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アナザーストーリー  作者: 瀬戸純
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それぞれの願い

初めての小説です。拙い部分も沢山あると思いますが、読んでくれる人の楽しみになるような作品になればと思い書きました。よろしくお願いします。

1.君の願い


自分は何物にもなれないことを実感することがある。

小さい時に絵をほめられたことがあるけど漫画家にはなれないし、幼少期に様々な経験をして感情のストックはあるけど俳優にはなれない。

こんな自分が嫌だと思った時もあるが案外悪くないと今は思っている。

いや、たまに一人大学の帰り道を歩いていると自分は何者なんだろうとふと考えてしまう。


2023年の夏、団地の5階、4畳半の自室で純平は迷っていた。大学2年生の夏休みをどう過ごすかについてだ。大学構内で話す友達はいるが長期休暇に遊ぶ約束をするほど仲の良い友達はおらず、畳に寝ころびながら自堕落に実家でスマホを眺めていた。今日から講義もなく夏休みを満喫できるはずなのに、あるのはバイトの予定だけ。

彼女でもいれば新宿にでもデートに行くのかもしれないが、前の彼女とは大学1年生で付き合い、すぐに別れてしまった。


お昼を自室で食べ、大学生らしく服でも買いに行こうと思った。たんすを開き黒のワイドパンツ、白のオーバーサイズのTシャツに着替える。近くの棚の上に置いてあった財布を持ちスマホの充電量を確認して玄関に向かう。

「いってきまーす」

返答してくれる家族はいないが、一応言っとく。

きしむような音を聞きながら団地の玄関ドアの開閉を行う。

高校生の頃に団地に引っ越してきて、5階から1階まで降りるのもだいぶ慣れてきた。

そこから最寄りの駅に向かっている途中のことだった。

いつもと変わらない道だが、いつもと違うことがあった。

この暑い夏に黒いフードを被ったマント姿の男が道の途中にいたことだった。明らかにこちらを見ているようだがフードで顔はよく見えない。

フードの男とは関わりたくないと思い、小走りになり男の横を通り過ぎようとする。そこで


「カミカワジュンペイ君だね?」


一瞬理解が追いつかなかったが、男は自分の名前を呼んでいた。

明らかに不審者だ。純平はそう思った。

全速力で駅までの通りを走ろうとするが何かがおかしい。体が動かなかった。

感覚としては夢で金縛りに合ったときのような、そんな感覚だった。

それに周りの信号待ちをしている人や、車、信号すべてが止まっていた。

男は自分の前まで歩き、目線を自分に合わせる。純平の身長は160㎝余りだが、男は純平よりも10㎝以上は高かった。

「ごめん、動きを止める魔法を使ったんだ。魔法って言われても意味が分からないと思うけど、君はこれから別の世界に行くんだ。」

男の言っていることはあまりに突拍子もなかった。だけど、実際に周囲の状況を考えると魔法がこの世にあるのかと考えてしまっていた。純平の口は動かないため、相手のことを見る事しかできない。

フードの男はまた話し出す

「また突拍子もなくて申し訳ないんだが、別の世界へ行けば君の願いを1つだけ叶えられるんだ。君の願いが決まった時にまた来る。」

そのセリフを言い終わると男は目の前から消えていた。周囲の動きは止まっていなかったし、金縛りの感覚はなくなっていた。

頭の整理が追いつかなかったため、純平はしばらくの間信号の前から動けなかった。

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