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第8話、声の小さい狐

「は? ワーム?」


 授業が始まって、数日たった日だった。


「そう、ワームの収集、今日の授業」

 と、歩きながらラウルが言う。


「どうしてこうも、

 嫌な授業ばかりなわけ!

 昨日もねずみだったし!」


「ラットコアの選別ね。

 アスナ触れなかったよねー」


「黒羽根がバカにして来て、

 ほんと頭にきたわ」


──やっぱり触れねぇじゃねぇか、

  箱入りお嬢様が。


 思い出しただけでも、頭にくる黒羽根。


「嫌でも、授業だからねー」


 ニコニコ笑いながら、ラウルが言った。


 学園の南側に広がる、岩石砂漠。

 大きな岩がゴロゴロしてる、岩石地帯。


 その入り口に、同学年の生徒、

 30人くらいが集まった。


 担任のレオナルド先生がその前に立つ。


 怖い顔した、渋顔の先生。

 お父様にちょっと似ていて、怖い。


「ワームはコカトリスの良質の餌である。

 岩石地帯で倒れたら、捜索が難しい。

 ゆえ、必ず2人1組で行動する事!

 では、解散」


 先生の号令で、生徒が散らばり、

 授業が始まる。


「さ、僕たちも行こう」


 ラウルが、バケツ持って

 火ばさみカチカチしながら言ってくる。


 今日は、日差しが強くて、すごく暑い。


「私、あの岩の影で休んでますわ」


「え? 授業は? ワーム」


「絶対ワームなんか触らない!

 ラウル、代わりにやって」


「いや、ちょっと!」


「暑いのも嫌! 死んじゃう!

 だから、休んでますわ」


「でも、2人1組って、

 僕が倒れたどうするのー?」


「あんまり遠くに行かないで」


「もう……わかったよ。

 近くで見つかるかなぁ、ワーム」

 ラウルが羽根を広げて飛んでいく。


 一番大きい岩の、風通しの良い日陰。


 そこで休もうと近づくと、先客が居た。

 私に気が付いて、顔をあげる。

「あ……」


 大きな麦わら帽子、白い服で、白い髪、

 目が細い、糸目。

 あぁ、クラスメイトに、こんなのいた。


「ちょっと、そこ、

 私も、休んでよろしくて?」


 話しかけると、男はビクリと驚いて、


「あ、うん……」

 小さな声で答え、立ち上がった。


「ちょっと、どこ行くんですの?」


「え? だって、君が……休むんでしょ?

 僕は……行くから」


「二人くらい別に入れるでしょ」


 日陰はでかい、譲ってもらう必要はない


「私が追い出したみたいでしょ。

 やめてよ」


「うん……」


 男は顔を伏せて、呟き、また座る。


 暗くて、ジメジメしたヤツだ。

 声も小さいし。


「あんた、名前、何?」


「ココ……ココルディア・テイラー」


「テイラー? 聞いた事ありませんわ」


「僕はキツネだから。貴族じゃない」


 あぁ、キツネ種か。

 家より家族単位の繋がりが強くて、

 貴族制や領地制を取ってない。

 

 どうりでキツネ目な訳だ。

 髪が白いのは、見た事ないけど。


「あなたもサボり?

 それとも暑さにやられた?」


「へ? あ……サボりじゃ……ないよ。

 僕、誰とも組めないから……」


 なんか悲しそうな声で、膝をかかえる。

 なにそれ? 二人一組になれないから

 できないって事?


「僕と、一緒に居ると、

 みんな不幸になるんだ」

 と、ココは呟く。


「不幸?」


「僕の中には『氷狐』って魔族が居るんだ

 生まれる前に、身体に入れられた」


 は? それは……


「いつか、僕の魂を食べて、

 体を乗っ取って、完全に復活するんだ」


 あぁ、私と同じだ。

 いつか、生贄となる。

 その運命を、生まれながらに背負う。


「今までも、何度か乗っ取られて、

 その度に周りの人が傷ついた。

 だから、僕は誰かと一緒に

 いないほうが良いんだ」


 消え入りそうな声で、体を縮こませて。


 なにそれ……


「僕が死ねば、みんな幸せなんだ

 誰も傷つかなくなるから。僕なんて……」


 背中が冷えていく。


 ココの言葉が、真っ直ぐ私に刺さる。

 レオンに言われた言葉が蘇る。


──これしか方法がないのです

  大切な人達が救われるため。


 みんなの為に、みんなの幸せの為に

 私に死ねと!


 あぁ、そんなの!


「ばっかじゃないの!」

 私はココに向かって叫ぶ。


「あんたバカぁ? 何考えてんの?」


「え?」


「一緒にいると不幸になる?

 そんな訳ないでしょ!」


「でも……」


「幸せか、不幸か、決めんの、

 あんたじゃないから!」


 人を、勝手に、不幸と決めつけんな!

 相手を、勝手に、不幸と決めんな!


 勝手に殺そうとすんな!

 

 人の為に、死んでやる気なんて

 ないから!


「一緒に居たいの? 居たくないの?」


「え? なに?」


「ワーム、取りたいんでしょ!」


「うん……そりゃ、まぁ」


「じゃあ、やればいいのよ!」


 私は両手を握りしめて、

 全力で叫ぶ。


「ラウル! ちょっと、ラウル!」


「なにー? アスナ、呼んだ?」

 岩の上から、ラウルが顔を出す。


「この子が、一緒に

 ワーム収集してくれるそうですわ」


 ココを指して私が言うと、

 えぇ? と、ココが声をあげる。


 ラウルが

「え! 本当!?」

 と、笑顔で降りてくる。


「一緒に集めてくれるの?

 やったぁ1人で困ってたんだ!」


 ニコニコと笑って、ココの手を取る。


「僕、ラウル。君は?」


「あ……ココ」


「よろしく! ココ。これで、遠くまで

 ワーム集めに行けるよー」


「キリキリ働きなさいな」

 と、私が言うと、

 もー、とラウルが苦笑いを返す。


「あの……ありがと」

 ココが呟くように言う。


「お礼を言われる事はしてませんわ。

 それより、あなた」


「ん?」


「嬉しかったら、笑いなさい。

 きっと、似合いますわ」


 ココにそう言うと、ココは半開きの口で


「あ……うん」

 と、呟いて、


「へへっ……」

 と、ふんわりと笑った。


 あぁ、やはり、キツネ目には、

 笑顔がよく似合う。


 2人を見送って、ふうと息を吐く。


──僕が死ねば、みんな幸せなんだ。


 ココの言葉が湧き上がってくる。


 私が死ねば、みんな幸せ。

 そう私に言う人もいるんだろうな。


 レオン様みたいに。


 なんせ、世界を滅ぼすのだから。


 死んでやる気、

 さらさら無いけど。


 ふうと息を吐いて、

 垂れる汗を拭った。


「おい、サボってんのかよ、お嬢様」

 上から声がした。


「は?」

 不快感で反応した私の元に、


 バサッと羽根を翻して、

 ジルが降りてきた。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

『次回予告』


「ちょっと! こいつなんとかして」


「は? それ、人に物を頼む態度?」


「……お、お礼は言わないから。

 あんたのセイだから!」


「わかったわかった、

 大人しく抱かれてろ」



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 今日もお疲れ様! モフモフー

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