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ジン  作者: 桃巴
15/18

ジン15

「浮遊、ダンジョン?」

「ああ、そうだ。それも、今までとは様相が違う」


 辺境伯が間を置く。


「移動しているのだと」

「は?」


「周囲の魔物を吸い上げて、巨大化しながらな」

「……」


 ジンは絶句した。

 通常は、既存の廃墟や洞窟、地下道などを魔物がねぐらに集結し、ダンジョン化していく。力の強い魔物が主として君臨する階層統治(ダンジョン)になるわけ。

 例えが妥当とは言わないが、まさに王を頂とする王城のように。


 だが、今回のダンジョンは通常とは違うようだ。

 王城が緊急召集する理由がわかった。

 発生不明、正体不明、浮遊や移動に魔物を吸い上げての巨大化、前代未聞の事態ということだ。


 周辺国にも情報提供を呼びかけているらしい。


「……にしても、私はルララルー吊り橋の張り替え依頼を優先します。そのダンジョンについては、すでに勇者パーティーが対応に向かっているかと」

「そうなのか。……まあ、とりあえず板をすぐに用意しよう」


 魔物の森を目前にするネバランだから、すぐに手に入れられるのだ。


「お願いします。それで」


 ジンはゲオルグらを指差す。こいつらをどうするのか、と。


「申し訳ないが、王都まで運んでくれぬか? 私個人の依頼だ」


 辺境伯が懐から小金貨一枚を取り出した。

 個人依頼を受けることは、ルール違反ではない。

 ジンは迷うことなく了承した。破格の報酬金であるから。


「王都から戻ってくるまでには、板を用意しておこう。吊り橋の張り替えに必要な物はこちらで準備する」

「はい。では、また」


 ジンはルララルー経由でその旨を伝えて、いったん王都へと戻った。

 ずーっと、ゲオルグらをそのままに。


 王都、東関門に到着したときには、戦意喪失でガクブル膝のゲオルグらであった。喚き散らす余力は残っていない。

 ジンは、門兵に研修命令が出ている者らだと伝えて引き渡す。

 フラフラと覚束ない足取りで関門を潜ったゲオルグらを確認し、辺境伯依頼は終わる。


「よっ、ジン。……聞いたか?」


 門兵のバレンスが近づいてきて、ジンの耳元で訊いた。

 ジンはコクンと頷く。


「新しいダンジョン出現だろ?」とジン。

「ああ、何か……ヤバいダンジョンらしいぞ」とバレンス。


「みたいだな」

「ジンは行かねえの?」


「依頼中なんだ」

「そっか。でも、気をつけろよ」


 ジンは軽く手を上げて応え、休むことなくネバランへと引き返した。




 ネバランで板を調達したジンは、やっと依頼元の地に戻ってきた。

 もう、日が暮れている。

 両村長に状況を説明し、一日を終える。

 説明は毎回二度。あっちへ行ったりこっちへ行ったりと、ジンは忙しい日だった。


 作業は明日からだが、これまでの張り替え手順ではいかないようだ。

 吊り橋が完全に崩壊したから、両村で顔を合わせての打ち合わせができない。

 いつもの張り替えでは、中洲地のララ村で打ち合わせをし、既存の(ケーブル)や橋を土台としながら作業する。新しい物を張り、古い物を解除する安全な手順だ。


 だが、今回は主塔はあるものの、新たな吊り橋を張る作業になる。

 

「だけじゃないんだよなあ」


 準備してあった(ケーブル)に、さらに龍の髭を編み込む作業も必要だ。板の橋を編む縄にも、龍の髭を使っておいた方がいいだろう。


「数日はかかりそう……だな」


 ジンはそう言いながら、空を見上げた。

 視界に広がる鎮守の大木の枝ぶり。優しい月明かりが淡く葉を照らしていた。

 ジンは、たった一人ララ村にいる。


 ルラ村かラルー村の村長宅でも良かったが、どっちの村長からも『是非、家にお越しを』と言われれば、どっちかを選ぶのは憚られ、ジンはララ村を選んだわけ。


「寝るか」


 ジンは腰鞄からボロ布を取り出し腹にかける。

 依頼を受けるパーティーは、野宿が当たり前。周囲が見えなくなる天幕(テント)は張らない。

 体を横たえたジンは、鎮守の大木に『おやすみ』と呟き、目を閉じたのだった。




 それから、ジンが依頼を終えたのは五日後。

 下準備に三日、吊り橋設置に二日かかってのことだった。


 両村長が、報酬金を上乗せして払おうとしたが、固辞した。龍の髭というマジックアイテムの代金を払おうとしたのだ。

 だが、ジンはネバランで辺境伯から小金貨をもらっており、懐はすでにあたたかい。


 ジンは両村長から、報酬金と承認印をもらって依頼を終える。開通式を見届けてから、王都に帰還した。


 ……のだが、ジンは再びルララルーに向かうことになる。




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