ジン25
……は?
ジンの行動に、背後の勇者パーティーらはそう思ったことだろう。
「どなたかいらっしゃいませんか?」
『はーいはいはい、ちょっと待って。すぐ行くわ』
中から軽やかな声が聞こえてきた。
ポッカーン
と勇者パーティーらが口を開けている。
カチャ
で扉が開いた。
絶句
の勇者パーティーら。
中から女性が出てきた。
キラキラと緩いウェーブの金髪が腰辺りまでと長い。瞳は緑と青のオッドアイ。
額には聖女の証、三つ葉紋がある。
緑青黄金の三色縁取りの三つ葉紋だ。
全能力者であり、同時に力を使える紋でもある。
勇者パーティーらが息を呑むのがわかった。
三色縁取り三つ葉紋の聖女は、今現在ザッケカランに存在しないから。
「はじめまして、私はジンです」
「やあね、一緒に寝た仲じゃないの、私たち」
「えっ!?」
「五日間も」
ジンはバッと振り返る。
勇者パーティーらの視線よりも、ジンは鎮守の大木を見つめた。
「鎮守の大木の?」
ジンは鎮守の大木を指差した。
「ええ、そうよ。さっきは供物をありがとう。そのおかげで、こうして依り代をいただいたわ」
女性が右手の甲をジンに見せる。
そこには……神龍の鱗。
「私は、ルララルー聖女の残滓」
「残滓?」
「そう、この世に遺った想い、魂の欠片とでもいえるかしら。鎮守の大木と共に在ったの」
「じゃあ……これはダンジョンではない?」
ジンは虹色の物体を見上げる。
「いいえ、ダンジョンよ。でも、普通のダンジョンではないの。『聖女ダンジョン』とでも言おうかしら」
「『聖女ダンジョン』?」
「そう、聖女専用のダンジョンね。聖女以外は入れないの」
背後がざわつき出す。
そこで、カッツがジンの横に立った。
「失礼、話に入ってもよろしいか?」
「ええ、あなたがここをまとめているのよね」
「いかにも。私は獅子紋金獅子のカッツ」
「私は、この『聖女ダンジョン』の創造主よ。最近の聖女は弱くなり過ぎている。修行をすれば三つの力を開花できるのに」
女性が自身の三つ葉紋を指差した。
「では、この『聖女ダンジョン』は聖女の修行場ということで?」
「ええ、その通りよ」
そこで、女性がジンとカッツの後ろに控える勇者パーティーの聖女らを冷ややかに見た。
「現役の力量を見極めようと、氷柱ランスで攻撃したのだけれど……まさか、捨て石にするとは思わなかったわよ。どの聖女も傍観するだけ、驚いたわ。ここまで、聖女が廃れているとは思わなかったから」
ランジらのことだ。
女性の視線に、聖女らが困惑している。
自分が属するパーティー以外の者に、力を使うことはしないから。そんな余力はないのだ。
「見学してても参考にもならなかったわ。額の三つ葉紋に恥じるべきよ。現場の足しにもなっていない。修行が必要だこと」
さっき、ジンが浴びた言葉を言い返したようだ。
聖女らが俯いた。
「この『聖女ダンジョン』で修行すれば、力が覚醒開花して、三つの力を得られるだけでなく、一撃武器を形成できることも可能になる」
女性が手をバッと開くと、『聖女ダンジョン』から無数の突起物が出た。確かに氷柱の槍形だと見える。
「わかりました。では、ザッケカラン王都で、ダンジョンとして認可を進めます。よろしいでしょうか、聖女様」
カッツが丁寧にお伺いを立てた。
「ええ、いいわ。認可が下りたら、聖女の出入りを可能にします。それから……これだけは言わせて。聖女ありきのやわなパーティーらより、先陣の覇気は素晴らしかったわ」
これは、ランジを捨て石にした勇者パーティーらにも苦言を呈したのだ。
カッツも頷く。カッツらが来る前にランジが犠牲になっていたわけで。
カッツが振り返り口を開く。
「聞いての通りだ。後の対応は私が請け負う。これにて解散とする!」
勇者パーティーらはなんともいえない表情で、バラバラと捌けていく。
王城緊急召集依頼の報酬は得られるが、新たなダンジョンを攻略する挑戦はできない。
いや、パーティー聖女のレベルアップができるダンジョンとあらば、まあ良しとするか。と思うが、聖女がダンジョンに籠もれば、その間は聖女なしで依頼を請け負うことになるわけ。
まさに女性が指摘したように、治癒や回復ありきの活動はできなくなる。
勇者パーティーらが吊り橋を渡り、ララ村からいなくなっていった。王都ギルドや地方ギルド、ダンジョンに行くのだろう。
ジンもそろそろ王都に戻ろうかと女性を見る。
「じゃあ、私も」
「待って、ジン」
女性がジンの手首を掴んだ。
「では、私の方が先に行こう」
カッツがジンの肩をポンポンと労ってから退いた。
「えっと……?」
ジンは女性の眼差しに首を傾げる。
「お願いが」
「なんでしょうか?」
「どうか、真名をいただけません?」
「はい?」
「私は依り代をジンにいただいた残滓。真名がないのよ」
「初代聖女の聖名でよろしいのでは?」
女性が首を横に振る。
「私は残滓。聖名を騙るなどできはしないの。どうか、真名を授けて」
「……じゃあ、うーん」
ジンは考える。
「レ、リ……クス」
浮かんだ名を口にしながら、ジンは鎮守の大木へ視線を移す。
ふわりと風が流れた。
あの聖木と残滓は共に在ったというから。
「真名は『レリクス』、通称はあなたがレーリで聖木がリクス」
「素敵! ルララルーのように名付けてくれたのね」
「思いつきですよ、レーリ」
ジンがそうを呼んだことで、真名が女性に宿った。
レーリの芯が整った感じだ。
「ありがとう、ジン」
「今度こそ、じゃあ」
「ええ」
レーリに見送られながら、ジンは王都へと飛躍した。




