人はどうして常に自分の罪悪感を軽くする事しか考えてないのかねぇ?もっと相手の気持ちを考えられる優しい世界にならないもんかねぇ
決戦当日の朝が来た…
俺は、日常通りに妻と食卓を囲み朝食を摂っている…
しかし、心に仮面を被って自分を欺し、上手に相手を欺せていようと、どうやら身体は正直な用だ…妻に対しては勿論のこと、やはり一番キツイのはこの家の全て…家具だけでなく床や風呂場にトイレとあらゆる場所が汚物に感じ、今使っている食器すら口元に近づけるのが辛い程、拒絶が日に日に大きく膨らんでいるようで、今も朝食がなかなか飲み込めない…飲み込もうとすると一気に胃から逆流してくるような感覚に襲われる…それをグッと堪えながら無理矢理にコーヒーで流し込んでいる。
やはり、一週間も経てば妻もそんな俺の変化に気づくのは当然で、相当に顔色が悪いのだろう。そんな俺に声を掛けてきた…
「与太さん、凄く顔色が悪いけど身体は大丈夫?何か仕事でトラブるとかあったんじゃない?出張から帰ってきてから、日に日に顔色も悪くなって食欲も余りなさそうだし、凄く体調悪そうだよ?」
「あぁ、心配を掛けちまっているみたいだな…仕事の方は順調だよ…そうだな、寧々の言うとおり確かに体調が少々優れないみたいだ…もしかしたら、風邪でも出先で貰ったのかもな…ちゃんと仕事のスケジュール調整して、病院に行くから安心してくれ…」
「うん、ならいいけど、無理はしないでね。与太さんに何かあったら私一人になっちゃうんだよ?お爺さんお婆さんになって二人でゆっくり毎日を寄り添って過ごすって約束が叶わなくなっちゃうんだよ?」
「分かってるよ寧々…心配してくれてありがとうな」
「うん、それなら良し!後は、仕事で悩んでるならそれもちゃんと話す事!、私が、直接今更仕事の役に立てる訳じゃないけど、夫婦なんだからその苦労を一緒に背負うくらいはできるんだからね。そうしたら、与太さんの重みも半分になるでしょ?」
妻は笑顔を俺に向けながら、そう言葉を投げていた…
ここ一週間は、体調の悪さのおかげで、19歳で知り合い、23歳で結婚してからほぼ毎日に近い習慣となっていた夫婦の夜の営みも自然回避出来たわけだが…ここまで表面に体調の変化が出てしまうのは予想外だった…
そして、妻の白々しい言葉…
妻の様子を見ている限り、もしかしたら本心からの言葉なのかも知れない…多分、本人の常識や貞操観念が麻痺してしまい、本人すら無意識に罪悪感を違う感情に変換してしまって、本当に俺と居る時は、妻として夫を愛する女を演じているのではなく、愛している姿も妻にとっては本当の姿の一つなのかも知れない。これが演技なら、さすがに探偵を廃業だなと心の中で自分に皮肉を零しながらも妻の言葉は今の俺には調子の良い吐き気を誘う言葉にしか聞こえなかった…もし本心だったとしても、情けを掛けるつもりも許すつもりも一切ない訳なんだが…
決着を付ける時間が刻々と近づいているせいか、食事を摂りながら「浮気」について考えてしまう…
昔々は、浮気は男の甲斐性なんて言われた時代もあった…80年代に入り女性の社会進出も少し増え始め、社会は高度成長期の真っ只中、まだ男性社会が強く「浮気」に対しても影響が強く現在程批難を受けずにいた時代、この辺りでTVドラマの大罪になる程度には、浮気は男性だけがする物でなく、女性もするのだと社会に浸透し始めた頃だったように思う…それに、女子大生の愛人クラブ摘発など社会問題になるニュースなど、性に対して女性が積極的に楽しむ様になり始めた頃でもあったのかも知れない…ただ、そうした女性の貞操観念を保たせていたのは、一家に一台しかない電話や連絡手段が公衆電話しかなかった事、まだ世間の意識として、浮気で離婚になろう物なら、実家に帰っても「出戻り」と言われご近所から陰口を言われ肩身の狭い思いをするような社会の空気もあったのだろう…時代は変化するもので、80年も後半になると、テレホンクラブが流行り始め。専業主婦でもそこに電話を掛ければ知らない男性と簡単に知り合える様になり、未成年も含め若者の利用も増えていた…女性は電話代しかかからず無料でその番号に掛けるだけと言う手軽さと、気にくわなければ通話を切れば良いと言う安心感が心理的に遊び感覚を助長するきっかけになりさらに意識は変わったのかもな…この頃には、夫婦も共働きが増え、専業主婦も減り始め、90年代以降は常に若い女性が流行の中心になり社会現象を幾つも起こし、それと共に、独身者・既婚者女性の貞操観念も低くなっていったのが社会の流れで感じるようになった…若者は、ワンナイトや遊ぶお金欲しさの売春、ブルセラなど、刹那的な快楽を楽しむようになり、大人もポケベルや一部普及が始まったばかりの携帯電話を持てた人間は、自宅の電話を通してではなく、直接連絡が取れる様になり環境が劇的変化しより夫婦間、恋人間での隠し事がしやすくなった始まりでもあった…、ツールの進化やネットの一般への普及と共に、、貞操観念の崩壊も加速したような気がする…
そんな変化を辿り、、どんなに貞操観念が低くなっていても、性に対しても意識が緩い現在の世の中になろうと、結局、人間は変わらず愚かで、自分が他者とのsexを楽しむのは構わないが、自分が同じ事をされると許せない…都合のよい時だけ貞操観念を振りかざし相手を責め立てる、我が儘で傲慢な存在なのかも知れない…地に落ちた貞操観念は、「セフレ」などと言う肉体関係だけの性処理し合う人間関係を表す言葉を作りだし、それを一般人すら余り気に止めない社会…虐めや万引きと同じ罪悪感を軽くする魔法の言葉、妻もその言葉の魔法に自らかかったのだろう…
妻から見た外の世界は、ネットと言う広大な海で漂う、女性の社会での活躍・専業主婦の減少・離婚率の上昇など様々な情報により自分の今の生活はこのままでいいのか?と考えさせるには充分だったのかも知れない、そして、それらの中にある自分と同じ既婚者の浮気動画や体験談の数々…最初は興味本位だったのかも知れないが人間は刺激を求める生き物、ウェブからSNSを見るようになり、外に出れないならと、軽い気持ちで他者の真似をしてウラアカを作る…妻はこの時点で「誘惑」と言う禁断の果実に手を伸ばし始めてしまったのだろう…当然、家電の進化により時間はある訳で、色々な場所を除きそこで踏みとどまれば良いのに、掲示板に書き込みをしてしまう、ウラアカの返信をしてしまう、自分が泥沼に沈んでいるのも気づかずに…沈み始めた頃には本人は、面白そうだから暇つぶし程度に見てるだけと言う軽い気持ち程度の自覚しかないのだろうが、沈めば沈む程に本人は遊びのつもりで罪悪感が麻痺して今の妻の様になるのかも……
妻も、このまま俺にバレずに相手との関係が終わるまでの一時の快楽を楽しんでいるだけなのだろうが、妻は初めて不貞を働いた日、俺に対しての罪悪感は持ったのだろうか?持ったとしても、その罪悪感は快楽へと変換されたのだろう…職業上、修羅場に遭遇する事も多いが大抵男も女も第一声が「違うの」から始まり「魔が差しただけ」と言う台詞がテンプレで笑ってしまう…第三者の俺からして見ればただの狼狽した往生際の悪い人間にしか見えないのだが、本人達はまだ何とか誤魔化せると本気で思っているのが滑稽で、罪悪感もなしに遊び感覚で居た証明であり、「セフレ」なんて言葉に踊らされた人間の末路に同情の気持ちも沸かない…
妻も今日同じ言葉を吐くのだろうか?俺はあの日、聞いてしまったわけだし…妻は旦那を貶める言葉に興奮し自らもそれを口にしさらに興奮していた…それに俺には寝取られの性癖があるわけじゃない、他人に器が小さいと思われるだろうが、平行して他の男の精液が染みついた場所に自分の一部を入れるなんて微塵も興奮なんてしない、そんな相手を愛せる程人間が出来ているわけじゃないのだから…
どれだけの時間思考の海に沈んでしまっていたのだろうか…いつの間にか食事は終わり、妻は後片付けを始めていた…その後ろ姿を長めながら俺は、情すら消え去ったのだと再認識しながらその時を待っていた…
妻は食器を洗い終え、俺はいつも通りにスーツに着替え換気扇の下で煙草を吹かしていると、自宅のインターホンが鳴り響いた…
妻は、煙草を吹かす俺を気遣ったのか玄関へと向かっていった…
俺は、煙草の煙をおもいっきり肺に流し込み、来訪者と妻の足音が近づくのを静かに聞いていた…
そして…
先頭で現れた妻の表情は困惑…何かを俺に言おうとするが何を言ったらいいのか分からないと言うように不自然な程に落ち着きが無くなっていた
「所長、対象者のご両親をお連れ致しました。予定通り説明は終え、ご理解頂けた上での同行となっています」
そんな中、明智爛が口火を開いた…そしてそれに続いて…後ろに控、え顔面蒼白にしている男の両親が前に出て来ていきなり土下座をし始めた…
「申し訳ございません。ウチの息子がとんでもない事をしてしまい」
俺は両親に
「初めまして、真田与太郎と申します。そこの妻 寧々の夫で、小さいですが一応探偵事務所の所長をさせて頂いています」
妻は、この状況に未だ追いつけずにいるようだ…
「天草さん、頭を上げて下さい。親として息子の「真」くんの不祥事を謝らなければと言う気持ちは分かりますが、私の様に被害を受けた人間としては土下座をされたから謝罪を受け取るなんて簡単な話ではないので」
「それと…貴方達がどうご理解しているか分かりませんが、もし私が謝罪を受け取ったとして、それは許されたと言う事になる訳ではないんですよ?ただ、貴方達の謝罪をしたと言う事実を受け取っただけで、それは貴方達の罪悪感を私に軽くする為に押しつけたに過ぎないんですから…まぁ、だからと言って分かりやすく態度や言葉としての謝罪をしなくていいかは別ですが…一番伝えるのには便利な代物ですからね…何が言いたいかと言えば、今はその時ではないと言う事です。しっかりと、こちらの条件を果たしながら信用を得た上でその時にでも…」
「私自身が許せる気持ちとなり、許すと言葉にした時に、初めて許されるのだと覚えておいて下さいね」
「ほら、立って下さい…狭いですがそちらのソファーに皆さん腰を下ろして…まだ主役の、天草 真 あまくさ しん くんが到着していませんので」
そう皆に告げ、妻を見ると顔面蒼白にしながら絶望の表情を浮かべていた…
俺はそんな妻に気にせず…
「寧々?どうした?お前も座りなさい…全員が揃ったら大切な話しがあるんだから」
そう言われた妻は、狼狽しながら俺に掴みかかりながら
「違うの違うの…アナタが私の全てなの…愛してるのは与太さんなの…信じて下さい」
叫く妻を強引にソファーに座らせると横から、明智爛が妻を立てないように押さえてくれた…妻は「離して!邪魔をしないで!」と暴れていたが、護身術を学び現役の調査員の爛にはかなわなかったようで、少しすると静かになり妻は下を向き項垂れていた…
そして、天草のご両親と条件などの細かい確認を黒田の事務所弁護士を挟みながら確認をしていると、ついに待ち人が来訪したようで、インターホンが鳴り響いた
俺が玄関へ来訪者を出迎えに行くと、弁護士の黒田先生の頬にはアザが薄らと見受けられた…
先生から事情を伺うと、最初男は、話しに応じようともしなかった様で、「お前等!警察でもないのに何の権利があって命令してんだ!話し聞く必要なんて俺にはねぇだろうが?」とかなり横柄な態度で拒み続けていたらしく、仕方なく、男のご両親も同席される事を伝えた所、更に激怒し始め、男に殴られたと言う話であった…
外で、大人二名と大学生の男が、それだけ問答を続け騒いでいれば、近所に住んでいる住人からしてみれば、何か事件なのでは?と不安になり、警察へ通報するのは当然で、ウチの所員が黒だ先生を助けるために男を制圧した直後に、タイミング良く近くの派出所から警官が到着し、その後、事情聴取の為に黒田先生が事情を説明し警察に骨を折ってくれたらしく、その場での事情聴取のみで解放はされたが、時間がかかり遅くなってしまったらしい…
俺は、男に視線を送ると、男は反省の色も無く不貞不貞しい態度をしていた…
そして、目が合うと
「フンッ!アンタが寧々の言ってた、毎日毎日、長いだけで気持ちよくない下手な旦那かよ!そうだアンタ粗チンのフニャチンなん?」
男はニヤニヤとこのごに及んで悪たれを俺に叩いていた…
「でっ?君は真くんだね…19歳なんだから法律が変わってもう成人のはずだよね?自分の言動には責任があるのは分かるね。今の君の態度も言葉も全てこちらで納めさして貰っている。勿論、話し合いをきちんとする為だがね。君のご両親の許可も貰っている」
「ふざけるな!プライバシーの侵害だ!たかがセフレとsexをしただけだろうが!嫌ならアンタら夫婦で勝手に離して離婚でもすりゃあいいだろ!巻き込まれるのは迷惑なんだよ!まぁ、別れたら晴れてセフレ継続できるんだけどな!それに寧々のケツ穴バージンも頂いてないから丁度いいぜ!アハハ」
「だから、でっ?君の主観や間違った常識は、知らないわけだ。分かるかい?その君の常識が何処の国で通用するのか知らないが。時間は無限ではないんだから、早く部屋へ移動しようか?君のご両親も、セフレの寧々も、揃って待っているからね」
「ケッ!ビビりがよ!だから若い男に寝取られる間抜けなオッサンなんだよ!悔しかったら何か言い返してみろよ?寧々の締まりは年齢の癖に良かったぜ!悪ぃ悪ぃ、俺ので広げちまったから旦那さんのじゃ寧々もアンタとする時、演技が大変だって言ってたなそう言えばよ」
俺は、彼を無視してリビングを目指した…その間も、彼は私達の背後から悪態をつき続けながら嫌々着いてきて、まるで自分は無関係かのように、置かれている立場すら理解できない違う生物のように思えた…
俺達が、リビングに足を踏み込むと、緊迫した空気の中、バッと天草の父親がソファーから立ち上がり一気に息子の真に駆け寄り、その強く握りしめた拳を顔面に振り下ろし、直角に床に倒れた真に馬乗りになり何度も拳を叩きつけていた…涙を流しながら…
「お前は!ここまで聞こえたぞ!与太郎さんに失礼な事を!何がセフレだ何がただsexだ!お前のしたことはれっきとした法律違反だ!だがその前に、人として間違ってるのがわからんのか!」
「ウッウッウッ…皆だってウッウッウッ…してるウッウッウッ…のに…ウッウッウッ…なんでウッッ…俺だけウッウッウッゴフッ…」
「お前はまだそんな言い訳を!」
殴り続ける父親と殴られ続ける息子を、とりあえず止める為に、父親を羽交い締めにして息子から引きはがし、落ち着かせた後二人を無理矢理ソファーに座らせた…
父親は何度も謝りながら自分の感情的な行動を恥じているようだが、まぁ分からなくもない、だが今じゃない、俺は天草の父親に対し口を開いた
「天草さん、お気持ちは理解できますが、ココはアナタの家ではない!そうした行為は、アナタの息子が私の城を汚い精液で汚した行為となんら変わらない事を肝に命じて下さい!今は、事実を確認しその処理をどうするのかを話す場なのですから」
「すみません…真田さんに余りにも失礼な態度や発言、反省を微塵も感じられない息子にどうしても我慢がならなくて」
「言い訳は必要ありません。暴言を吐かれているのは私ですし…暴言を吐かれた所で彼自身の首を自分で絞めているようなものですし、私には一切響きませんので」
天草の父親はそれ以上言葉が見つからないのか俯いてしまった…
「さて、揃った様なので話を始めましょうか」
そう言って皆を見渡すと妻は今にも死にそうな表情でチラチラと天草真を見ていた…
「まずは、俺がお前達の不貞を知ったのは1週間前だ!寧々の誕生日そして結婚記念日の日だ!その証拠としてまずはこのモニターを見てくれ…」
「ご両親には自分達の息子のドッグファイトは気持ちが悪いでしょうが、私も妻のそんな姿を見てしまったわけですし、罰だと思い息子の愚業からは目を逸らさずにきちんと見て下さい…」
モニターの中では、獣のような男女そして嬌声と俺への罵倒や蔑みが大音量で鳴り響いていた…
妻の隣に座る爛は見たこともない冷ややかな視線を寧々にぶつけており、それに絶えられない寧々はまた俯いてしまう…だがそれを冷淡に爛は
「何、被害者みたいな顔をして目を逸らしてるんです!所長はアレを見たくもないのにいきなり見せられたんですよ!そしてあのベットで一週間もアナタを横に添い寝させながら過ごしたんです!どれだけの地獄だったか分かりますか?それに比べたら自分のした事を見るくらい何だって言うんです!ほら、気持ちよさそうな顔じゃないですか、楽しそうに所長を蔑み罵倒して淫乱なデカい嬌声まであげて!そんな事で興奮するなんて変態なプレイが好きで楽しくて仕方ないんですね寧々さんは!遠慮せずに目を逸らさないで下さいよ!楽しい思い出なんでしょうからしっかりと見なさい!」
爛は無理矢理妻の顎を掴み顔を上げさせ現実を突き付けた…
寧々は、ボロボロと涙を流しながら「違うの違うのそんなつもりじゃないの」と繰り返していたが誰もその言葉に同情する者は一人としていなかった…
そしてもう一人の加害者である天草真は、ボコボコに腫れた顔で未だ俺を睨みつけていた…
さて、ここからは情け容赦なく行くとするか…