ジン7
「無理です」
ジンは即答した。
「俺が声をかけたら」
「そんな繋がりは、すぐに破綻するでしょう」
『本部』サブマスター直々に言われたら、顔を立てて仲間にならざるを得ない。
そんなパーティーが長続きするとは思えない。
「せめて、短期パーティーぐらいは経験しとけって」
人手が要る依頼はパーティー何組かが集まったり、その依頼単発の即席パーティーが組まれたりする。
勇者以外の人員はけっこう溢れていたりするから、そういうパーティーへの参加で、名の知れた勇者に顔を売るのだ。
後々声をかけられることもあるから。
だが、こん棒勇者ジンと仲間になりたい者はいないだろう。
「考えておきます」
ジンはいつもの返答をして、ザナギの部屋をそそくさと出た。
一階に下りたジンは依頼書の張り出された壁を眺める。
ジンが見ているのは、カテゴリーがサポート依頼のもの。
ポピュラーなものを言えば、薬草採取。マジックアイテムの原料採取が多い。その他には子守りや買い物随行や代行、魔物研究所掃除なんてのもあったりと、多種多様だ。
ただ、サポート依頼であっても難易度が高いものもある。希少原料の採取や、毒草除去、危険な警護、ダンジョンポーターなどは報酬も弾む。
難易度と危険度の低いサポート依頼は、ギルド登録されたばかりの冒険者が手がけることが多い。
ギルド登録が可能な年齢は十五歳から。
ジンも十五歳で武器を賜り、冒険者デビューをした。
ジンの目に珍しい依頼が留まる。
「吊り橋の張り替えか……」
渓谷の吊り橋張り替え依頼だ。飛龍紋の勇者を指定している。
それも、翼竜でなく神龍希望事案。
確かに、吊り橋の張り替えなら飛翔龍を使えば、格段に作業が早く済む。翼竜では翼の風で吊り橋作業が滞るから、神龍を希望するのだろう。
難易度は低いが勇者指定事案で、その勇者も稀なため報酬が若干高め。
「こら、ジン。依頼間休憩のルール無視か。お前、今日依頼終えたばっかだろ?」
依頼を続けて請け負ってはいけないルールがあるのだ。依頼と依頼の間に休日を入れるルールだ。
ジンは声をかけてきた男と拳を軽く突き合わせる挨拶をした。
「ランジも帰ってきたばっか?」
「おおよ、見ての通り」
ランジのボロボロ具合は、けっこう酷い。
パーティー仲間らも同様に。
ランジは獅子紋の勇者で、ジンと同じようにサポート依頼をメインに今は活動している。
ジンより二歳上の駆け出し冒険者。
ランジは十五歳時、初っ端の依頼で大怪我を負い、数カ月ベッドの住人だった。それもこれも、経験を積むことなく、魔物討伐依頼を請け負ったせい。
十五歳デビュー勇者によくあることで、召喚された荘厳な武器に気を良くし、能力を過信した結果である。
ランジはそれから一年リハビリし、回復後数カ月かけ基礎体力をつけてからサポート依頼を地道にこなして経験値を積んでいる。
というわけで、年齢はジンより上だが、活動的にはほぼ同期である。
「どこに行ってきたんだよ?」
「メロウ花の採取。酷い目に遭った」
メロウ花とは上級魔花である。
目がある不気味な魔花で、その目を見てしまうと気を失う。採取するのが面倒な魔草だ。
そういえば、メロウ花の目があのマジックアイテムの原料だったな、とジンは思い浮かぶ。ザナギには、内密にと口止めされたあの記録水晶と映像台座のことだ。
メロウ花採取の難易度は高くはない。ジンは少し首を傾げた。
ジンのその反応にランジは苦笑いした。
「いやあ、採取は問題なく済んだんだ。だけどさ、帰路で吊り橋が使用できずに遠回りしたら、大型魔物の群れに遭遇しちゃって」
ランジらは必死に逃げ走って帰ってきたらしい。
ジンは、さっき見た依頼書を一瞥した。
ランジもジンの視線を確認する。
「そう、それそれ、その吊り橋だ」
ジンはランジにニッと笑った。
ランジもニッと笑い返す。
「じゃあな」
ランジはジンがその依頼を受けるとわかっただろう。
とはいえ、休日を挟まないと受付はできない。
「またな」
ジンもランジに返答し、ギルドを後にした。