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ジン  作者: 桃巴
19/33

ジン19

 二階にある診療所だが、一度一階に下りてから別階段で上がらないとたどり着けない。

 二階は行き来できない別々の仕様だから。

 一階のマジックアイテム専門店横の階段を上がる。


 手前から軽症者の大部屋、パーティーごとの中部屋、一番奥が重症者の個室となっている。


 このギルド診療所は、依頼で負った怪我の治療は無償だ。

 なのに、中部屋でランジのパーティーが小銭を出して何やら話し込んでいた。


 ジンは廊下からそれを聞く。


「この手持ちじゃあ、希少薬は手に入れられないな」と弓士。

「希少薬も、実力者にしか使われないだろうよ」と槍士。

「クソッ、俺らをかばったせいで、ランジが重症なんて」と剣士。

「俺らの実力じゃあ、捨て石程度しか役に立たないってわかってはいるけどよお」ともう一人の剣士。


 当人らもわかっているのだ。

 歯痒いことだろう。


「……ランジさ、パーティー解消しようって言ってたな」

「ああ、回復に時間がかかるから、俺らのことを思ってだろ?」


 とそこで、ジンは中部屋に入る。


「ああ、ここだったか」


 ジンは明るく振る舞う。

 ランジのパーティーがバッとジンに向いた。


「あ……どうも」


 弓士が会釈した。


「ランジは奥か?」

「ええ」


 ランジのパーティーの口は重い。

 というか、全員一見でわかるほどそれなりの怪我である。ランジを心配するより、自分の心配をしろよ、って思うほど。

 ジンは腰鞄から朝露の小瓶を一本取り出す。


「見舞い品」


 ジンはニッと笑った。

 困惑するランジのパーティーにお構いなしで、ジンは弓士の大怪我箇所の包帯をずらし、朝露を数滴垂らす。


「ちょ、痛っ、えっと待って、……えっええぇっ!?」


 傷が塞がり、皮膚が再生する。

 朝露ーー『純聖水』は万能薬だ。死者の蘇り以外には。


「おお、流石『純聖水』」

「は!?」

「じゃあ、次」


 ジンは槍士の包帯をずらす。


「待ってくれ! それが『純聖水』なら、ランジに! それをランジに使ってくれよ!」

「わかってるって。これは余分な『純聖水』だし」


「は? 余分って……そんなことあんのかよ」


 ジンは槍士、剣士らの大怪我にも『純聖水』を数滴垂らした。


「嘘だろ……」

「嘘みてえだ……」


 皆、純聖水の効果に呆気にとられている。


「ランジんとこ行ってくる。じゃあ」

「待ってくれ、ジン! いや、ジンさん」


 軽妙に去ろうとするジンを、弓士が止める。

 ジンは振り返り、首を横に振る。


「ここで、待ってればいいから」


 ジンはランジの部屋へと向かった。




「ひっでえぇな」


 ジンはベッドに横たわるランジに笑いながら言った。

 満身創痍をまさに体現した状態。

 ……再起不能ではない、が。

 それが、勇者としてどうなのか? と問われれば、再起不能と診断する者もいるかもしれない。

 生きていけるという意味の……再起不能ではない、だったわけ。


 ランジが片目だけで、ジンを見ている。


「世話が焼けるぜ、同期(ランジ)

「ぅ、っせ」


 ランジらしい返しに、ジンは安心した。


「見舞い品だ」


 ジンは『純聖水』を惜しみなく使う。

 さっきの残りを使い切り、二本め、三本めと。

 徐々に復活する身体の蘇生を、ランジも実感していることだろう。


「ジィ、……ン」

「もうちょっと待てって。あと少しだから」


 外傷全部に『純聖水』を垂らしてから、最後に口へ注ぐ。


「はああぁぁ……ふぉ……」


 ランジから大きな息が漏れる。

 おもむろにランジが体を起こした。


「ジン、どういうこったよ?」


 ランジが体の細部を動かし、瞳を潤ませながら訊いた。


「たまたま、鎮守の大木の朝露を手に入れられて、使ってみようかなって思って」


 ジンは、まだ残っている小瓶を揺らす。


「頼む! あいつらに!」

「流石、パーティー。同じことを口走るんだな」


「え?」

「もう、弓士槍士剣士らにも使用済み。ランジに使う前の実験台にした」


「……ジン、この恩をどうやって返せば」

「必要ないって言っても気にするか」


 ジンはランジに拳を向ける。

 ランジが拳を突き合わせて応えた。


「崑具を見かけたら教えてくれ」

「崑具?」


 ジンは崑具を装填したこん棒をランジに見せた。


「おっ、ちょっと洒落た感じにバージョンアップしてる。今までは裸ん坊だったもんな」


 こん棒じじいと同じようなことを言うランジに、ジンは笑う。


「返す恩は崑具情報ってことで、よろしく」

「情報だけじゃ割に合わないだろ。ちゃんと手に入れてやるさ」


「じゃあ、期待しないで待っとく」


 ジンは少し残った朝露の小瓶を腰鞄にしまい、立ち上がる。


「待ってるみたいだから、顔を見せに行くぞ」


 ジンが手を出す。

 ランジがその手を取って立ち上がった。


「どうだ、いけるか?」


 ランジは屈伸して下半身も動かし確認した。


「大丈夫だ。『純聖水』ってすげえな」


 ジンとランジは笑いながら廊下に出る。

 中部屋に行くまでもなく、ランジのパーティーが待っていたのだった。





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