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イタズラ  作者: 蓉司貴史
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偶然

私は周りの人間と馴染むのが苦手だ、だから私は休み時間になると本を読んだ。本を読んでいる間は周りの事が多少は気にならなくなる。雑音が遠のく私は本の世界に集中する。

本はいい。いろんな世界を客観的に見せてくれる漫画やゲームもドラマももちろん好きだが。学校にいる時は当たり障り無さそうな現国の教科書に乗っている自分が気に入った内容の本を図書室で借りて読んでいる。その日図書室に私にとってはとても馴染みのある顔が…彼女を…私は小さい頃から画面越しにみていたのだ。彼女を知っている。可愛らしいでもそこら辺にいるただの可愛い女の子とは少し違う独特の雰囲気を放っている女の子が微かな吐息で眠っている。背中まで流れる薄茶の艶のある髪が頬に落ちる。つい直視してしまった。彼女の目蓋が長い睫がピクッと動く目が…目が合ってしまった微妙な空気が流れる。

すると突然彼女が「本好きだよね山本さんて」

私の名前を認識していたことに驚いた学校では出来るだけ影を潜めて静かに過ごしていたから認識されてるとは思わなかった。まぁクラスが同じだから覚えていても不思議ではないとも思うが。「…」「あぁ…まあそうですね」「私たちクラスも一緒だしどうしてなんかよそよそしいの?」「それはその…」「すみません!」私は踵を返し逃げた。彼女に話しかけられるとは思わなくて正直気が動転した今でも胸が苦しいくらいドキドキしているそれくらい私は彼女の事をよく観ていた。彼女が画面に映るたびに知らず目でおってしまうほどに。学校にいるほとんどの時間を黙ってただ授業を受けて休み時間はただただ本を読んで彼女と同じ空間に居るだけで…私は本を読む周りの音が聞こえないように彼女の声を意識しないように―


窓際の一番前の席にいる彼女。無造作な黒髪のショートヘアで中性的な顔立ちをしている細いが平均女子より肩幅が少ししっかりしている。格好によっては男の子に間違えられそうな佇まいだ。

彼女は休み時間になるといつも本を読んでいる。まるで周りを遠ざけるかのように…話しかけて反応をみてみたい。でも彼女は少し周りを拒絶しているようにも見える。

「かな~!なにみてるの?」

「ん~山本さん」「は?山本?あーあの暗い感じの人かー」「なんかさちょっと男っぽくね?制服スカートじゃなかったら間違えちゃうかもハハッ!」

自分の席に座って山本さんを眺めていた。この席からは山本さんがよく見える。私は昨日の放課後図書室で次にでるドラマの台本をパラパラと眺めていたもちろん一通り目を通して大体の流れは把握してある。あとは頭に台本一冊を詰め込む作業だ。そのはずだったが…「―…すぅ」

(あれ寝てた?)その時誰かと目があった透き通るような黒い瞳とてもきれいだった。私はその人山本咲さんに話しかけた。そうしたら急にそのきれいな黒い瞳を潤ませ顔が赤に染まった何だか少し意地悪をしたいような気分になった。

まぁその前に彼女は駆け出していったけど。

「ん~どうしたもんかな?ふふっ」

こんな商売だ。私は私のファンと呼ぶ取り巻きをもうずいぶん長いこと相手にしてきた。もちろん男性も女性も老若男女色々な人をだ。笑顔で当たり障りのない事を話せば大抵のファンは喜ぶ私はそれを知っている。面倒くさいがそれが巡りめぐって自分の仕事になる事を知っている。だけどさっきの黒い瞳をみて今までにない感情が沸いた。


こんな私だ同級生とまともなお喋りもしたことない私はいつも一人自転車に乗って帰る。

でも今日はいつもとは少し違った。彼女と鈴木佳那さんと少しだけ話せた。でも動揺してしまって逃げてしまった。彼女はきっと不思議に思っただろうそれか不審がられたか。どちらにしろあまり良くない印象を与えてしまったに違いない自分の小心に嫌気がさす。さっきの事を思い出すと顔が熱くなる自分はさぞひどい顔をしているだろう。大袈裟にスピードを上げ顔を横に振る。今日はバイトだ気持ちを切り替えて働かなくては。本を買うのもドラマを借りるのもゲームを買うのも結構お金がかかる。

少し古びただけど味のある喫茶店私のバイト先だ。「おお!咲ちゃんきょうもよろしく!学校お疲れ様」気の良いマスターだ。「今日もよろしくお願いします」「ああ頼んだよ」「咲ちゃんなんか今日顔赤くないか大丈夫?」「はっはい何でもありません」「そうならいいけど早速だけど皿洗い頼んでいいかな?」「はい」持ってきていたエプロンを急いで着る。

バイト…とはいえ接客はマスター任せだ私は主に皿洗い簡単な調理補助閉店した後の掃除。

でもせっかく勇気を出して面接して合格したのだ。私に出来る範囲の事は懸命にやらなくては。「はい!今日もお疲れさん今日はお待ちかねの給料日だ」「ほんと咲ちゃん頑張ってくれるから俺も助かるよ」「あの…いえお給料ありがとうございます」「まぁそれは当然の報酬だからな咲ちゃんが来てくれて本当に良かった」「ありがとうございますお疲れ様でした」「お先に失礼します」働き始めて一月始めてのお給料だとても嬉しい。私は幾分機嫌が良くなり家路を急いだ。

家で夕食を食べた後お風呂に入り一日の疲れを癒す。自分の部屋に戻った後今日の学校での出来事をまた思い出していた。そうだ、あの鈴木佳那さんと始めて話をしたのだ自分の醜態を思い出して何だかもやもやする。でも眠ってしまえばこのもやもやからも一時は解放される私はバイトの疲れもありすぐに眠りについた。


山本さんは本を読みながらこくこくと船をこいでいた何だか珍しい光景だいつもは誰かを遠ざけるように懸命に本を読んでいるから…やっぱり私は彼女に話しかけてみることにした。

「山本さん眠いの?」「ん…え?」彼女はそのきれいな瞳に私を写していた。本当に吸い込まれそうになるこの黒いきれいな瞳が潤む事を想像すると意地悪な気持ちが沸々と沸き上がってくる。「ねぇ山本さん今日の昼ごはん一緒に食べない?」「私いいとこ知ってるの」「え?」彼女の黒いきれいな瞳が大きく見開かれる。

口をわななかせて次に言う言葉を探しているようだ。その顔もすごくいい心がくすぶられる。やっと彼女は言葉を紡いだ。「…どうして」「ねぇ私とごはん食べるでしょ」「ん……はい……」声もいい高くもなく低くもなく耳が心地いい。そう、何だか無性に胸が高鳴る。

「じゃ行こっか」「…」喋らなくなってしまった。まぁいい、彼女が隣に並ぶと少し高い位置に頭がある。へぇ意外と背が高いんだ。

私もけして低い方ではないでも彼女の方が背が高かった。新しい発見。彼女は意外なところのかたまりだ。あの瞳といい山本さんは私の心を揺さぶってくる。何て言えばいいのだろうとにかく変な感覚になるのだ。

彼女は手に紺色の手提げ袋を持っている。

「山本さんて自分でお弁当作ってるの?」

「…はいあの…喫茶店でバイトをしているので少しでも料理作るの上手くなりたくて…」

「へー喫茶店でなんて名前の店なの?」

「喫茶青石って言うお店です」「あぁ知ってる!結構前に撮影で使った店だここからそんなに遠くないね」「売店でパン買ってくるからちょっと待ってて」歩きながら話をしてたら売店のすぐ近くだ。適当にパンを買って戻る。

「あっ…あのいいところって…」「まぁついてきて秘密の場所なの」(資料室)「ここ鍵が開いてるのふふっ」少し埃っぽいがイスもあるお昼ごはんを食べても大丈夫だろう。私はここを発見してからは大体ここで台本を覚えていた。

あの日はほんの気まぐれ。たまには図書室でもと思って台本をみていた。眠ってしまったが。あの気まぐれがなかったら山本さんとは話していなかっただろう。こうしてここに連れてくることもなかった。

「さぁ入って」山本さんはゆっくり少しきょろきょろしながら資料室に入っていく。

「あの…鈴木さん先生に怒られないかな…」

「大丈夫だいぶ前からここ使ってるけど先生なんて来たことないしバレなきゃ大丈夫でしょ」「でも」「心配性なのねふふっ」髪をさわって撫でる意外なほど毛が柔らかい彼女は恥ずかしそうに顔を伏せる。伏せた睫が長い。瞳ばかり気にしていたが良く見ると鼻筋も通っているし眉毛のかたちも唇の厚さも整っている。長い前髪を上げて男子の制服を着せれば女子がさぞ盛りあがるだろう。

そっかこの人は自分の容姿が優れてる事に気づいてないのだ。態度をみていて思ったが自分に自信がないのかもしれない。

「あ…あの鈴木さんくすぐったいです」頬がまた赤くなっている。彼女が身じろぐ自分でもわからない変な気持ち意地悪をしたいような優しくして彼女の微笑みをみたいような胸がざわつくもしかして私は興奮しているのだろうか?でも興奮て?相手は女の子だ自分の気持ちが良くわからなかった。

「ふふっくすぐったかった?ごめんね」「…ん」「じゃごはん昼飯でも食べますか」「いっただっきまーす」「…いただきます」イスを向い合わせにして一緒に食べる。適当に買ったから何のパンか見た目ではわからなかったどうやらコロッケパンのようだ。「鈴木さんパン一つで足りますか?」「ん~そんなお腹空いてないしちょうどいいかな」山本さんのお弁当をみる。野菜に唐揚げ卵焼きウインナーにふりかけのかかったごはん美味しそうだ。

彼女はゆっくり卵焼きを食べている。

箸の動きはゆったりと動きはゆっくりでとても丁寧な食べ方だ。「その卵焼き美味しそう」

「あ…の一つ食べますか?」そこで私は面白いことを思い付いた。彼女の口の中には卵焼きの味がまだあるはずだ。彼女の顎にそっと手を伸ばし少し上向きにする。「…っ」驚いているようだ私は彼女の唇に自分の唇を合わせる。

彼女の口腔ないに舌を滑り込ませる。優しい甘さの卵焼きの味を感じる。「…ふっ…ん」彼女は苦しそうなでもそれだけでも無さそうに吐息をこぼしていた。ああまたその瞳。顔も赤らんで私を写す瞳は驚きと羞恥が浮かんでいた。

「卵焼きすごく美味しいね」私は彼女に微笑みかける。


私は学校の自分の席で本を読みながらいつもは感じないほどの眠気に教われていた。昨日は借りてきたドラマ鈴木佳那さんの子役時代のドラマを夜更けまでみていたのだ。彼女の演技はけして自分が目立つような演技ではない相手の役者さんを引き立てるような…でもとても目を引くのだ。

四話までみていた自分は普段そこまで夜更かしするタイプではない。だけど佳那さんの事をずっとみていたい。学校では会えるが子役時代の佳那さんをみれるのはドラマの中だけだ。

今の佳那さんは子役のときよりも美しさ可愛らしさが増している。図書室で眠る彼女自分にとっては可愛すぎて美しすぎて目が離せなかった。



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