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ジン(第一部終わり)  作者: 桃巴


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ジン16

「あなた、おかえりなさい。はぁとっ」


 バレンスが両手でハートマークを作り、ジンを出迎える。

 ジンはバシンッとバレンスの手をはたき落とした。


「不法侵入だろ!」

「留守を預かっておいたぜ」


「預けた覚えはない!」

「まあまあまあ、そこは俺とお前の仲だしぃっ」


 バレンスがジンに肩を組んでくる。

 ジンはすかさず、その腕を振りほどく。


「どうやって入った?」


 ちゃんと戸締まりしたはずだ、とジンはバレンスを問いただす。


「ザナギさんに鍵を預かって」

「……なんで?」


 スペアの鍵は、確かにギルドに預けていた。

 勇者に何かあったときのため、部屋の管理を任せられるように、スペアをギルド預かりにするものだ。


「ダンジョン情報を、ジンに伝えておくよう指示されたから」


 ジンは眉間にしわを寄せる。ダンジョンに関わるつもりはないから、必要がないのだ。今までだって、一度もダンジョンに挑んではいない。


 というか、音花火の緊急召集から、五、六日経っている。多くの勇者パーティーが関わっていて、終結していないはずはないだろう。


「ダンジョン活動はしないし、その情報は必要ないって。そのうち、ダンジョンマップが出るだろうし」


 ザッケカランのダンジョン一覧とそれぞれのマップはギルドで買える。

 とはいえ、ダンジョン内は変容を続けるものだから、更新が追いついていないダンジョンマップもあるのだが。


 マップ更新情報も報酬金を得られるから、勇者パーティーはレベルアップも兼ねて稼ぎに行くこともある。

 未踏の階層などは、破格の報酬金になる。

 というか、新たなダンジョンほど人気になるはず。


「新しいダンジョンに挑んでいる勇者パーティーらが、わんさかいるんだろうし」


 そういえば、ランジらも難易度の低いダンジョンへ行く予定だったが、緊急召集で行き先が否応なく変更となったはずだ、とジンは気づく。


「ジン、よく聞けよ」

「ふふぁあん?」


 ジンはあくびをかみ殺す。

 帰宅してすぐに寝ようと思っていたのだ。ララ村連続野宿五日を過ごした体はバッキバキ。

 ベッドに倒れ込みたいわけ。

 ギルドへの依頼完遂報告もひと眠りしてからと。


「音花火の緊急召集から、事態はなあぁーんも変わっちゃいない」

「は!?」


 流石に半分寝に向かっていた意識が覚める。


「どういうこと?」

「言った通り」


「いや、だからもっと詳しく」

「発生不明、正体不明、浮遊していて、移動もしている。周囲の魔物を吸収して巨大化しながら。で、勇者パーティーらがそれを追って監視してる」


「……まじで事態は変わってないな」

「ダンジョンが巨大化していくのを、指をくわえて見てるって感じじゃね?」


「入り口は見つかっていないのか?」


 いわゆるダンジョンの入り口である。

 そこを開通させて、ダンジョン開きになるわけ。


 一般的ダンジョンも、最初は閉ざされている。そりゃあ誰でもどうぞ、なんてオープンにはしないさ。自分たちの命を脅かす勇者パーティーらが簡単に入って来られないように。


「入り口らしき扉はあるが、未開通。手こずっているらしい」


 浮遊しているし、移動している物体だからだろう。足場がないようなもの。


「魔物を吸収しているから、中はすっげえダンジョンになってるはずだってさ。勇者パーティーらは、最初こそ巨大化にワクワクした奴らもいるらしいが、今は要塞級に巨大化したダンジョンに恐れをなしている奴らもいるとか」


 聞けば聞くほど、事態が終息していないのだとわかる。


「そんで、この状況に色んな意見がぶつかってるって」

「意見?」


「そ。魔物を喰らうダンジョンなら、歓迎。ある意味、魔物討伐しているからだっていう意見。反対に、ダンジョンが魔物吸収限度を超えたら、一気に放出されて危機に陥るってな意見。魔物を取り込んで、中で凶悪な魔物を作り出しているんじゃないかってのもある。ま、総じて、不気味」


 バレンスがそこで一息ついた。

 で、ジンが口を開く。


「良いように捉えたって、その『正体不明の物体』を放っとくわけにはいかないよな」

「そう。『正体不明の物体』って意見もあるよな。ダンジョンだ、って確認はできてないし。見た目もさ」


「見た目? そういえば、どんな物体なのさ」

「俺も見たわけじゃないから、正確には言えないけどよぉ。なんか、淡く光ってて綺麗なんだと。宝石みたいな? こういう形」


 バレンスがテーブルに指でなぞる。


「ダイヤモンド形?」

「たぶんな。 六角錐、八角錐? 円錐? の底面が丸みをおびている、みたいな。いや表現するのは難しいな。まあ、ダイヤモンドであっているか」


「雫みたいだな」


 ジンは、鎮守の大木から落ちる朝露の雫を思い出していた。


「かもな! で、見に行きたくなったろ?」

「……いや」


「ジン、俺がザナギさんから鍵預かってここにいるんだぞ」

「……つまり、二階行きかよ」


「そ、ジンが帰宅したら状況説明して、連行してこいって」

「連行って言い方はどうなの?」


「ジンが逃げねえようにってことだろうよ」


 ジンは小さくため息をついたのだった。





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