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ジン(第一部終わり)  作者: 桃巴


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ジン39

 ジンの雑事はまだ終わっていない。

 魔の森から王都に戻り、目的の場へ向かう。

 大通りから裏通り、その裏通りの路地へと進んでいく。


〚セブン〛


 行きそびれていた場。

 ジンは扉に手をかけた。


 カチャ


 開いたことにホッとする。

 便利屋〚セブン〛の扉は、客を選ぶ魔術付加つきである。

 古代京エリュシュガラと同じ術式だろう。


 暗かった店内にポポポポポと明かりが灯る。

 ジンはカウンターまで進んだ。


「いらっしゃいな、奇特な勇者よ。本日は何をご入用かな?」

「あ、いえ。今日はこれをお渡ししようと思って」


 ジンは腰鞄からアイテム用の回収袋を取り出して、カウンターに置いた。


「お約束した物です」


 ジンはニッと笑った。


「どれどれ、ちと拝見させてもらおうか。おい、これは!?」


 回収袋の中身の記載を見て、店主は驚いた。


【神龍・幼龍の鱗 94 所持者飛龍紋ジン】


「幼龍の……尖った鱗。成龍の鱗以上に稀少性がある。幼龍から成龍への最初の生え変わり時しか手に入らぬ物ぞ!」


 確かにジンの神龍ももう尖った鱗でなく、斧刃のように丸みのある鱗に生え変わった。


「何より、龍の鱗は回収が難しい。天原で抜け落ちると、地に落ちず天へと昇ってしまう。鱗が天から地に落ちれば、凶器のようなものだから」

「あー、なるほど。ナイフや斧が降ってくるみたいな?」


「そうだ。天原での回収は大変だったろ? 天上りの鱗をこれほど回収するとは、恐れ入った」

「天上り……」


「ん? どうした?」

「いや……えっと、ハハハ」


 ジンはミタライ湖で回収しただけ。大変な作業ではなかった。だけでなく、湖にはまだ抜け落ちた幼龍の尖った鱗が浸かっている。


 神龍がジンに贈ってくれたのだろう。


「運良く、まだ回収分はあるので、お譲りします」

「馬鹿を申すでない! 前回といい今回といい、全く無欲にもほどがある」


「だから、『奇特』であってる、と思います。ハハッ」


 ジンは答えながら、回収袋を開ける。

 所持者しか開けられない仕様だからだ。


「今度から出迎えの台詞を変えにゃならん。困ったもんだ」


 店主が言った。


「どうぞ、検分を」


 ジンは回収袋を逆さにして、鱗をカウンターに積み上げた。


「……ほお、見事な輝きよの。水脈のような潤いもある」


 店主が鱗を一枚手に取って眺める。


「こりゃあ、参ったぞい。有り金全部はたいても買い取りできねえ一品揃いだ」

「いえ、本当にお譲りしますから」


「そうはいかんと言うておろう」

「でも、お金に困ってないし。もらっても使い道がないから」


 ジンは一匹狼で依頼をこなしているから、パーティーのように報酬を分配しなくていい。

 面倒な二階案件も高報酬なため、貯まっていくのだ。


「ったく、金があるなら、その『なり』をなんとかしなされ」

「うーん、この普段着の方が動きやすいし……じっちゃんも別になんとも言わないから」


「なんたることか。『なり』までギルマスに倣っとるとはの!」

「あ、確かに」


 ジンは納得した。

 じっちゃんを見て育ったから、身なりにあまり関心がないのだ。


「せめて、鎧までいかずも(しん)を守る胸あて程度の防具でも……おお、そうじゃあ! 良いことを思いついたぞ」


 店主が鱗を半分に分ける。


「儂がお前さんの胸あてを作ってやる、鱗五十枚でな。残りの鱗をその手間賃としていただくのはどうだ? 胸あてなら、動きの邪魔にはそうならんだろうて」

「ま、まあ……?」


 防具を身に着けたことがないので、ジンにはわからなかった。


「こりゃあ、腕がなるなあ。ヒッヒッ」


 店主の声はワクワクホクホクと愉しげだ。

 断れない雰囲気である。


「じゃあ、それでお願いします」

「任せておけ。最高級品をこしらえてやるぞ。完成まで一カ月はかかろうぞ。ささ、帰った帰った。今日は店じまいじゃ」


 現金なもので、店主はジンを追い出したのだった。




〚セブン〛を出ると、すでに暗闇迫る夕刻となっていた。


「うーん、明日にしようか……いや、今日のうちがいいだろうな」


 ジンはひとっ走りならぬ、ひとっ飛びする。

 こん棒でなく神龍で。


「空中散歩、長らくできなかったよな」


 古代京エリュシュガラに一カ月以上籠っていたからだ。その後は二週間の報告書と続き、二カ月弱神龍を呼び出していなかった。


 神龍が嬉しそうに天原を泳ぐ。

 ジンは神龍の鱗を撫でた。

 斧刃のような鱗は生え変わったばかりでまだ柔らかさが残っている。


「成龍になったんだもんな」


 ジンの言葉に反応するように、神龍がうねり泳ぐ。


「ハハッ、愉しそうで何より。よし、水浴びしにミタライ湖に行こう」


 神龍がグーンと速度を上げた。




 翌朝、ミタライ湖から王都に戻ったジンは、家に帰らずギルドへと向かう。

 まだ雑事は終わっていないからだ。


「ジン様!」


 二階に上がる前にアメリがジンを呼ぶ。

 受付とコンシェルジュを同時研修中のようだ。

 ザナギ付きのコンシェルジュが、アメリの指導員らしい。


 アメリを手で制して、コンシェルジュがジンに会釈した。


「受付やコンシェルジュは、ギルド内で私用の声かけをしたらいけない」


 アメリがコンシェルジュの注意に口を引き締める。


「ジン様、本日からご依頼を?」

「はい。ですが、その前にカッツさんに挨拶していきます。今日から正式にサブマス就任だとのことなので」


 コンシェルジュの背後でアメリが笑顔になる。


「幾つか依頼を受付担当されるようで、ジン様をお待ちでしょう」


 コンシェルジュが言った。


「了解です。アメリさん、また今度」


 ジンは二階へ上がった。





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