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ジン  作者: 桃巴
13/20

ジン13

 暗かった店内にポポポポポと明かりが灯る。


「勇者ジンよ、何か入り用かな?」


 ジンはカウンター奥の店主にペコッと頭を下げた。


「吊り橋の張り替え依頼を受けたので、便利品(マジックアイテム)を用意して向かおうと思って」

「吊り橋の張り替えということは……ルララルーか」


 フードをしっかりと被った小柄な店主が言った。

 少ししゃがれた声、ルララルーのことを知っているなら、老齢なのだろう。だが、口元はそれらしいたるみなく、瑞々しい。

 年齢不詳、性別不明な店主である。


「はい。十年毎の張り替えのはずが、今回は早く……周囲に大型魔物の群れがいるようで、振動のせいではないかとサブマスが推測してます」

「ほおほお、吊り橋の強化品となるものをお望みか?」


「そうです」

「待っておれ」


 店主が奥へと消えた。

 ジンは店内を見回す。が、店内には明かりが灯る壁付燭台しかない。出入り口の扉から五歩程度でカウンターがあるのみ。

 品物は奥にあるのだ。

 便利品が並ぶ一般的な店舗とは違っている。


 ジンの育ての親ギルドマスターから紹介された便利屋で、紹介がなければ入れず、紹介されても出入り口扉の選別で入れないこともある。

 商売がどう成り立っているのかと摩訶不思議な便利屋だ。


 そんなことを思っていると、店主が奥から出てくる。


「ジンなら、これがわかるだろうて」


 カウンターに置かれていた物にジンは目を見開く。


「龍の……髭?」

「そうだ。神龍の髭だ」


「まさか!?」

「勘違いするな。これは生え変わり時の古い髭だ」


 ジンは、神龍を捕獲した解体品なのかと勘違いしたのだ。それを、店主がすぐに否定し説明した。


「生え、変わり?」

「ああ、ほれ見てみろ」


 髭の端部分を店主がジンに見せる。

 刃物傷などなく、ポロッと取れたかのような綺麗な表面をしていた。

 その表面から銀糸のような髭がらせん状に伸びている。遠目では一本の髭に見えるだろうが、龍の髭は何千万本もの束なのだ。人が編む縄のように。


「覚えておけよ、ジン。生え変わりで抜け落ちた神龍の髭は、貴重なマジックアイテムだ。生え変わりの早い幼龍なら、二、三年に一度は生え変わる。角も爪も鱗も、龍の生え変わりの物は全て貴重だぞ。まあ、回収は困難だがな。だからこそ、稀少性がある」

「……はい。勘違いしてすみません」


 ジンの神龍はその幼龍だ。

 体長もザナギのそれとは短く、胴体の太さもない。

 一番わかりやすいのは鱗の状態。成龍に比べ細く尖った形状の鱗。矢じりのようなといえばわかりやすい。成龍は斧刃といった感じだ。


「いいさ、まだ一年やそこらの駆け出し勇者には、知識も経験も少ないものだ」

「本当にすみません」


 ジンはちゃんと頭を下げた。


「この髭束から一本ずつ引き抜いて使う。刺繍糸の束と一緒だな」


 ジンは首を傾げた。


「ハハッ、そりゃあわからんか」


 店主は笑って龍の髭を袋に入れる。回収袋と同じ小さな袋で『貸出袋』と表示されていた。


「手を」


 ジンは『貸出袋』に手をかざす。


【龍の髭束。所有者・王都便利屋〚セブン〛。貸出先・飛龍紋ジン】


 貸出袋にちゃんと表示されたのを確認し、店主がジンに差し出した。


「ありがとうございます」


 ジンは腰鞄に貸出袋をしまった。


「これでなんとかなるはずだ。縄に龍の髭を補強しとけば、振動の影響は受けないからな。よし、小僧にルララルーの吊り橋形状を教えてやろう」


 店主が、紙をカウンターに置き、ルララルーの吊り橋を描いた。

 中洲地とそれを挟む両村に主塔がそれぞれ立ち、その主塔先と根元を(ケーブル)で繋ぐ。両村から板を吊り下げながら橋を編む。

 さらに、橋からも縄を張り、渓谷に固定する。

 ルラ⇔ララ間

 ララ⇔ラルー間

 ララ村を経由した二本の吊り橋になる。


「本当は、この主塔も龍の角やシシ神の角を巨大(マジック)化して使ったらいいんだがな。村にその負担はかけられないだろ?」

「はい。というか、龍の髭だって」


「支払いはいらん」

「え!?」


「使用した倍の本数で手を打つ。小僧の龍の生え変わりのな」

「なるほど。わかりました、ハハッ」


 ジンは笑う。

 店主も口角を上げていた。


「だがなあ……どんなに吊り橋が完璧でも、土台が崩れたら元も子もない。大型魔物の群れの振動でなく……地割れが広がっているなら問題だな」


 確かにその可能性もある。


「とりあえず、現場に行ってみます」


 ジンは店主に礼を言い、店を後にした。




 翌日、ジンはまさかの再会を果たす。

 あのゲオルグとの再会である。

 覚えておろうか? ネバラン自治領でジンとやりあった老齢の隊士。

 ジンの予想通り、王都研修召集がかかったのだろう。あの時の部下数名も引き連れている。

 とはいえ、やりあえるような距離間ではない。


 だって、中洲地のララ村にゲオルグらはいる。

 ジンはルラ村にいる。渓谷を挟んでいるわけ。吊り橋を挟んで……はいない。


「あの方たちは急ぐからと、皆が止める中、無理やり吊り橋を渡っていき、途中で(ケーブル)が切れまして……」


 ルラ村の村長がジンに説明した。

 ゲオルグならやりそうなことだな、とジンはため息をつく。

 強行突破したのだ。

 緩み解けた縄が耐荷重を超え切れたってこと。


「あっちの吊り橋も同様に渡ろうとして、同じく切れたのですよ。渡りきれず、ララ村に戻ったのです」


 主塔から、(ケーブル)や板の橋がダラーンと渓谷に垂れている。

 見るも無残な状況だった。




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