ジン8
ジンの住まいは、東関門に近い小屋だ。
元々は門兵の休憩小屋だった所である。
東関門に捨てられていたジンは、勇者紋持ちだったため、ギルド『本部』預かりで現ギルドマスターが保護していた。
ジンの育て親はギルドマスターである。
だが、十五歳で召喚武器を賜り、冒険者登録をしてからは、ギルドマスターの傍を離れて一人暮らしを始めた。
捨てられていた場……ジン始まりの場に近い東関門で。
「……ただいま」
誰も迎える者はいないが口にする。
ジンは腰鞄を外して椅子にひっかけ、自身もそのまま腰を下ろした。
(報酬を確認せんのか?)
こん棒じじいが言った。
「ん、わかった……」
ジンは気怠げに腰鞄を開けて、報酬金通帳を開く。依頼完遂が承認されると入金されるマジックアイテムだ。
ギルド『本部』専門店で最近売り出された新商品で、まだまだ普及はしていない。
なんだかんだ現物支給が好まれるから。
だが、一匹狼のジンにはありがたいマジックアイテムだ。大金を所持しなくてもいいし、その管理にも神経を使わなくてすむから。
「ちゃんと入ってる……なあ、じじい」
(なんだ?)
「次は吊り橋張り替え依頼でいいか?」
ジンは相棒に一応お伺いを立てた。
(いつも言っとるが、依頼なぞ、なんでもいいわい)
「んーっと、でも今回の魔物関連依頼、楽しそうだったから」
(そのうち、嫌でも魔物討伐するじゃろうから、急ぐ必要はない)
ジンは口にしないものの、こん棒だけで討伐するイメージがわかない。
ザナギが仲間を持てと言うのも、こん棒では討伐が難しいとわかっているからだろう。こん棒でできるのは対象物の捕獲。トドメを刺すには仲間が要るわけだ。
今回の依頼は討伐依頼じゃないから引き受けた。
(わしの真の力はまだまだ発揮できていないぞ、小僧め)
ジンの思いを察してか、こん棒じじいが言った。
(小僧がわしと一緒の高みまで到達したら、真の力を得られるぞ。まあ、のんびりやれ。ランジの二の舞いにはなるな)
「のんびりか……でもさ、じじいの寿命が先に来ちまうんじゃないか?」
(けっ! 口だけは達者になりおって!)
ジンは笑いながら立ち上がり、夕食の準備を始めた。
一人しかいない住まいだが、こん棒じじいのおかげで、ジンに孤独感はないのだった。
翌日は、強制休日。
ドンドンドン
ドンドンドン
「ジーーン!」
早朝からとんでもなくうるさい。
ドンドンドン
ドンドンドン
「起きてくれーー、ジーーン!」
「静かにしろって……」
ジンは寝ぼけ眼で起き上がり、扉を開ける。
「ヨッ」
バタンッ
ガチャ
すぐに扉を閉め鍵をする。
「ちょ、ジーーン」
ドンドンドンドン
「あーけーてー」
「無理」
真っ裸。
起きがけ真っ裸な男を家に入れるなど、正気の沙汰じゃないから。
「頼むよおぉぉぉ、頼んますよおぉぉぉ、ジンしか頼れねえんだよおぉぉぉ」
クローゼットからシャツと大判の布を出して、シャッとカーテンを開けて窓の方から放る。
「ありがたや」
男は腰に布を巻き付けてから、シャツを羽織る。
だが、ピッチピチ。
そりゃあ、細身のジンのシャツでは致し方ない。
男は、あの馴染みの東関門の門兵だ。
「で?」
窓越しで訊く。
「入れてくんねえの?」
「理由を聞いてからなら」
「昨日、北門の奴らに負けた」
東西南北の関門兵仲間で酒飲み対決したらしい。
負けたらが真っ裸になるっていう。
昨晩の勝者は、北門兵だと。
「阿呆でしょ、それ」
「俺だけ、出迎えのネエチャン(彼女)いなくて、着替えなしでここまで走ってきたんだ」
寂しかったよっ、と両指の人差し指をジンに向ける陽気な門兵に、脱力するしかない。
「……朝飯準備してくれるんなら、入ってよし」
「任せてくれよっ」
またも両指差しで調子のいい返答だ。
ジンは仕方なく、玄関の扉を開けた。
「何食いたい?」
「バレンス、とりあえず水でも浴びれって。ちょー酒くせえから」
ジンは東関門兵バレンスに言った。
バレンスも家族がいない独り身の男である。
魔物に家族をやられて失っている。ジンより十以上年上だ。
「ぅぃっす」
バレンスは昨日のジンの返答を真似る。
ジンはバレンスにローキックをかましておいた。
「はあ……休日なのに惰眠ができなかった」
ジンは魔核ストーブの火を起こす。
火吹き系魔物の魔核が燃料のストーブである。薪より安全で効率がいいのだが、いかんせん魔物の核であるため一般人には不人気の代物だ。
門兵小屋だったから、台所はなくこのストーブが唯一の調理場である。
ジンは鍋に水を入れてストーブの上に置いた。
「さっぱりしたぜ」
腰布だけのバレンスが戻ってきた。
「朝飯作っておいて。服、用立ててくるから」
ジンはそう言って、ギルドに向かう。
早朝に開いているのは、ギルドしかないからだ。
どうせ、真っ裸な男の疾走が、ギルドに報告されていることだろう。
第一感想いただきました、
ありがとうございまする。
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