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「コレットお前は庶子なのだから、目立つな! ロザリンの後ろに控えていろ」
私の12歳の誕生日会にセオドア・クラフティ公爵令息は無表情に言い放った。
庶子の私が12歳でようやく愛人だった母と共にマカロン伯爵家に迎え入れられ、誕生日会を開いて貰っていた時だ。
不安だった親類縁者からも受け入れられて有頂天になっていたら、セオドアに冷水のような言葉を浴びせられ私は頭が冷えたのだった。
「庶子なのだから調子に乗るんじゃないぞ」
もう一度、丁寧に念を押されて私は泣きそうな顔で頷いた。
彼は姉のロザリンの婚約者で将来は義兄になるのだ。しかも公爵令息様、逆らってはいけない。
その後私は贅沢な誕生日会はお断りして、家族だけの質素な物にしてもらった。
セオドアも当然やって来て、毎年私にプレゼントをくれたが開封もせずにクローゼットの奥に仕舞いこんである。
いつか燃やしてやろうと思っている。
あの男の誕生日にも姉と招待されたが、姉のプレゼントは笑顔で受け取り、私には塩対応。
「お姉さまと二人で選びましたので、気に入って頂けると思います」
「そうかロザリンが選んでくれたのなら、素晴らしいプレゼントだろうな」
好き勝手言えば良い。渡したプレゼントに私のお祝いの気持ちなど全く込められていないのだから。
寄り添う二人はお似合いだ。セオドアは鉄色の硬い髪に水色の瞳、美しいお姉さまは柔らかな金糸の髪にヘーゼルの瞳。私はお姉さまをこじんまりさせた可愛らしい娘だと母は言う。決して美人ではないと。
このセオドアという男は姉を溺愛して、私が姉の害悪になることを決して許さなかった。
月に2度セオドアは伯爵家を訪れ、姉とティータイムを過ごすのだが、必ず私は呼ばれてマナーチェックを受けた。
「やはり庶子だな。カップの持ち方からして、マナーがなっていない。カチャカチャ音を立てるな。敬語の使い方がおかしいな、菓子をくちゃくちゃ食べるな、見苦しい!」
家庭教師よりも厳しいマナー講習を受けるはめになるのだ。
風邪をひいて寝込めば嫌味を言いに来た。
「庶子でも風邪をひくんだな。この薬を飲んでおけ。ロザリンにうつすなよ。さっさと治せ」
手土産の薬を飲んで、ヤツの嫌みにカッカと血がのぼって私は熱が上がり、翌日には治っていた。
「庶子は丈夫だな。繊細なロザリンにうつさないで良かった」
ええ、体だけは丈夫ですよ。おかげ様で!
極めつけは姉と同じ王都の学園入学を希望した時だ。
「は?庶子のコレットがロザリンの妹だと知られると体裁が悪い。来るな!」
3年もたてば庶子扱いにも慣れていたが、どうしてここまで言われなければいけないのか!
しかし逆らえずに私は泣く泣くクラフティー公爵家の領地内の女子学校に入った。成績もチェックされて、優秀な姉と比べてはネチネチと文句を言われた。
15歳になっても婚約者が出来ない。王都の共学に通って素敵な令息を見つける予定だったのに!
こんな私でも釣書は送られてきて何度かお見合いをする機会はあった、しかしあの男に潰された。
「我が公爵家と縁続きを狙う家ばかりだな、認めない。いいか、庶子であってもお前は私の義妹となるのだ。勝手な婚約は許さない。私が相手を選んでやる、有難く思え」
有難くない、関わらないで欲しい!
「お姉さま、あんまりです。私はセオドア様の奴隷ですか?」
「ごめんなさいコレット、今は耐えてお願い」
姉に頭を下げられると何も言えなくなる。いずれ姉は公爵家に嫁ぐのだ。そうなればこっちにセオドアは顔を出す機会も減るだろう、あの憎らしい顔を見なくて済む。
今だけは耐えてやる!
16歳になると悩める私にトーマス・ヘザー伯爵家の長男から縁談が舞い込んだ。
女子学校で最も仲の良い友人であるルイーズ様の弟で私より2歳年下の14歳、ヘザー家には何度か遊びに行ってトーマス様ともよくお話をした。
性格も悪くない。少しシスコンっぽいが私にも懐いて、とても可愛い少年だ。
それをあの男は────!
「トーマス・ヘザーは嫡男だ。二人姉妹なのにお前が嫁に出てどうするのだ」
「え?だって庶子ですから嫁に出ますよ」
「伯爵に正式に認知されているコレットにも相続権がある。お前は伯爵家を支える婿取りをしなければならない。トーマス・ヘザーでは実力不足だ」
「一体誰ならいいのですか?私も16歳、婚約者を早く決めないと優良物件はどんどん減ってゆきます」
「今は最高の男を吟味中だ。焦るな、庶子の分際で」
「庶子でなくても焦ります!」
トーマス様との縁談も向こうから辞退されてしまった。あの男が何かやったのだ!
いいわ、お姉さまの為、伯爵家の為にセオドアには最高の婿様を用意して頂こう。焦らずに待てばいいのよね!
読んで頂いて有難うございました。