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ジン  作者: 桃巴
27/29

ジン27

(だがな、そのパーティーの目的は別にあった)


「どういうことだよ?」


(カッツを犠牲にして、残った聖女を自身のパーティーに迎え入れるというな)


「最低最悪だな。そんな汚い勇者が存在するとは……」


 いや、今だって居る。ランジのパーティーを都合よく使い捨てた奴らが。

 ジンは思い浮かんだが口にはしなかった。


(二十年ほど前は、まだ勇者の使い捨て依頼もあった。勇者らも荒んでいたんだ、心がな。その使い捨ての汚さに感化され、同じことを企てたわけじゃ。カッツを囮に階層主と対峙させた。魔核が二桁の特級主だった。カッツと聖女は……縁が深くてな、置き去りにさせるカッツと引き離される聖女は、互いの窮地に力を覚醒したわけだ)


 ジンにはその情景が浮かんで視えていた。

 こん棒から伝わってくるのだ。

 いや、古代京エリュシュガラからだろうか。


 ジンは小さく首を横に振る。

 見ていられないほど悲痛な残像だった、いや、残滓が記憶する映像。



***


 特級主を視認できる物陰から、パーティーに魔核の位置を伝える聖女。その聖女を我が身で守るようにカッツが盾になっている。

 特級主は城の玉座に居る。

 その玉座の後ろには、大木の幹や枝が城に絡むように侵食している。変わり果てた鎮守の大木……老木、枯木とでも言おうか。


 パーティーの奴らが嫌な視線のやり取りをしたが、それをカッツも聖女も見ていなかった。

 パーティーの勇者が、魔核が多いからとカッツにも加勢を頼む。

 カッツが聖女を見る。

 加勢することは、聖女から離れることになるからできないとカッツが断る。

 聖女がレイピアを握り直すカッツの手を一瞥した。サポートでなく、討伐経験をしたいだろうカッツの気持ちを感じたようだ。


 聖女は退避させておくからと、勇者が言った。玉座の間、出入り口に近い柱裏を勇者が指差して、カッツと聖女に示した。

 聖女がカッツに頷いてみせる。

『頑張ってきて、カッツ』と柔らかな囁き。

 カッツが……思案の末に頷く。


 聖女と傀儡(くぐつ)のポーターが後方に退いた。

 傀儡のポーターはパーティーにいる魔術使いが使徒する人形の運び屋である。

 柱裏に控えた聖女を確認し、カッツはパーティーと打ち合わせをした。


 そして、

 それぞれが配置につき、勇者が合図を出す。

 一斉に攻撃を開始する……はずが、カッツだけが特級主の面前へ躍り出た。

 一拍遅れて、いや二拍以上遅れてパーティーらが出てくるが、特級主の標的はカッツに定まっている。囮のようになって。

 勇者がカッツを盾にパーティーへ退却を促す。

 カッツがパーティーの動きに気づいたが、もう遅い。傀儡ポーターが聖女を抱えて出入り口の扉へ向かう。


 手を伸ばし、カッツの名を叫ぶ聖女。

 勇者が退却しながら、カッツが勇み足で出たから攻撃がズレたと嘘を告げる。仲間に引き入れたい聖女に体裁を取ったのだ。


 カッツが捕まる……否、大木の枝に囚われる。老木は特級主が魔核を与え操られているのだ。カッツがレイピアを突き刺すが、びくともしない。

 特級主が退却パーティーを追い、老木の別枝が聖女を抱える傀儡ポーターへと伸びる。

『クソ、魔核はどこだ!?』とカッツが叫ぶ。魔核がわかるのは聖女。


 カッツと聖女の瞳が重なる……

 狙いを定めた老木の枝が、聖女を絡め取ろうとしていた。

 カッツはそれを阻むためレイピアを放とうとする。

 だが、またも老木の別枝がカッツに迫る、レイピアのように鋭い枝が。


『アメリ!』

『カッツ!』


 互いの名を呼び合った瞬間、覚醒。


 (アメリ)が魔核を示し、聖剣(カッツ)がそれをなぞった。

 幾百幾千幾万本の聖なる光剣となって、一瞬で古代京エリュシュガラの魔物を殲滅したのだ。

 一瞬の出来事だった。


 幾万本のレイピアは、引き潮のようにスーッとカッツの握るレイピアに戻る。


 だが、悪夢はここから。

 魔物は殲滅した。

 したが、消滅したのは物体で、一瞬での消滅を理解できない魔物が……その魔核が……残滓が聖女アメリと繋がったままとなった。

 老木がカッツを離し、反対に聖女アメリを囚える。

 

『アメリ!』

『カッツ……』


 カッツがアメリを解放しようとするが、老木はびくともしない。


『カッツ、私が……魔物を留め置くから……』

『アメリ! 駄目だ!』


 アメリの身体が半透明になって、老木の幹に引き込まれはじめる。

 カッツが懸命にアメリを救い出そうとするが、手立てなく……触れることさえできなくなり……

 視えなくなった。


 ポツンと残ったのは……カッツだけ……。


***



 ジンは胸が鷲掴みされたように痛む。

 カッツの絶望を見たから。


「聖女を解放できないのか?」


(できる。魔物の残滓を討てば可能だろう。自身の死を自覚させればいいからな)


「どうやって魔物の残滓を討つわけ?」


(残滓の魔核を浄化すればいいんじゃ)


「浄化?」


 ジンは崑具に収まっている三玉を一瞥する。黄金玉は浄化の力があるはずだ。


(良い修行の場になろうて。魔核を突く練習じゃ。ここエリュシュガラには、幾万という残滓の魔核がある)


「そんな数をこん棒一本で相手できるのかよ!?」


(じゃが実体はないからの、小僧がどんなに討とうが実感も実績は無しよの。ただ、浄化の力を極限まで上げられる。魔核を視れ浄化ができれば、魔物の討伐も可能になる。どうだ、やる気になったか?)


「……やるさ。残滓の魔核を全て浄化させて聖女を解放する。それで、解放された聖女はどうなるんだ?」


(やっと天に昇ることができるだろう)


「この世には戻れないんだな?」


(生と死の狭間にあった身体は、この世に戻れないだろうて。戻ったとしても、すぐに朽ちてしまいかねない。天へ昇る神のお導きがあるはずじゃ)


「そっか、カッツさんは聖女に逢えないんだな」


(今でも逢えてはいない。それでも毎年カッツはここに来る。できることなく、ただただ佇んでな一日を過ごすんじゃ)


「……」


 ジンにはその残滓が視えていた。




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