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厄災の彼方  作者: Siranui
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第二話「新しい家族」

 朝焼けに包まれる。とても暖かくて、眩しくて思わず目が覚めてしまう。隣には佐奈さんがすやすやと眠っている。よく見るととても幼く見えてしまうのは気のせいだろうか。


「うぅん……逃げちゃらめぇだよ、雫月くぅん……」


 起きようとしても身体が動かない。そもそも年齢差からして勝てるはずがないのだが。


「大好きだよぉ、雫月くぅん……」

「あ、あの……苦しい、ですっ……」


 今よりも強い力で僕を抱き枕のように抱きしめる。そろそろ本気で苦しくなってきた。もしかして僕はここで絞め殺されるのだろうか。


「じゃあ……しよっか、お姉さんと……♡」

「や、やめ――」


 そして、互いの唇が瞬きする間に近づいてきて――







「はっ――!!」


 目を覚ました。直後に窓から差し込む朝焼けを左手で遮る。隣を見ると佐奈さんがいない。先に起きたのだろうか。


「あ、雫月君おはよぉ〜! よく眠れた?」

「ひっ……!? お、おはようございます…………」


 あの夢のせいか、思わず声に出して驚いた。いつもの佐奈さんがあの夢を見てから若干恐怖心を持つようになってしまった。


「どうしたの? そんなに驚いて……」

「い、いえ……その…………」


 夢で佐奈さんがあんな事を朝からしただなんて口が裂けても言えないな……


 もしあれが正夢になったら地獄を見る羽目になるので、頑張って何事も無かったかのように誤魔化す。そんな慌てふためく僕を見て、佐奈さんは手を口に当てて笑った。


「ほんと、子供って可愛いわね」




        ◇


 その後、佐奈さんが作ってくれた朝食を二人で食べ、身支度を教わりながら済ませる。何故こんな事をしたかと言うと、佐奈さんが突然お出かけしようと言ってきたからだ。



「ん? ……そこってどこに?」

「それはねぇ……」


 何やら誇らしげな顔をしながら佐奈さんは本棚へと歩き、棚の両端を押した。


「――!?」


 僕は思わず目を見開いた。何故なら棚を押した途端、棚が後ろに下がって右にスライドしたからだ。これが自動ドア……というものなのだろうか。


「さ、こっちこっち~」 


 何故本棚が自動ドアのように動くか気になって仕方ないが、それはまた後に聞くとして、僕は佐奈さんに連れて行かれるがまま本棚の奥に広がる部屋へと向かった。

 そこには円柱状の部屋が広がっていた。目の前の机の上にある灯り一つで周辺がぼんやりと明るいだけで、見上げてもその先が真っ暗で何も見えない。


「ここは……」

「驚いた? ここは読書部屋だよ。でも私はあんまり使って無くてね〜」

「じゃあ、誰がここを……?」

「いい質問だねぇ……今はあの目の前の白髪おじさんが使ってるよ」

「何じゃその言い方は。白髪(こいつ)は生まれつきからじゃい!」


 さっきまで誰もいなかった椅子から突然一人の老人が現れた。何故か(ひたい)にツノのようなものが生えている。


「コホンッ、さて噂の人間がこの坊主じゃな。儂はミカゲ。訳ありで今はこの部屋に幽閉されておる」

「ちょっと〜、幽閉って言葉は無いんじゃないのおじさん!」

「うるさいわい! お主の部屋が日当たり良すぎるのが悪いんじゃ!」

「いやだって、太陽の光をずっと浴びない部屋って何か嫌じゃん。この部屋みたいで」

「お主……この部屋を侮辱するとは許さんぞ!!」

「いやそもそもここ、私の家だから。おじさんは実質私の居候(いそうろう)に過ぎないよ」

「何じゃと貴様ああああ!!!」


 自分も自己紹介しておきたかったのに、急に佐奈さんが余計な一言を割り込んできたおかげで話が脱線してしまった。


「はぁ……それで、儂に何の用じゃ」

「え〜っとね、この子……雫月君に新しい武器を作ってほしいんだけど〜」

「……具体的には?」

「もちろんあれに決まってるでしょ、戮魔刀(りくまとう)だよ」

「はぁぁっ!? 貴様、この坊主にそんなものを渡す気か! 幼いとて我らと違い純粋な人間じゃ! もし下手に動いたら殺されかねないぞ!!」

「いや、雫月君は絶対そんな事しないよ。だってあの焼けた町からこの子を助けたの私だし。命の恩人だって思ってるし、私も雫月君は可愛い弟みたいなものよ」


 佐奈さんは何の恥じらいも無くそんな事を言うので思わずこっちが恥ずかしくなる。

 確かに両親が謎の『厄災』によって火の海と化して、同じくそれに飲まれそうになってた僕を助けてくれた佐奈さんは命の恩人だ。でもそれとは別に弟だなんて思っているとは思わなかった。


「……ちなみに坊主、全然話聞いてなさそうじゃがな」

「いやそりゃそうでしょ。だっていきなり刀持たされるだなんて思わないでしょ普通」

「それをしようとしてるのは貴様じゃぞ!」

「雫月君だって立派な男の子よ! 近い将来かっこよくなった雫月君に守ってもらいたいの〜!」

「全く……妄想の激しい女じゃ」


 妄想に胸を膨らませている佐奈さんにミカゲさんは深くため息をつき、僕の方を振り向いて本題に戻った。


「さて、坊主よ。佐奈はこんなふざけた事を言っているが、お主はどうなんじゃ?」

「え、えっと……」


 な、何の話をしてたんだっけ。確か刀がなんとか〜って言ってたような……


「まぁ覚えて無くても無理は無い。所々で脱線してしまったからのう。それで、さっき佐奈がお主に戮魔刀(りくまとう)という刀を持たせると言っておったんじゃが、お主は欲しいか?」

「刀……ですか」

「ちなみに言うとお主はまだ4歳といったところじゃ。だから儂としては、そんな幼いお主に『悪魔を殺戮(さつりく)する刀』とかいうそれこそ悪魔のような武器を持たせたくはないのじゃ。だがお主が持ちたいというのなら儂は止めん。お主の意見を尊重しようぞ」

「悪魔を……殺戮……」


 言っている事が難しくてよく分からないが、恐らく悪魔を殺すための刀なのだろう。確かにミカゲさんの言う通り、こんな小さな僕にそんな危ないものを持たせるのは危ないと思うし、当然僕自身刀なんて持った事が無いから怖い。

 

 でも、これで両親の(かたき)がとれるなら……あの時の『不自然な災害』の真実が知れるなら…………


 そして、佐奈さんやミカゲさんといった僕の『新しい家族』を守れるなら――

 


「……ミカゲさん。僕、刀……欲しいです! 助けてくれた分、今度は僕が佐奈さんを守りたいんです!

 お母さんから教えてもらったんです……良いことをされたら必ずその分お返しをしなきゃいけないって。だから、そのお返しがしたいんです! そして、あの火の海の事についても……もっと、知りたいんです……!」

「――!」


 ミカゲさんは声には出さなかったものの、口を開けて驚く表情を浮かべた。

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