人はどこまで業が深い生き物なのだろうか
いつの世も「まさか」は付き物なんて言いますが、その最たる物が「寝取られ」…
現代社会において、国がやれ「お仕事改革」だ、やれ「子育て支援」だと少子高齢化社会対策だと中身のない机上の空論の政策を人気取りだけの為におこなったりもしていますが、近年ー離婚率の増加やら晩婚やらと一切現実は善くなっていないわけでして、しかもまぁ、結婚前の恋愛経験の中、男女問わずに、「セフレ」だなんだと流行り言葉のようにして、罪の意識を無くし遊び感覚で浮気なんかぁ当たり前…
そんな人生観の社会じゃあ結婚しても不倫なんて無くならないわけでして、今じゃあ、昔に比べ夫より妻の不倫が簡単に「ウラアカ」やら「マッチングアプリ」やらパート先やらと選り取り見取り…お偉い政治家さんから言わせれば、「貞操観念の見直しが」なんて言いそうですが、まぁ、「隣の芝は青い」なんつうのは、今に始まった話しじゃあないわけでして、昔々の「姦通罪」なんつうもんがあった時代からあるわけでして…
しかもその「姦通罪」つうのは、不貞を働いた罪だけでなく、婚姻前に非処女だった場合にも罰を受けてたそうでして、その内容つうのが、こりゃあまた酷いもんでしてねぇ…
裸にした女性を縄で吊るし、その真下にピラミッド状の拷問器具を置き脚を開かせゆっくりと女性を下ろし、ピラミッドの尖った先端に女性の性器や尻穴を当て、自らの体重の重さなんかや、重りを追加で括り付けたりして、時間が経つに連れ先端が中へ中へと食い込んでいくなんてえげつない代物でして、しかも拷問器具は洗浄してないもんだから、絶えきっても病気に感染しちまう、絶えられなくても死、絶えきっても死なんておっかなぁーい時代であってもどうやら人間つう生き物は業が深いのか不貞は辞められないわけでして…
今の時代で、こんな姦通罪がおこなわれたら男女共に人口なんざぁあっという間に減少しちまいそうなわけでして…
おっと、いけねぇ…あまりにも酷い現実を目にしちまったんで、現実逃避に落語の枕みてぇな解説を頭の中でループさせてましたわ…
察しの良いお方は何を見ちまったかもうお分かりでしょうが、そうその通りでして今俺の目の前と言うか夫婦の寝室で大学生くらいの男と、妻がドッグファイトを繰り広げている最中でして…
人間つうのは、こうした現場に予期せず出くわしちまうと、怒りの前に呆然としちまうらしくて情けなくも冒頭の様になっちまっていたと言うわけでして…
とまぁ、少し時間は遡りますが、俺の名前は、真田 与太郎 さなだ よたろう
もう50歳になるわけでして、こんな寝取られ男ですが、幾つかの弁護士事務所と契約をし、さらに個別案件を扱う探偵事務所を運営する所長なんて仕事をしてまして、本来なら大事なクライアントとの打ち合わせのために明日まで出張だったのを、今日が妻の誕生日であり結婚記念日だったので、気合いと仕事の速さで一日繰り上げでサプライズで帰って来た訳なんだが…
そっと音を立てずに自宅の扉を開け、玄関に入ると目に入ったのは見知らぬ男物の靴であり、靴のデザインから年齢が若いと感じ、直ぐに経験から不貞現場に遭遇してしまったと感じた…
そこからは、探偵としての経験と人として夫としての個人的な善意の部分がぶつかり合いながらも足は吸い込まれるように夫婦の寝室へ向かい、寝室の前に辿り着くと、嬌声が聞こえいや、寝室に辿り着く前玄関で靴を見た時から嬌声は聞こえていた…妻が外に聞こえてもおかしくないほどの大声で嬌声をあげるなんて付き合って結婚した以降も俺は知らない…
扉を少し開け、二人のドッグファイトが目に飛び込んで来た瞬間に、バチンッと大きな音が聞こえたような気がしたがそれは俺の思考がショートした音だったようだ…
とまぁ、ここまでがさっきまでの俺なわけだが、怒りが先に訪れなかったおかげか、ショートしたおかげか、全てにおいて仕事の時と同じでクリアな状態、気配を殺し、もう一度中を確認、二人は丁度こちらを向いておらず、四足歩行の動物で言うところの正常位で必死にドッグファイトを繰り広げている…
俺はスマホの動画録画を起動、念には念を入れICレコーダーも起動させ二人に気づかれないように証拠を押さえた。その間、大学生らしき男からは、俺を馬鹿にしたり比べたり、妻を蔑む様な言葉が吐かれ、それを肯定しさらに俺を貶める言葉が妻からも吐かれていた…
妻の名前は、真田 寧々 さなだ ねね
年齢は53歳 年上女房で探偵事務所が小さい頃から支えてくれていた。
俺は、妻に対して常に感謝を忘れずに生活をしてきた…、彼女とは子供は出来なかったが女性として結婚後も大切に扱い彼女との時間優先で過ごせるよう、寂しい思いをさせぬよう、セックスレスやsexに不満や欲求不満にならぬようありとあらゆる努力を惜しまなかったはずなんだが…冒頭で考えちまっていたように、人間つうのは業が深いとしみじみとその苦いモンを噛み締めていた…
俺は、ある程度の証拠集めを終わらせ自宅を後にした…
「さてと、どうしたもんか?」
そう考えながらスマホをスーツの内ポケから取り出し操作し、離婚に強いと言われる有名な弁護士事務所の名前をタップした…
「あっもしもし、真田探偵事務所の真田ですが黒田先生はいらっしゃいますか?」
「いえいえ、今日は仕事の打ち合わせの話ではなくて、恥ずかしながら私用でして…アポもなしにいきなりで本当に申し訳ないのですが」
そうして、現状を弁護士の先生に伝え、今後の方針と、今から行う調査などを話し電話を切った…
次に掛けたのは、自分の探偵事務所
「あっ、俺だ真田だ、何人か依頼の無い奴今事務所に居るか?」
「これは、俺からの依頼だ。依頼料も今月の給料に上乗せしておくから安心しろ。」
「俺の妻が現在進行形で絶賛不貞とドッグファイト中だ!男は大学生風で、名前は分からん。妻は、「しんさん」と呼んでいた…今から撮影したドッグファイトの動画を送る。後、妻の写真も添付してだ」
「一人は、男を尾行し名前から住み家、何をしている人間かまで張り込んで調べ上げてくれ。一人は、ラブホ街などを当たって妻が出入りしていそうなラブホを見つけ、黒田さんの事務所と密に連動しながら、防犯カメラでの確認作業まで出来るよう交渉含めて調べ上げてくれ、残りは交代で、妻を張り込んでくれ。こちらから、男が帰宅し落ち着いたくらいに、妻に電話をして明日の夜には帰れると誤情報を流しておくから頼む」
こうして、事態は動き始めるのであった…
指示を出し終わり俺はとりあえず事務所へ向かった…
所員から、男が帰宅したと報告があり、少し時間を置き妻に連絡を取った
「もしもし、寧々。」
「あっ、あなた。仕事は順調にまとまったの?」
「あぁ、明日の20時くらいには帰れるよ。今日は、寧々の誕生日で結婚記念日なのに帰れなくてごめんな…その代わりプレゼント楽しみにしてくれ」
「もう、そんな事気にしないで。与太さんが何もなく無事に帰ってきてくれるだけで私は幸せなんだから」
「そっか、ありがとうな…何か変わった事や困った事はないか?」
「別にないわよ。しいて言うなら与太さんが居ないのが寂しいくらいかな」
「嬉しい事言ってくれるね。戸締まりとかに気をつけるんだよ。じゃあ、おやすみ」
「与太さんも気をつけて帰って来てね。おやすみなさい」
通話を斬り所長室の椅子の背もたれに深く倒れ込み大きい溜息を吐くと、秘書兼No.2調査員である明智 爛 あけち らん から声を掛けられた
「所長、コーヒーをお持ちしました、それと新しい灰皿です。普段からヘビースモーカーなのに、思考の海に沈むと所長はさらに煙草の本数が増えるんですから…もう少し自分の身体労って下さいよ」
「アハハッ…この歳で身体労るってもう遅いだろうよ。それにしても因果な商売だよなつくづくよ…色んな男女の結末や裏切りを目にして来たからこそ、自分のパートナーはそうならないように生きて来たつもりなんだがな…これぞ灯台もと暗しってやつなのかねぇ、調査のエキスパートが寝取られなんかされてりゃあ看板下げた方がいいかもな」
と、皮肉混じりの愚痴を吐きながらまた煙草を銜え火を付けて紫煙を思い切り肺に吸い込んだ…
爛は与太郎の煙草を取り上げ何事もないように自分の口元に取り上げた煙草を持っていき紫煙を吸い込み、「はい、言ってる側から、没収です!…相変わらず所長の煙草は甘いですね。弱気になるのは分かりますが、そんな「まさか」が起きるなんて誰にも分かりませんし、この仕事をしているから起きないなんて事だってないんですよ。私だって奥様がそんな事をするなんて想像も出来ませんでしたし…それに所長は女性から見たら良い旦那さんの枠に入りますから安心して下さい。所員の女性からも独身なら狙うのになんて声も多いんですから…私もですが…」
爛は最後の言葉を濁しつつごまかす様にまた紫煙を肺に思い切り吸い込んでいた…
「ん?最後はなんて言ったんだ?つうか、オッサンの吸いかけを躊躇なく吸うとかお前な…加齢臭しかせんだろうに…でも、Thank youな!世辞でもそんな事言って発破かけてくれて…」
「まぁいいです!勝負はこれからですからね…男の身元も直ぐに判明するでしょうし、一応その後は非合法になりますが蛇の道はなんとやらと言うように、ウチのハッカー集団にネット側からも丸裸にするように指示は出したので、所長はゆっくりととりあえずは心の方を休めて下さい」
「まぁ、平気で空気を吸うように嘘を言われて確かに心が疲弊したと言えばそうじゃあないとは言えんしな」
「そうですね…ではゆっくりとして下さいね」
彼女はそう言って所長室を後にした…
明智爛は、扉を閉め呟く…
「諦めてたのに…大切な人をまさか傷つけるなんて…あの人が奥さんだから気持ちに蓋をしたのに…魔が差しただけであっても絶対に許さない…二人とも言い逃れできない程完璧に丸裸にしてあげますから…」
そして…次の日も俺は次々に上がる報告を受けながら、自宅へと帰る事になった…
自宅にて、妻の前ではなんとか心の内は凪の海のように平常を保てていたが、やはり寝室のベットで寝なくてはいけない地獄…そしてベットが汚れていると言うことはこの家の色んな場所が他人と妻の精液や体液で汚されていると言う考えが頭の中をグルグルとループし日に日に睡眠不足に陥る地獄…だがやっとこの地獄が終わる日がやってきた…
所長室で報告書に目を通し、弁護士の黒田先生と最終打ち合わせをする…睡眠不足などを含め心療内科への通院カルテなども揃え、明日決行する事と話はまとまった…
情報漏洩のないように、明日の朝一で、男の実家を訪れ、出勤前の父親が居る時間帯に接触、車内にてこちらの提示条件や、現在の状況を証拠と共に説明…集合場所である我が家へ…接触は、黒田先生の事務所の弁護士と明智爛にお願いする事になった…
男の方も、大学への通学タイミングで、接触…抵抗を見越し所員と黒田先生に連行をお願いする事になった…
「さて、皆には迷惑をかけた…情けない所長の依頼を聞き入れて引き受けてくれて本当にありがとう…明日は宜しく頼みます」
俺は、心強く優しい仲間達に囲まれながら明日の決戦日を迎えることとなった…