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ジン(第一部終わり)  作者: 桃巴


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ジン45

 ジンが浮上してきたとき、アッシュが湖に飛び込もうとしていた。

 その表情には焦りがみえる。

 青色の葉汁を出すグリネはなかったのだろう。


「アッシュ殿下!」


 ジンは十二連のグリネを一房掲げた。


「ありましたよ、たぶん、これが探していたグリネです」

「本当か!?」


 ジンは湖のほとりへと上がる。


「それがか? 未熟な育ちではないか?」


 アッシュが怪訝そうに言った。


「これこそが、ナーシャ姫の紋様と同じ十二連の雫葉のグリネです」

「十二の……! なるほど、そうか、そういうことか」


 アッシュがナーシャの紋様を思い出して頷く。


「きっと、これが正解です」

「よし、確認しよう」


 アッシュが雫葉に手を伸ばす。

 だが、ジンはその手を掴み取った。


「ひとつ潰すと十一連になってしまいます。潰したら供物にはできなくなります。ですが、確認せずして儀式には臨めません」

「……ああ、確かにそうだ。どうすればいい?」


 ジンは龍湖を見る。


「私が採取したグリネは確認用。アッシュ殿下が儀式用のグリネを探し出してください。『神が与え給うた』十二連です。きっと、今日だけ存在するものなのでしょう。お間違えのないように」


 ジンはアッシュの手を離した。

 アッシュの眼差しが龍湖に向く。


「探し出さないと、確認せずに一か八かで儀式になりますから」

「ああ、わかった」


 アッシュが龍湖に飛び込んだ。


 しばらくして、

 十二連の一房を掲げて浮き上がる。

 ジンは、自身が採取したグリネの葉を潰す。

 小瓶(シリンダー)に入れた涙と同じ色を、グリネは流した。




 龍湖の上空を神龍が旋回する。


「アッシュ殿下、見てください」


 ジンに促され、アッシュが眼下を眺める。

 行きは気絶していて見ていなかった龍湖を。


「瞳のようだな」


 龍湖は丸く、中央がエメラルド、エメラルドをサファイアブルーが囲んでいる。そして、外側は黄金に光り輝く澄んだ湖である。

 まさに、水晶体と瞳孔、巨大な瞳のように見える。


「はい。ドラゴンアイーー龍の眼、です。神龍は元々水を司る神様、干乾びたクランツに雨をもたらす、ってことだと思います」


「ならば、グリネは龍の涙なのかもな。『水神が与え給うた十二の雫』ということか」

「ですね。というわけで、アッシュ殿下、今度は失神しないでくださいね」


「も、もちろんだ!」


 アッシュが神龍をがっつり掴む。


「飛翔! 祭壇に戻れ!」


 神龍が加速した。




 ーー

 ーーーー

 ーーーーーー


 ひとつとや

 ふたつとや

 みつとや

 よつとや

 いつつとや

 むつとや

 ななつとや

 やつとや

 ここのえに

 とうとうと

 とうとひとつつらなりて

 とうにかなでふるらん


 雨乞いの言の葉が紡がれてーー

 ポツリ……ポツリポツリ……ポツリポツリポツリ……

 雨の調べが始まり、九重(ここのえ)に、滔滔(とうとう)と、十一連なって、十二分に奏でて降り続く。


 ーーーーーー

 ーーーー

 ーー




「ジン、無理をさせたな」


 カッツがジンの横に立つ。

 カッツの視線がアッシュに向いている。皇太子を依頼に同行させたことをさしているのだろう。

 王族と依頼を共にするのは、気疲れもするし面倒なものであるから。


「いえ、特に無理はしていません」


 ただ、ジンだけで依頼を請け負った方が、早くは完遂できたとは思う。

 だが、依頼の出来栄えといおうか、完成度はアッシュを依頼に同行させたのは正解だろう。


 アッシュとナーシャを見れば一目瞭然だ。

 ザッケカランとクランツの信頼度、信用度も上がるというもの。


「箔が付いたな、ジン」

「え?」


「最初のパーティーメンバーがアッシュ殿下だから」


 カッツがクッと笑った。


「滅相もない!」

「おいおい、こういうときこそ、あれだあれ。……身に余る光栄です、だろ?」


「ちょ、カッツさん……からかわないでくださいって」


 そう言いながらも、ジンはカッツと笑い合った。




 儀式の翌日に、秘匿の文献に加筆する内容を決める。

 ジンは、アッシュと一緒に『神の庭』での詳細を話した。


 クランツの皇太子がまとめる。


「では、天空の水草グリネは『神の庭』の龍湖の湖底に群生している、とのこと。また、十二連の雫葉の個体を採取する、とのこと。加えて、葉汁が青色の個体とする。以上になりましょうか」


 そこで、ジンが挙手する。


「葉汁が青色、と指定しない方が……」

「なぜだ?」


 カッツが訊いた。


「たぶん、百年毎に変わる気がします。聖女の力をご存知でしょうか? 緑は治癒、青は回復、黄金は浄化。今回はクランツの干乾びた土地の回復だったので、青色だったと思います。百年後の巫女姫は、黄金の涙を流すかもしれません。クランツの土地の状況による気がするのです」


「なるほどな……確かに」


 アッシュが言った。


「だから、今まで詳細が記されていなかったのかと。不確定なのでしょう。百年後に現れた紋様が今回と違う水草になる可能性も考えられます」


 ジンはひと呼吸入れた。


「だから、確実に記せるのは『神の庭』の湖に群生する水草である、ということ。巫女姫の紋様がその水草を現すということ。結局、今までの文献内容と同じになりますね」


「……今回の採取を記すと、百年後が準じてしまい、失敗する可能性があるのですね」


 クランツの皇太子が残念な声色で言った。


「今回の採取の詳細を記しても、百年後までそれがそのまま伝えられるのか、改編されてしまわれないか、真意が伝わるのか、内容がねじ曲げられないか、不安材料が多い」


 クランツ王が続ける。


「我々に与えられた、百年毎の試練ということなのだろう」


 と、締めくくったのだった。





 ザッケカラン王都。


「……毎度毎度」


 ジンは脱力した。

 帰宅早々の奴である。


「おかえりなさい。はぁと」


 バレンスが両手でハートマークを作り、ジンを出迎える。

 ジンはいつもの如くバシンッとバレンスの手をはたき落とす。


「で?」

「ん?」


 バレンスがすっとぼける。

 ジンはバレンスの脛に蹴りをいれた。


「うおっ、いってぇーって」

「さっさと、言え」


「ギルドマスターから伝言。〚セブン〛に行けってさ」





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