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ジン  作者: 桃巴
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ジン26

 王都に戻ったジンは急いだ。

 まだどの勇者パーティーも戻っていない。

 ジンのこん棒飛躍の移動は一瞬だからだ。

 それに、一匹狼のジンと違い、勇者パーティーらは移動に時間がかかる。


 勇者一人なら使徒神獣で一気に移動できるが、パーティーメンバー全員となると話は別だ。神龍以外は厳しい。


 移動に便利な、いわゆる転移可能なマジックアイテムもあるが、帰路にまで安易に使えるほど余裕はないわけで。

 多大な力が必要な転移魔法や転移魔術ができる能力者も少ない。


 ジンはササッと準備を済ませ、また東関門へ。


「おいおい、ジン。戻った早々にまた出かけるのかよ?」


 勤務中のバレンスがジンに声をかける。


「ああ、ちょっと遠出しようって思いついてさ」

「どこへ?」


「気の向くまま」

「え? おい……」


 ジンは言うや否やこん棒を突き立て飛躍した。

 バレンスが瞬きする間で、ジンはバビューンと空へと消えていた。


 なぜにそんなに急いだのか?

 答えは簡単。


「カッツさんが王都に戻ったら、また、呼び出しくらうだろうし」


 二階行きはごめんだと、ジンは出立したわけ。

『聖女ダンジョン』のほとぼりが冷めた頃に帰ってこようと。


(小僧、どこまで飛躍すりゃいいんだ!?)


 こん棒じじいが楽しげに喚く。


「……こん棒の訓練、修行できる場に行きたい」


 崑具が装填され、三玉までも収まったこん棒をどう扱うのか、ジンはイメージできていないから。


(良い思いつきだ! ならば、わしが決めてやろう)


「任せた」




 いつもとは反対の会話をして到着した場に、ジンは無言になる。

 ザッケカランにこんな場はあっただろうか? と思考するがわからない。


「……ここは、どこだよ?」


殲滅(せんめつ)古代京(こだいきょう)エリュシュガラだ)


「エリュシュ……ガラ?」


(殲滅の、でわからんのか?)


「あっ! カッツさんの?」


(ああ、カッツが殲滅した古代京ダンジョンだ。今からもう二十年弱は経っているかのお)


 ジンは古代京を見上げる。

 古都らしく、城壁に囲われた都市国家。ザッケカランよりは小規模だが、都の名残が見て取れる。

 在りし日は栄えていたことだろう。


(ザッケカラン前時代に在った小国家のひとつだな。衰退し廃都となって魔物が占拠した)


「なんでも知ってるんだな」


(まあな。カッツが小僧同様に、鼻で笑われていたこともな)


「え?」


(カッツの武器は軽量細身のレイピアだ。攻撃は斬でなく突。優男が見目優先で持つ装飾武器だと揶揄された)


 ジンはカッツの気持ちが痛いほどにわかる。

 ジンはわんぱく小僧、こん棒少年と今でも揶揄されている。


(姫の横にでも立っていれば様になる。見目麗しいお守り勇者だ。そんな名誉な仕事を請け負えることができるなんて羨ましい。などとな。実際にそんな仕事などはない。からかいの対象になっていた)


「……じゃあ、パーティーは?」


(いた。カッツには幼なじみの聖女がいたんだ。姫のように麗しいな。まあ、だから揶揄されたんだろう)


 ジンはカッツのパーティーにいた聖女を思い出す。どう見ても幼なじみの年齢ではない。

 カッツは、サブマスターのザナギと同年代のはず。パーティーの聖女は若かった。


(今のパーティーの聖女とは違うぞ)


 ジンの疑問を察したのだろう。


「じゃあ、その幼なじみの聖女は?」


(ここじゃ)


「え?」


(この古代京エリュシュガラに居る。いや、囚われているのじゃ)


「ちょ、どういうことだよ!?」


(簡単に説明すると、『封印の鍵』となっておる。カッツが殲滅した魔物の残滓(ざんし)を閉じ込めている人柱じゃな)


「いや、全然わからないんだが? ちょっと、待て……魔物の残滓?」


(そうじゃ、ルララルーの聖女と同じ残滓。魔物が自身の消滅を理解できず、物体は滅んだが残滓となったのじゃ)


「そんなことが起こりえるのかよ?」


(ああ、起こった。カッツと幼なじみの聖女の覚醒でな。カッツが複数本のレイピアを出現させ、エリュシュガラ全部の魔物を一気に一撃して殲滅したからの)


「いや、そんな芸当はできないだろ? 魔物の数以上に魔核は複数あるわけだし、魔核の位置だってわからないはずじゃ……あっ、聖女は浄化の?」


(ああ、その通り。カッツの幼なじみは、魔核の位置が視える黄金紋の聖女だった。覚醒によって、視認でなく光の導きで魔核を示せた。幾百幾千幾万本もの光の導きに沿って、カッツのレイピアも幾百幾千幾万本の一撃を魔物に喰らわせた。それで遺ったのは、消滅を理解できなかった魔物の残滓よの。魔物(物体)を突いたカッツのレイピアは退くことができたが、その魔物の残滓(無体)と聖女の光は繋がったまま、この古代京エリュシュガラに囚われた。聖女は生死の狭間で、生きてもおらず死んでもいない。この城壁内に魔物の残滓を留め置くための人柱ーー封印の鍵になってしまったのだ)


 ジンは絶句した。

 紡ぐ言葉がなかなか出てこない。


「……いったい、どんな依頼があってここに? それとも、レベルアップの修行でか? 何があって覚醒したのか……、封印は解けないのか?」


 整理しきれない頭で、ジンは色んな疑問を口にした。


(ある勇者パーティーのサポート依頼を受けたんじゃ。階層主の魔核を聖女の心眼で見抜いてくれ、というな。昔も今も変わらず、現場(パーティー)に入る聖女は少なかった。カッツと幼なじみの聖女の二人組パーティーは、魔核を見抜くサポート依頼をよく受けていたんだ)


 ジンも同じくサポート依頼をずっと請け負ってきたからわかる。

 名を上げる依頼でなくても、サポート依頼で地道に経験を積んでいくことも必要だということを。




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