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ジン6

「到着っと」


 ジンのアジトーーザッケカラン国。

 王都東関門前。

 ジンはひと息つく。


「おお、ジン、帰りが(はぇ)な」


 馴染みの門兵がジンに声をかける。

 今朝方出発して、夕刻前に帰ってきたから。


「ぅぃっす」


 ジンは小さく頷きながら応えた。


「テンション低っ」


 門兵がそう言いながら苦笑した。

 ジンはいつものように右手甲の勇者紋を見せる。

 勇者紋は、体に刻まれた通行証。


「確認した」


 関門が開く。


 ザッケカラン王都は三重壁の造りになっている。

 一番外側の一の壁には東西南北に関門があり、人の出入りを確認している。

 二の壁までの間がいわゆる城下町というやつだ。

 二の壁から三の壁の間はザッケカラン心臓部。国の施設が並んでいる。

 三の壁は城門となる王家の居城入口。三の壁の城門は表門と裏門があり、基本は表門しか人の出入りはできない。

 裏門が稼働するのは緊急時のみ。裏門は隠し扉のように、どこに存在するかわからないようにできているらしい。


 ジンは一度だけ城内に入ったことがある。

 ……そう、十五歳で行う武器召喚の儀式のときだけ。

 ジンの勇者稼業はまだ一年ほどで短い。


「ジン、またな」 


 門兵が手を振った。

 ジンもニッと笑って振り返す。

 あの門兵は、こん棒勇者のジンを嘲笑うことのない奴だから。

 門兵が変顔しながら、関門をしめた。


「相変わらず、おもしれー奴」


 ジンはギルド『本部』に向かって歩き出す。

 今日も今日とて、クスクスと嘲笑を向けられるけれど気にしない。


「おぅおぅ、こん棒少年、お遣いはちゃーんとできたか?」


 ジンの肩に肘を置いた男は酒に酔っているのか赤ら顔である。

 ジンは成長期であるが、まだ十六になったばかりでそこまでタッパはない。


「いい子いい子してやろう」


 こういうのも日常茶飯事で、ジンは頭を撫でようとするゴツい男の手をペシンと払い除けた。


 だいたい、ジンは知らない男なのだ。

 だが、相手はジンを知っている。

 そう……こん棒勇者ジンを知らないザッケカランの者はいないだろう。

 武器がこん棒、ジンの知名度は高い。一匹狼然り。そして、ジンは十六年前東関門に置かれていた捨て子だ。

 ザッケカラン王都で、ジンを知らない者など潜りである。


「つーれなぃねぇ」


 男の言葉を背に、ジンはギルド『本部』へと向かった。




 ザッケカランの王都ギルド『本部』は、休みなく一日中一年中稼働しているギルドだ。

 酒場や飯屋等と兼業している地方ギルドとは違い、『本部』はギルド業しか担っていない。

 とはいえ、『本部』の建物と並び、酒場や盛り場、飯屋に宿屋、武器屋に防具屋、道具屋などが連なっている。


 ジンは『本部』の入口を(くぐ)る。

 ガヤガヤと『本部』内は賑わっている。

 入口付近に依頼書がカテゴリー別、難易度別で張り出されており、左奥に進むと受付がある。右奥はギルドしか扱わないマジックアイテム専門店だ。


 受付側と専門店側にそれぞれ二階に上がる階段がある。


 受付側を上がると、サブマスターが直に受付をする高難易度な依頼や厄介な依頼を受付する専門の場になる。二階案件と呼ばれている。

 そして、一番奥にギルドマスターの部屋がある。


 専門店側を上がると診療所。依頼で負傷した者らの駆け込み所だ。


 ジンは、受付側の階段を上る。


『あんなこん棒小僧が、二階行きとはな』


 陰口が聞こえてくる。

 二階に行ける者は少ない。サブマスター直々の呼び出しや、ギルドマスターの許可がないと行けないのだ。

 

『マスターのお遣い稼業だもんな』

『小間使いだろ』


 などとヒソヒソコソコソと言われているが、これも日常茶飯事。

 ジンは二階に上がる通過儀礼だと思ってやり過ごす。


「ジン様、お帰りなさいませ」


 二階専任のコンシェルジュらが出迎える。

 依頼との相性を見極め、必要な情報やマジックアイテムやらなんやらをサポートするのが、ギルドコンシェルジュの役割だ。

 ちなみに、『本部』にしかその役割の者はいない。


「ただいま戻りました」


 ジンはコンシェルジュにペコンと頭を下げた。

 一階は受付係、二階はコンシェルジュ。

 兼任で二階の警護も担っているから、武器も所持している。知性礼節剣術、文武両道の者しか基本的にはコンシェルジュになれない。

 もっぱら、元賢者が第二の人生の職業とすることが多い。


「ご無事で何よりです」


 スマートにジンを促して、受付部屋に案内してくれる。

 二階では個室で受付や達成報告が行われる。

 二階の個室はサブマスター部屋でもある。

 現在、『本部』には三名のサブマスターが居る。ジンが今回担当した依頼を受付たのは、その一人ザナギ。ジンと同じ飛龍紋の元勇者である。


 コンコン

 

「失礼します。ジン様、お帰りでございます」


 扉を開けたコンシェルジュに続いて、ジンは入室する。

 今朝と変わらず、机の上は書類が山積みになっている。というか、増えている。


「ジン、すまんな、面倒事を押し付けて」

「いえ、大して面倒ではなかったです」


「そっか。そう言ってもらえると気も休まる」


 ザナギが、机の上の書類と格闘しながら応えている。

 年は四十を超えた壮齢、無造作オールバックの髪は色気あり。


「よっしゃ、分類作業終了。この依頼完了事案を、マスターに持っていってくれ」


 ザナギがコンシェルジュに書類の束を渡す。


「かしこまりました。では」


 コンシェルジュが出ていって、応接セットにザナギはジンを促した。

 ジンはソファに座って、回収袋と領主承認印が押された依頼書をテーブルに置いた。

 ザナギがそれらを確認して頷く。


「あれは?」

「はい、滞りなく。どうぞ、全行程は記録水晶に収めてきました」


 ジンは上着の中に入れていたネックレスを取り出して、ザナギに渡した。


「このマジックアイテム試作品が運用できれば、あらぬ誤解はなくなる。依頼者と完遂者、どちらの言い分も客観的第三者視点で確認できるからな」


 ザナギがネックレスの水晶を取り出し、燭台のような台座に置く。それもマジックアイテムである。


 水晶は、白壁にジン視点の映像を映し出す。


 王都関門から中継地点を経てネバラン自治領での様子に、辺境伯の塔での出来事までを。


「滞りなく記録できているな。だが、ちょっと映像と音声が不鮮明だが……認識できないほどじゃあないか。これがあれば、事実無根だとネバランは言えまいし」


 ザナギが小さくフッと息を吐いた。


「はい」

「ジンに頼んで良かったよ。あー、それとこれのことは内密に」


「はい」


 ジンは頷いた。

 試作品のマジックアイテム、記録水晶と映像台座のことだ。


「じゃあ」

「ちょ、待て」


 立ち上がったジンに、ザナギが呼び止める。


「はい?」

「ジンお前さ、そろそろ仲間を持てよ」





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