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托卵してぇ

作者: 雉白書屋

 とある夜。男はそっとドアを開け、家の中を進む。彼が目指していたのは、この僅かに聞こえる音のもと。心臓はそれを阻害、張り裂けそうなほど激しく鼓動していたが、気づかれてはならない。不意打ちを狙っている。ある意味ではそうだ。彼は泥棒……違う。それはある意味、相手のほうだ。

 

 ――ガチャ!


「え、あ、あなた、出張じゃ! あ、こ、これは違うの」


「お前ぇ……いや、お前らぁぁぁ……」


 彼が今朝、妻に出張と偽り家を出た理由。前々から浮気を疑い、この夜。その現場を押さえよう考えたのだ。

 その企みは成功といえた。だが、彼は何度も頭の中で(苦痛を伴いつつ)シミュレーションしたにもかかわらず、戸惑いを見せたのはその相手の男というのが


「……よう」


「よう、じゃねえぞぉぉぉ、お、お前、親友だと思ってたのに!」


 そう、中学生時代からの付き合い。彼の唯一無二の親友であった。


「落ち着けよ……知られたくなかったがしょうがない」


「なに落ち着いてんだよ! まず謝れや!」


「あ、あなた、その、でも、未遂! そう未遂よ! 彼のことはあなたより好きだけど、あ、違くて、でも、あの、今夜が初めてだったの! チャンスだと思ったのよ! ラッキーって!」


「……ふぅー、よし、お前は黙ってろ」


「あなたはだってアレがイマイチだし、でも彼のはすごくて、あ、すごいといってもまだよ、まだ見ただけ! 触って、それから舐めもしたけどその大きさはすごくて、あの、でもまだ未遂で」


「頼むから黙っててくれ。いや、ホントに。どんどん地雷を踏んでるんだよお前は」


「もう少しだったのに……タイミングが悪いのよねぇ」


「お前……」


「彼女の言うとおりだ」


「はぁ!?」


「ああ、そういう意味じゃなく、未遂って意味だ」


「そうか……じゃあいいかってなるわけがないのはわかっているよな? なあ、なんでだよ。なんで、そんなにおれの妻としたかったのか? 別にそんな素振りも何もなかったのに、どうしようもなく好きだったのか? 酒でも入ってたか? なあ親友だろ? なあ、なあ! なんとか言えよ! おれがそんなに憎かったのかよ!」


「違う! その逆だ!」


「はぁ、はぁ、逆……?」


「ああ、おれはただ、托卵したかっただけなんだ!」


「ん……違くねえじゃねえか!」


「違う! おれは! お前を最高の男と見込んで、おれの子をお前に育ててほしかったんだよ!」


「お、おぉ……いや、一瞬考えたけどお前、最低だな!」


「最低なもんか! おれだって悩んださ! 悩んで悩んで、我慢することに決めたんだ!」


「我慢してねえじゃねえか!」


「お前の妻を抱くことだよ! 全然タイプじゃない!」


「お前、クソ野郎かよ!」


「おれは、どうしてもお前におれの子供を育ててほしかった……」


「この、なに泣いて、いや、泣きたいのはこっちだよ。何だよその熱意は……ん、でもお前がこんなこと……理由……まさか、お前、ガンかなにかで……」


「じ、自分の子だと知らずに、お、おれの子に愛情を注ぐお前を想像すると、ふふっ……」


「笑ってんじゃねえか!」


「わぁ、またおっきくなったわぁうふふ」


「興奮もしてんじゃねえよ! あとお前は黙ってろ! それからもう離婚だ離婚! 二人とも出てけよ! もう好きにしろ!」


「それは困る!」


「はぁ!?」


「お前は何を聞いていたんだ! おれはお前に托卵したいんだよ! わかるか!? お前が妻と離婚したらそれができなくなるだろ! だが、どうしても離婚するというのなら仕方がない。ただ、おれはお前が再婚した時、お前のその妻を狙うからな!」


「おま、お前……もう、おぉ、すごいな……なんなんだよもう……」


「あなたはただ目をつぶればいいのよ。今夜だけ、ちょっと早めに夢を見たと思えばいいのよ」


「だから黙ってろっての!」


「おまえのことがぁ……好きなんだよぉ……」


「怖いよ。べつにお前、ゲイとかじゃないんだろ? 普通に彼女いたし、そもそも結婚だって、あの子と……」


「あの子って?」


「チッ……こいつと同じく、おれの幼馴染だよ。その子は小学校の時から一緒で知ってるけど、美人で、可愛くて、性格も良くて、子供だって生まれたばかりのくせに、こんな、こんなことして恥ずかしくないのかよ!」


「……検査の結果、おれの子じゃなかったんだ」


「……え?」


「誰の子かまではわからないけどな。心当たりも無きゃ、知りようがないしな」


「それ、お、奥さんには……?」


「まだ訊けてない。あいつはあいつでおれの子だと思っているようだけどさ。それで、ははは、脳破壊ってやつかな? 冷静になって考えてみたら、おれは頭がおかしくなってたのかもなぁ、ごめんな……はははは……一体誰だろうなぁ……あぁ……」


「苦しかったのね……ねえ、あなた、許してあげたら、ん? どうして黙っているの? ねえ、何で目を閉じているの? ねぇ、ねぇ……」

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― 新着の感想 ―
[良い点] 中盤まで完全にコメディ。 [気になる点] 後半からラストがホラー。 [一言] 通して読むとミステリーだった。
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