ジン2
「はぁ」
ジンは、どこに行っても胡散臭げに見られてしまう。ため息が出るのも毎度の事だ。
「武器がこん棒ってだけで」
帯剣ならぬ帯棒は、ヤンチャな子どものような出で立ちだ。一桁の歳までなら許されるだろうが、ジンはもう十六歳の青年で、こん棒で遊ぶ年代ではない。だから、失笑を向けられる以前に、胡散臭げに見られるのだ。
「だけど、これでも勇者なんだよな」
ジンは、右手の甲を見つめた。そこには、証である『勇者紋』がある。
生まれながらの勇者の証だ。
その手でボサボサの黒髪を掻き上げた。髪で隠れていた紺碧の瞳は、地平線の彼方を見つめる。
陽炎の中にうっすら次の町が見える。
ジンはベルトにさしたこん棒を引き抜いた。
その時、ジンの背後からヒソヒソ声が聞こえてきた。
「ププッ、こん棒。マジでこん棒かよ。それも勇者だっていうのに、仲間もいねえ」
「ちゃっちいこん棒勇者じゃ、パーティー組みたくねえって」
ジンは振り向かない。
ついさっき通った関所の役人と兵士だろうことは、ジンには分かっている。
こんな対応は日常茶飯事で、特に反応などしない。ただため息が出るだけだ。
「さて、依頼達成して帰ろう」
ジンはこん棒に話しかける。
「じじい、起きてるか?」
(とっくの昔に起きてるわい!)
「早起きはじじいの始まりってよく言うもんな」
(小僧らしい減らず口だな。まだ大人にはほど遠い小僧めが)
こん棒じじいといつもの会話を繰り広げた。毎朝のご挨拶というやつだ。
ジンの武器は知っての通りこん棒である。それも、人格を持つ一級品だ。
人格を持つ武器は、所持していても、武器の高みと同調できない力量では、会話することはできない。普通は、経験を積み、成長し、武器の高みの領域に達して、やっと武器の意思が聞けるのだ。
しかし、ジンは武器を賜って数日で、こん棒の声を聞けた。その日から、ジンの仲間はこん棒じじいだけだ。
じじい、そうじじいである。
武器はこん棒、人格はじじい。破格に期待薄の勇者である。ジン自身も認めるほどに。
だが、今のジンは、こん棒じじいで良かったと心底思っている。
「じじい、俺が見えてる町に行けるか?」
(余裕じゃ。儂は成長できるしの。さっさと念じろ)
ジンはそこでやっと背後を振り返ってニヤリと笑ってみせた。
ジンを面白がった役人と兵士が眉間にしわを寄せる。
ジンは、フンと鼻で笑った後、こん棒を地に伸ばし立て、陽炎の彼方へと視線を戻した。
『飛躍! 我が目にする町まで伸びよ!』
こん棒がジンを先端に乗せたまま、天へと長く伸びていき、弧を描くように陽炎の彼方へと消えていった。