ジン9
ギルド『本部』
朝早くても中は混んでいる。
早朝出発のパーティーもいれば、帰宅したパーティーもいるし、朝一番で報酬の高い依頼を請け負いたいパーティーやら、日帰り依頼をしたいパーティーなんかもいるからだ。
その早朝出たばかりの依頼をザッと見て、張り出しの一枚を手に取る。
***
『依頼内容』→真っ裸の男捕獲
『場所』 →王都城下町
『難易度』 →無
『報酬』 →サブギルドマスターのハグ
対象者真っ裸男
『支払い』 →サブギルドマスター・ザナギ経由
対象者真っ裸男
『注意事項』→二階連行事案
『その他』 →依頼ルール破り黙認
***
ジンは仕方なく二階へと上がった。
「ジン様、おはようございます。ザナギ様からこれをお渡しするようにと」
コンシェルジュから紙袋を受け取る。
中は服だ。
どうやら、ザナギがすでに事の次第を把握済みなんだろう。ジンの住まいにいること含め。
「はい。えーっと、後で連行してきます」
コンシェルジュがフッと笑って見送った。
「……ただいま」
「ん、おかえり」
バレンスが真っ裸エプロンでお玉を持っている。
腰布しか巻いていないから、そう見えるだけだけれど。
ジンは紙袋を投げつける。
「着替えろ」
「あ、やっぱり? 俺のセクスゥィーエプロンじゃあ、悩殺されちゃうよな」
「ギルドのサブマスター事案になってるから、さっさと着替えて行かなきゃ、門兵職失うかもよ」
「なあぁぁにぃぃっ!」
ジンは依頼書をヒーラヒラと見せる。
バレンスがそれを見て、冷や汗をかく。
「ちょ、なんでサブマスがぁぁ」
両手で頭を抱えて、膝をついてしまった。
「そりゃあ、真っ裸で王都を疾走するからだろ?」
バレンスが悲壮感たっぷりの顔で紙袋を掴む。
「サブマスのハグって……」
「うん、あの筋肉隆々の上腕筋で体幹締め付けの刑と、神龍グルグル巻きコンボじゃね?」
「殺生な……」
「まさに殺すか生かすか」
「ジン、俺出頭拒否したい」
「じゃあ、こん棒グルグルで捕獲するけど」
「わ、わかったって」
こん棒に手をかけたジンに、バレンスは渋々服を着た。
で、二階なわけ。
「さてさて」
バレンスが冷や汗ダラダラ流しながら正座している、ザナギの足下で。
「本当は、激アツハグの予定だったが、ちょっと野暮用ができてしまった」
バレンスの顔が、パッと明るくなる。
「お供をよろしくな、バレンス」
ザナギがバレンスの肩に手を置いた。いや、ガッツリ掴んでいる。
「はひぃ、……ぃっ、ぃたいぃぃ」
「なんか言ったか?」
「い、いいえ。私は寡黙で無害な男でっす」
バレンスは引きつり笑いで敬礼している。
「あの、ジンもでしょうか?」
バレンスが期待を込めた目でザナギに問う。
「あ? そうだなあ……ジンも来るか?」
「野暮用が依頼なら無理ですけど」
今日は依頼を受けてはいけない強制休日だから。
「いや、……散歩だ。付き合え」
ザナギがパチンと指を弾き天井を差す。
バレンスが『ヨッシャ』と小さく握り拳を作ったが、『飛龍紋神龍の』散歩だと察する。
つまり、空中散歩なわけ。
「その散歩なら付き合います」
「じゃあ、バレンスが落ちないように捕獲しておいてくれ」
「へ?」とバレンス。
ジンはこん棒を引き抜き念じる。
『バレンスを捕獲!』
(任せろ)
一瞬にして、バレンスはこん棒にグルグル巻きにされた。
「な、なんでぇぇぇーーー」
天井窓全開にしたザナギと共に、神龍を発動させながら昇龍した。
「ひゃあああぁぁぁーーー」
こん棒で捕獲されたバレンスが絶叫する。
「たっしゅけてえぇぇぇーーー」
ザッケカラン王都ギルド『本部』から双龍となった神龍に乗り、ジンとザナギは天に昇る。
「あーれれ、もう気を失ったか」
ザナギがバレンスの白目失神を眺める。
グルグル巻きにされ、龍のように伸びたこん棒がしなやかに空中で揺れている。
「もう、罰は終了でいいのでは?」
ジンはザナギに言った。
「いや、まじで遠出の野暮用だ。このままシーララス研究所に行く」
「……了解です」
シーララス研究所は、マジックアイテムの発明開発する研究所だ。
王都から北方の遠く離れた台地にある。
王都にないのは、開発時の由々しき事態を被らないためである。
開発に爆発やらなんやらは付きものだから。
「昨日の試用報告と原料運びだ」
記録水晶と映像台座を渡しに行くらしい。
それから、ランジが採取したメロウ花もだろう。
「あれ(マジックアイテム)の開発者がシーララス研究所所長でさ。映ってる本人連れてった方が、面白そうだろ?」
「拒否権なしっぽいですね」
「まあな」
ジンは仕方なく、ザナギの神龍に続いた。