~
お読みくださり、またたくさんの話の中から見つけてくださり本当にありがとうございます。