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ジン(第一部終わり)  作者: 桃巴


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ジン17

 ギルドに向かう前に、ジンは便利屋〚セブン〛に寄ることにした。

 貸出袋を返すために。


「ジン、そんなの後にしろって」


 バレンスももちろんついてきていた。


「二階案件前に返却しとくべきだし。信用に関わるから」

「ジンは、律儀だなあ」


 で、〚セブン〛の扉に手をかける。


 カチャ


 ジンはホッとした。

 ここで、開かなければギルド行きであったから。

 店内に足を踏み入れ振り返る。


「ブッオッ、ッ、ちょなんで!?」


 入れたのはジンだけ。

 バレンスは透明な壁にでも当たったかのように、前に進めない。

 ジンはバレンスに軽く手を振って扉を閉めた。


「変な奴を引き連れてきおって」


 言葉は批判しているが、声色は愉快だった。


「長らくお借りしておりました」


 ジンは貸出袋を店主に返した。

 店主が貸出袋に手をかざす。


「数日を長らくとは言わんぞ。数年返しにこない奴もいるしの。……ずいぶんと使ったようだな」


 貸出袋に減った数量が表示されている。

 ジンはルララルーの出来事を包み隠さず店主に伝える。


「なるほどなるほど。ならば、この減りも納得じゃ。お前さんの神龍の抜け落ち髭を楽しみにしておくわい」

「あ、それで、これをお譲りしようかと」


 ジンは腰鞄から小瓶を取り出す。

 店主がそれを手に取る。


「これは?」

「ルララルー鎮守の大木の『朝露』です」


「何っ、鎮守の大木の朝露を採取できたのか!?」


 店主の驚きの高揚に、ジンの方がびっくりする。


「純聖水ではないか!」

「あ、はい、たぶん。五日間、大木の根元で野宿したので、運良く朝露が採取できたのです」


 元々、鎮守の大木は町や村の聖なる守り木。

 人々の負の感情を浄化する役割だ。


 人の世が祈りに満ち穏やかで清らかなら、聖木は朝露を零す。自然の純聖水である。


「今や、鎮守の大木が朝露を零すことなど、一年に一度あるかないかだぞ!」


 ジンもそれぐらいは知っている。

 聖木が浄化する必要がない清らかな状況下でしか、聖なる雫は溢れ出ない。


 だが、人の世である限り負の感情が消えることはなく、浄化を続ける聖木の負担は大きくなる。妬み嫉み恨み、欲のない人の世など実在しないから。


 一般的聖水は、湧き水に聖女や賢者が祈りの力を注ぎ作り出すもの。聖木の朝露こそ、純聖水である。


 巷の物語では聖水の泉なるものが描かれるが、そんな泉は存在しない。いや、存在していても人に見つかれば、鎮守の大木と同じく浄化を続けて枯渇することだろう。


「ルララルーの鎮守の大木は、通行止めだったから、清らかだったのかと」

「なるほど……確かに。あそこは、地続きではないから尚さらか」


 店主が小瓶を握りしめ、何度も小さく頷いた。


「だが、いいのか?」

「はい。それだけじゃないので」


 ジンは笑って腰鞄はポンポンとした。

 五日間、採取できたのだ。純聖水の小瓶は全部で五本でき、そのうちの一本を店主に譲っただけ。


「こりゃあ、驚いた」


 店主がしゃがれた声で笑った。


「今回の貸出と、純聖水(こいつ)で相殺だ。今後の抜け落ちた龍の髭は、買い取りさせてもらうよ」

「いや、当初の予定通りでいいですよ」


「そうはいかん。本当なら、こっちからお釣りを出すぐらいじゃ。客の割に合わなくなる取引はできない。店の信用問題だからな」


 ジンは『参ったな』と頭を掻く。

 今回の依頼では、懐があたたかくなり過ぎているから。


「わかりました。じゃあ、また何か良いもの手に入れられたら、真っ先に持ってきます」

「ありがたいねえ」


「いや、でも期待しないでください。魔物討伐やダンジョンには基本挑まないので。あ、そだ……ここって裏口とかあったりします?」

「外の奴をまくのかい?」


「まあ、はい。できれば」

「そりゃあ、ちと無理だろうて。外にもう一人お出ましだ」


 店主カウンター下から鏡を取り出す。


外視(マジック)鏡だ」


 そこには店舗前の様子が映し出されていた。


「……ザナギさん」

「サブマスター直々のお迎えだな」


「じゃあ、仕方なく行きます。ありがとうございました。では」


 ジンは踵を返す。


「お釣りの代わりにこれをやる。持っていけ」


 店主の声で振り返る。

 投げられた物をジンは掴み取った。

 二対の器のような……いや、燭台のようでもあり、精巧な細工飾りが施されているオブジェ?


「これはなんですか?」

崑具(こんぐ)


 耳にしたことのない言葉だった。


「こん棒の先端を保護する道具じゃ」

「え!? そんな物があるのですか!」


「召喚した勇者の武器といえど、酷使されれば劣化するもんじゃ。負担が勝ると枯渇する朝露と同じ、武器も負担が勝れば威力が落ちる。保護してやれ」

「そう、ですね」


 他の勇者は確かに、武器の手入れを念入りに行なっているし、付加装備も行なっていたりする。

 だが、こん棒にそんなものができるとは思っていなかった。これまでは、丁寧に汚れを落とす程度しかしていない。


 ジンはこん棒を抜く。


『崑具をつけてもいいか?』


 一応、こん棒じじいにお伺いを立てた。


(小僧もやっとお洒落を知ったか。今まで、わしは真っ裸だったで、さっさと装填じゃ)


 ジンはフッと笑ってこん棒の両先端に崑具を装填した。

 ブワンとこん棒が光り、崑具が馴染む。

 

「いい面構えの武器になったじゃねえか」


 店主がそう言って見送る。

 ジンは会釈してから、出入り口の扉に手を伸ばした。




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