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ジン  作者: 桃巴
3/8

ジン3

『ネバラン』自治領


 ザッケカラン国、東の端ネバランは、辺境伯が治める自治領である。

 隣国クランツとは魔の森を挟んでおり、領都は強固な城壁に囲われている。

 その城壁門で、またもジンは胡散臭げな視線を向けられた。


「勇者紋を見せろ」


 完全に疑った口調だ。

 ジンは、右手の甲を出して門兵に見せる。ジンの勇者紋は、瞳と同じ紺碧色の『飛龍』である。

 ここザッケカランでは、勇者は右手の甲にその証が刻まれて生まれてくる。生まれながらに、勇者であるとわかるのだ。

 ザッケカランの勇者紋は『獅子紋』と『飛龍紋』の二種類があり、大半は陽色の『獅子紋』所持者だ。ジンは紋でも勇者として稀な部類に入る。


「……飛龍か。よし、通れ」

「伯はどちらですか?」


「挨拶は不要だ」

「いえ、挨拶でなく、依頼を受けているので」


「は?」

「ですから、依頼です」


「冗談だろ。こっちは優秀な勇者パーティーを希望したはずだ」


 門兵が眉間にしわを寄せて、ジンを見下している。

 仲間を持たず、武器がこん棒。衣服も勇者に似つかわしくない普段着だ。

 落ちぶれた実力のない流れ勇者風情がと思っているのだと、態度で分かる。

 流れの鍛練目的の入領だと勘違いしているのだろう。魔の森に点在するダンジョンへ鍛練に訪れるパーティーは多いから。


「依頼説明なしということですね。では、完遂した後、伯の所に行きます」


 門兵が一瞬『おい』と引き止めたが、ジンはスタスタと通過した。

 通常、依頼元に会い内容と現状確認後、依頼に取りかかる。

 しかし、ジンはどこに行っても、同じ対応をされるので、慣れてしまっていた。

 ジンは懐から依頼書を取り出す。


***


『依頼内容』→魔物の卵の回収

『場所』→ネバラン自治領、領都、木の上

『難易度』→☆☆

『報酬』→卵一つにつき小銀貨一枚

『支払い』→領主承認印後、ギルド経由

『注意事項』→高い木の上にあるコロドス鳥の巣の除去と回収。卵の個数不明。

『その他』→勇者パーティー希望


***


「じじい、コロドス鳥ってどんな魔物?」


(カラスを大きくした魔物だと思えばいい。知恵がある。問題は、毒の爪を持っておることじゃ)


「知恵か。領都にわざわざ巣を作ったのは……」


(孵化した後の餌が豊富だからじゃ。コロドス鳥の雛鳥は小動物を好む)


「小動物?」


(人の子ども程度のな)


「厄介だな。二重に厄介だ」


 ジンは、空を見上げて息を吐く。

 視線は、領都の青空とは別の爽やかな緑へと移る。


「どう見ても、あの木だよな」


 領都に天高く生える一本の大木。

 ザッケカラン国なら、どの町や村にも同じように大木が生えている。鎮守の大木という習わしだ。


「じじい、孵化までどんくらい?」


 ジンは依頼書の日付けを確認する。すでに一カ月経っている。それだけ、厄介な依頼なのだ。


(四、五十日……もうすぐだろうな)


「じゃあ、さっさと片付けてしまおう」


 ジンは、大木の方角へと進んでいった。



 大木に近付くにつれ、人がまばらになっていく。通常なら、大木中心に活気が溢れているはずだ。それが、ザッケカランの町や村の造りなのだから。


「そろそろか」


 兵士が増え、赤い規制線が張られている。

 この辺りで一般人は消え、兵士しかいなくなった。

 その兵士の鋭い視線がジンを追っている。


「お前! 用がないなら、引き返せ」


 突如聞こえた声は、規制線の向こうからだ。


「用事があります」


 ジンは、規制線まで軽く走る。

 渋みのある声の主は、ジンの頭上を見下ろすほどに大柄で老齢の男だ。出で立ちも他の兵士とは違い見るからに重厚な甲冑だった。


「何用だ?」


 ジンは懐から依頼書を出して、老齢の男に見せる。


「依頼を受けた勇者です。サクッと完遂しますので失礼します」


 ジンは規制線をピョンと乗り越える。


「おい待て、こら!」


 ジンは男に首根っこを掴まれた。


「嘘をつくな。子どもの来るとこじゃねえ」


 ジンは今日三度目のため息をついた。

 もうめんどくさいなと、ジンは首根っこを掴まれた状態でこん棒を引き抜く。


『変幻、男の足に巻き付け!』


 こん棒がうねうねと伸びていき、男の右足に巻き付く。


「な、なんだ!?」

『解除!』


 こん棒が元に戻る勢いで、男は足元をとられスッ転んだ。


「そこで高みの見物でも……いや、低みの見物でもしててくれ。兵士が来れる場所じゃないからさ」


 ジンはニヤリと笑った。

 こん棒を地に伸ばし立てる。


『飛躍、我が目にする大木の高みへ!』


 バビューンと伸びたこん棒の先で、ジンは器用に立っている。

 そのジンの気配をいち早く察し、卵を暖めていた親鳥が巣を飛び立ちジンに向かってきた。


『解除!』

 こん棒がジンの手に戻る。


「出でよ、飛龍!」

 紋が発光し、飛龍が現れる。


『変幻、しなれ!』

 ジンは飛龍に乗り、こん棒を鞭のようにしならせた。


 ジンに襲いかかるコロドス鳥の足をしなるこん棒で絡め取る。

 それから、頭上でグルグルと回した。


「じじい、魔核はいくつある?」


(まだ一つの青二才だ)


 魔物の核は、魔物のランクを表す。核が多いほど永く生きてきた魔物になる。

 魔核が多いほど討伐に時間がかかる。魔物は全ての魔核を討たねば力を失わないから。全身に深傷を負わせても、魔核が健在なら魔物は倒れない。


「じじい、このまま遠方に飛ばすぞ」


(あの依頼書のせいか?)


「ああ、厄介だぜ。もう一羽の親鳥が来るまでに、やっちまおう。いくぞ、じじい」


 ジンは高速でこん棒をしならせ振り回す。

 コロドス鳥は目が回ってすでに気を失っている。


『解除!』


 こん棒から放たれたコロドス鳥は、魔の森方向、遥か彼方へと消えていった。

 ジンはこん棒を腰ベルトに一旦戻した。


「飛龍、巣の周りを旋回」


 飛龍がジンを巣まで近付ける。

 ジンの飛龍は翼を持たない。翼竜でなく、蛇のように長い胴体に手足と二本の角に髭、青い鱗の神龍と呼ばれる神獣である。


 見慣れぬ者は、龍だと思わない。翼竜が一般的だからだ。故に、魔物と間違えられることもある。

 ジンの飛龍は、巣の周りをとぐろを巻くように飛んでいる。翼竜にはできない飛翔だ。


「卵は四つか」


 ジンは、腰鞄から魔物専用の回収袋を取り出し、卵と巣を丁寧に回収する。

 回収袋は、収納物を小さく収めるマジックアイテムである。巾着のような形で、間口に物を近付けると小さく回収される便利品だ。

 ジンは巣と卵を袋に収め、ベルトに引っかけた。

 それから、飛龍の角をソッと一撫でした。


「飛龍、ありがとな」


 ジンのその声で飛龍は、天へと昇り始める。

 ジンは大木に飛び移り、昇龍を見送った。


(小僧、さっさと念じろ。足場が細い枝じゃ。落ちるぞ)


「ああ、これだから依頼してきたんだろ」


 大木を登りながら、コロドス鳥と戦い、巣と卵を回収するなど兵士にできる仕事じゃない。登るだけで両手足は使えないからだ。さらに巣や卵を回収するには、足場が弱すぎる。

 だからといって、鎮守の大木を伐るわけにもいかない。


「卑怯な依頼だよな。回収だけって」


 ジンは依頼書を思い出しながら呟いた。うつむくと、眼下で兵士達がこちらの状況を見つめている。


「行くか」


(お待ちかねじゃろうて)


「ああ、一悶着してくるか」


 ジンはこん棒を引き抜いた。


『下降、地まで伸びよ!』


(了解じゃ。ついでに縮んでしまうぞ)


「任せた、じじい」




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