安楽椅子ニート 番外編1
「おう宮川、ちょっと来いちょっと来い!」
「・・・なんですか?僕、忙しいんですけど?」
「お前さ、殺人犯に狙われて助かる自信ある?」
「はぁあ?」
「だから、お前さ、殺人鬼に狙われて助かる自信ある?」
「・・・聞こえてますよ。何回も言わなくても。」
「だからぁ、お前・・・」
「分かってます、分かってます、聞こえてますから木崎さん。そんな暇そうな事、言ってんの、木崎さんくらいですよ?」
「ま、そういうなよ?それで、お前、殺人鬼に狙われて助かる自信ある?」
「殺人犯なのか殺人鬼なのか、はっきりしてもらいたいって話もありますけど、事と次第によると思いますが?」
「いやぁ俺なら助かる自信あるね!」
「・・・なんでそんなにドヤ顔っていうか自信満々なんですか?」
「ついさっき瀬能さんちに行って、殺人犯に狙われたらどうやって助かるかゲームしてたんだよ!」
「・・・何ですかそれ?僕、さっき話した通り忙しいんですよ。」
「ま、ま、ま、ま、ま、ま、待て、待て、落ち着いて話そうか。ま、宮川、座れ。コーヒー飲むか?
でな、
ちょちょちょちょちょちょ。待てって。」
「・・・はぁ、はい。」
「話させろよ!
殺人犯が、人を殺して、その目撃者を見つけて、殺すっていう設定なんだよ。」
「・・・ああ、ニュースで見ましたよ。なんか実際の事件であったとかって。」
「お前、知ってるの?なんだよぉ!つまんねぇ奴だなぁ!」
「いやいやいやいやいや。人、呼び止めておいて、それは無いんじゃないですか?」
「まあ、待て。じゃ、お前、どうするよ?殺人鬼から助かれるのかよ?・・・助かれる?日本語あってる?」
「・・・あれですよね?
あの、殺人犯が刑事だかのフリをして、殺人事件の目撃者を探しているっていう呈で、目撃者の家にやって来て、その目撃者が殺人犯を見た!って言っちゃうと、殺されちゃう奴ですよね?
セオリー通り、見てないって言って、殺人犯をやり過ごします。」
「はいっ!でで~ん!宮川アウト!残念ながら宮川君は死んでしまいました!」
「はっ?」
「宮川君アウト!宮川君は死・・・」
「・・・二回言わなくても聞こえてますよ!どういう事ですか?これ、助かるパターンですよ?」
「瀬能さんスキル発動!犯人は目撃者の顔を覚えている事にします!」
「はっ?」
「この効果発動により、目撃者が、犯人を見てようが、見てまいが、犯人が目撃者の顔を覚えている為、殺されてしまいます!」
「・・・なっ、ど、」
「この効果発動によ・・・」
「ですから、聞こえてますって!そういう事じゃなくって、どういう意味か説明して欲しいんですけど?」
「あのな、ようく聞けよ。瀬能さんは目撃者を殺す気マンマンなんだよ、そんな簡単に助かる訳ないじゃん!」
「えっと、あの、瀬能さんは殺人犯側の目線なんですか?そもそもゲームマスターか何かなんですか?」
「バッカ違うよ!殺人鬼が目撃者を狙うっていうあらゆるシチュエーションでゲームしてるんだよ?わかるか?
あと、なに?ゲームマスターって?ポケモンマスターのこと?知らないよ、俺、ポケモン赤しかやってないもん。白黒のゲームボーイの。
ちなみに、俺はここは突破したけどね。
聞きたいか?
じゃあ、教えてやろう。
俺の回答は、酔っ払ってやり過ごす!だ。
へべれけに酔ってて何言ってるか分からない奴だ。おまけに酒臭いし、殺人鬼だって呆れて殺さないハズだ。
俺、自分の才能が怖いよ。」
「・・・でも、向こうは木崎さんの顔を覚えている訳ですよね?酔ってようが殺されちゃうんじゃないんですか?」
「お前、いつの間にか、目撃者を俺にしないでくれる?」
「・・・すみません。つい、興奮しちゃって。」
「そうなんだよ。そこなんだよ。殺人鬼からしてみれば、酔っ払ってて本当に見ていない可能性もあるから、新しい殺人を犯す必要がなくなる。
だけど、次の日、改めて来るって言うんだよ、瀬能さんが。
シラフの時、聞かれたらアウトだってよ!
ふざけんなよ!
そりゃそうかも知んないけど瀬能さんも、もう少し俺を楽しませてくれてもいいって思わない?つまんねーよな?」
「・・・これは、瀬能さんの方が正しいと思いますけど。」
「お前どっちの味方だよ?
ちなみに、瀬能さんの模範解答は、もし酔っ払っていたとしたら、酔っ払いながら、ガスつけて、ガス爆発させて、」
「えっ?あの、えっ?」
「だからぁ、ガス爆発させて、火災報知器を作動させて、近隣住民を呼ぶことで、助かる!
これ一択だそうだ。
・・・いやぁ、こんなん分かんねぇよなぁ!東大王でも分かんねぇよぉ!」
「いやいやいやいやいやいや、木崎さん。
ガス爆発させなくっても、火災報知器とか消防に通報されれば良いだけでしょ?わざわざ爆発させなくても。
こんなん、瀬能さんの匙加減ひとつじゃないですか?おかしいでしょ!」
「・・・でも、お前、殺されてんじゃん?俺以下じゃん。」
「・・・いやいやいやいやいやいや。常識的に考えてガス爆発はあり得ないです。
どこのクイズ番組で正解が、ガス爆発させろ、なんてありますか?
アタック25でそんな答え見た事ないですよ!」
「そこまで言うなら、お前、正式な瀬能さん殺人鬼クイズを出してやろう。」
「・・・別にどうでもいいんですけど、正式じゃなくても、僕、仕事したいんですけど。」
「では、問題です。
殺人犯はテレビの男性レポーターで、自分が犯した殺人事件をレポートしているんだ。事件のレポートをしながら目撃者を探し、そいつも殺す事が今回の目的。
そして、目撃者とおぼしき人物はOL。
ここで殺人鬼に有利なポイントをひとつ!実際の事件では、目撃したとされる人物は犯行を見ていなかった。だからOLは誰が殺人犯か分からない。
殺人鬼の勘違いで殺されちゃうなんてナンセンス極まりないよな~
さて我々は、ここからどうやってOLを生き残るさせるか、って問題だ。いやぁ、絶望的状況だろ?」
「・・・これ、積んでません?犯人に有利過ぎますよ。向こうが顔を覚えていたら、助かりようがないじゃないですか?・・・また、ガス爆発させるしかありませんよ?」
「お前さ、そんなにガス爆発に巻き込まれたら殺人鬼に殺される前に、死んじゃうだろ?バッカだなぁ!」
「・・・えっえ!はぁあ?それ、木崎さんが言います?」
「お前、なにキレてんの?」
「・・・キレてないですよ、キレそうですけど。いろいろ納得いってないだけで。」
「はい、ここで瀬能さんスキル発動!」
「はあ?またですか?」
「だってお前、キレてるし、すぐガス爆発させたがるし、助からないし。瀬能さんスキル発動するしかないだろ?ちょっとヒントを出してやるよ。」
「・・・。」
「お前、冷静に考えてみ?殺人鬼から助かる方法。・・・な~に簡単な話なんだよ。
殺人鬼から見つからなければいいんだ。」
「・・・見つからない?えっ、ステルス能力を使うとかですか?」
「ん?なにそれ?ステルス?・・・なにそれ、アニメの見過ぎなんじゃないの?」
「はぁ~!いや!だから!木崎さんに分かりやすく説明すると、消えちゃう能力ですよ!迷彩って知りません?」
「・・・なにそれ?宮川君、消えちゃうとか言っちゃったら何でもアリになっちゃうでしょ?もう少しマジメに考えてよ~」
「な、なな、ななな、な!はぁ~あ!ガス爆・・・」
「殺人犯はこっちの顔を覚えて探している。でも、助かるには殺人鬼から逃げなくてはいけない。
こっちは犯人の顔を知らないのに、どうやって逃げる?
はい、瀬能さんの特殊スキル発動によって、殺人鬼を特定する事が出来るようになりますぅ!」
「・・・そんなに瀬能さんのスキルは万能なんですか?
はい、わかりました!答えが今度こそわかっちゃいました!今度は自信あります。
千里眼、センリガン!キネティクスアイですよ、松岡先生のセ・ン・リ・ガ・ン!」
「はぁ?な、なんだよ、それ?セ?山吹千里か大江千里しか知らねえよ。ちなみに森下千里はセンリと書いてチリだけどな。」
「・・・木崎さんは知らないと思いますが千里眼と言って、超能力で透視するんですよ!松岡先生の千里眼はちょっと設定が違いますけど。
これなら、犯人が分かるじゃないですか?透視すれば。」
「・・・お前さ、小学生とか幼稚園児じゃないんだよ?良い大人が超能力とか言ってんじゃないよ?恥ずかしくないのか?
エスパーキヨタか?
超能力なんか言ったらゲームになんねーじゃん。なんならさぁ超能力で犯人捕まえちゃえばいいじゃん!捕まえちゃえばさぁ?」
「そういう事を言っているんじゃなくてぇ!あのね、木崎さん、、、セ・・・」
「アニメみたいな事を言っている宮川君に答えを教えてあげよう。
見えちゃうんだ、あるものが。
普通の人に見えないものが見えちゃうんだ。」
「・・・どうせ、パンツが透けて見えるとか言うんでしょ?パンツで犯人を特定するとか?」
「宮川、お前、パンツで犯人が特定できる、ならだよ。一回、パンツ見てないと特定できないだろ?OLが殺人犯のズボン脱がしたの?真面目に考えろよ、まったく。」
「・・・・。」
「このOLには特殊能力があって、視覚が人と違うんだ。色覚異常、色彩異常なんて言われる事もある。昔は弱視なんて言われていたらしいけど。
この色彩が人と違うってどういう意味か分かるか?
単純に、俺達と見えている世界の色が違うんだ。お前が青だと思っている色も赤に見えたりしているらしい。」
「ん?・・・ん?まったく理解できませんが。」
「そもそも色って何だと思う?光の種類によって色は決まるんだ。光の反射で見えるっていうのが正しいらしいけど。可視光線って言って人間が認知できる色の種類には限度があって、紫外線やら赤外線の影響で、同じ物でも、人間が見ている色と他の生物が見ている色が実は違ったりするらしい。
人間でも、特定の地域で生まれた民族や人種、遺伝とかで、多くのそれと違う色彩感覚の持ち主が生まれるそうだ。
戦争で重宝されたらしいぞ。普通の人が探せない場所に隠れている敵なんかも、その人達からすれば丸見えだからな。」
「・・・そういうのは聞いた事あります。・・・目の検査も本当は目の異常を見つけるんじゃなくて、政治的、軍事的に利用する為に集めるテストだとかって。」
「瀬能さん、ほんと物知りだよなぁ?尊敬しちゃうよ、ほんと。
それでな、その色彩感覚が違うOLがたまたま、見ちゃったんだよ、レポーターの顔を。ちょっと違和感があったから。
どう見えたと思う?
レポーターだからテレビカメラの前でしゃべってるよなぁ?
普通の人は分からないよ、もちろんテレビの前の人もだ。何の不思議もない、只のレポーターだ。
ただ、色彩感覚が異なるOLの目に映ったのは、
顔が、ま緑に染まったレポーターの顔だった、とよ。
驚いたのはOLの方だ、顔が、ま緑の男がマイクを向けて近づいてくるんだからなぁ。恐怖しただろうよ。
OLは自分が他の人と色彩感覚が違うっていう自覚があるから、念の為、他の人の顔を見たんだ。そしたら他の人は普通で。
明らかにこの人だけおかしいって事に気が付いた。
だって、顔と手が緑色でべっちゃりだからな。
この殺人鬼、殺した時に返り血を浴びたんだろう。見える血は拭いたと思う。シャワーで流したかも知れない。汚れた服も着替えた。
でも、見えちゃうんだ。
色覚に違いがあることでルミノール反応と同じものが見えちゃうんだ。俺達には見えない血の跡が。
こうやって、OLは殺人鬼を特定し、逃げ出したんだ。」
「・・・なんか、瀬能さんもわりかし、説得力のある事を言いますね。」
「でも、捕まってしまった。」
「えっー!」
「・・・おいっ!宮川!声が大きいよ。もっとちっちゃい声でしゃべれよ。」
「・・・・すみません。えっ、これで終わりじゃないんですか?だって逃げたんでしょ?なんで捕まるんですか?」
「そりゃお前、色覚で分かった所で、向こうはこっちの顔を覚えているから、逃げられねーよ。バカなの?」
「あああ、もう、どうしたらいいんですか?死ぬしかないんですか?そこにガスはないんですか?」
「しかもだ、そのOLはとんでもない失敗を犯してしまったんだ。」
「・・・これ以上何があるんですか。」
「そのOL、殺人犯の緑に染まった顔を見た時、思わず、相手の目を見てしまったんだ。
これが最悪手!もう助からない!一巻の終わり!
宮川お前、大勢の人ごみの中で、意図的に、目と目が合う事ってあると思うか?
ないんだよ。これが。
要するに、OLは自ら意図して相手の目を見た、いや、見てしまったって事になる。
生き物って不思議で、目と目が合うと、視線を逸らせない仕組みらしい。生理的なのか本能的なのかは分からないが、事実、そうらしい。
なんでも、緊張して体が動かなくなるんだってよ。
格闘技やっているような奴は意識的に克服するらしいけど。
自然界じゃどんな動物も目と目を合わせないように暮らしている訳。目と目があったら食べられちゃうからな。」
「・・・ゲームオーバーじゃないですか。」
「宮川君、ここで最後の瀬能さんのスキルを発動させます!
ま緑の血をかぶった殺人鬼の目を見てしまったOLは、あまりの異様さと気持ち悪さから、胃から込み上げてくるものを我慢できず、口からスッぱい物を吐いてしまいました!
ボエェェェェェェエって!
そりゃ仕方ないよ、気持ち悪い化け物に見えたんだから、吐いちゃうよ。当然だよ。
ただし、これが功を奏したんだ。
街中で女がゲロを吐いてたら、お前ならどうする?
とりあえず、嘘でも大丈夫ですか?って心配するよな。早い話、ガス爆発事故と一緒で、一度でも大衆の面前に晒されたら、犯人もおいそれとおかしな行動を取れなくなるって訳。OLからしてみれば、逃げられなくても殺されない状況に持っていけた事になる。
ゲロを吐きちらかして、ターンエンドだ!」
「はぁ、なかなか、考えますね。理にかなっているような、かなっていないような。」
「殺人鬼はレポーターだから、カメラクルーが一緒にいるはずだ。いくら何でもカメラの前で殺しは出来ないだろう。
しかも、いきなりゲロを吐いた女を一般常識として、放置できない。当然、介抱するなりするだろうから、その間、時間稼ぎをすることが可能だ。」
「・・・そうですけど、逃げられないのは一緒じゃないですか。」
「まあ、待て。宮川。
殺人犯はOLに向かって、こう尋ねるんだ。
あなた、この殺人事件現場で何かを見たんですか?
っていきなり確信を突いてきた!
もう逃げ場がないOLは、震える指で、殺人犯を指さし、こう言ったんだ。
・・・あなたの後ろで、頭から血を流した人が、恨めしそうにあなたの首を絞めているのが見えます・・・って。
それを聞いた、殺人鬼は顔が血の気が引いた真っ白な顔になって、どこかへ逃げ出してしまったんだそうだ。
呆然と立ち尽くすOL。我に返るとそこには、ま緑の顔の化け物はいなかった。
そう、OLは殺されずに済んだ。
と、いう訳で、これがファイナルアンサーです!
どうだ、わかったかぁ?」
「・・・えっ?どういう事ですか?幽霊も見えちゃうんですか?」
「もちろんOLはオバケなんか見えていないし、それらしいデマカセを言って切り抜けた訳だけど、宮川、考えてみ?
突然、自分の顔を見て、ゲロを吐いた女が、今、殺してきた奴が自分の首を絞めているって言われてみ?
普段、信心深くない人間だって、怖くなって逃げだすだろぉ?なあ、おい。
殺された奴が男か女か分からないから、最後はごまかしたけどな。」
「うーん、言われてみれば、まあ、はい、そうですね。分かるような、分からないような。」
「『人は殺すけどオバケは怖い殺人鬼レポーター攻め×ギフテッドアイゲロ吐きOL受け』という事らしい。
けっきょく、本当に怖いのは人間だったってオチだな~」
「・・・逆、逆、逆ですってば。幽霊が怖かったから助かった、っていう話ですから。何、聞いてきてたんですか?木崎さん。」
「そうそうそう。瀬能さんが言うには、受けのOLを盛り盛りに盛った設定にしちゃったから、一応バランスを取って、オバケは見えてない設定にしちゃったけど、本当に見えている人もいるらしいぞ。
やっぱり色覚異常とか色彩異常で、見えちゃう事もあるらしい。
人と違う世界が見えちゃうっていうのも怖いよなぁ。
それから宮川、瀬能さんからの忠告な。」
「・・・なんですか?」
「くだんのOLは雑踏の中で殺人鬼の目を見てしまったから、反対に気づかれてしまったけれど、
お前も、街中で誰かに見られていると思っても、絶対に、そっちを見ちゃダメだって、よ。
場合によっちゃ、容赦なく、襲われる事もあるから目と目だけは合わせるな。
反社会的な人ならまだ話し合いでどうにかなるかも知れないけど、心を病んでる人もいれば、それこそ、この世のものじゃない場合がある。
無事に生きていきたいなら、目と目を合わせるな、だってよ。
その前に、そう言ってる瀬能さんの目が怖かったけどな。・・・あの人、見えてるかもな~いやぁ絶対見えてるよな。」
「・・・本当に見えてそうだからやめて下さいよ。」
「おい、ほら、お前、これ。この人、最近よくテレビに出るよな~元警察官。ほんと人気だよな~」
「・・・オレオレ詐欺とか話題が絶えませんからね。あ、インタビュー受けている人、なんか顔色、悪そうですけど。」
「あ」「あ」「吐いちゃったな」「吐いちゃいましたね」
※本作品は全編会話劇となっております。ご了承下さい。