第7話、スーツのコウモリ羽根
「こ、ここ、私の部屋!」
「えぇ、知ってますよ」
と、スーツの男は余裕の顔で答える。
「っていうか、
どうやって出てきたんですの?」
たしかに、たしかに居なかったのに!
「どうやって? こうやって、です」
ドロンと、黒い煙をまとって
男が消える。
「へ? 消えた?」
そしてすぐに、
ベッドに腰掛けて、現れる。
え? これは、まさか
「……精神形状体、魔族」
「そうです。さすがにご存知でしたか。
私は魂だけの存在」
「まず、名を名乗りなさい!」
「カルアです。
ご主人様にもらった大切な名です」
「主人?」
どこかの家の眷属だと言うこと?
つまり……
「わ、私を殺しにきたの?」
レオン様がそうだったように。
私を殺す事で、世界を救おうと。
「まさか。逆ですよ」
と、男は笑う。余裕しかない、
みたいな笑い方をする。
「私は、あなたの中で復活する魔族を
主人として使える者、使い魔」
「は?」
「あなたが立派に生贄となり、
ご主人様が復活するのを見守ります」
私の中の悪魔の使い魔?!
「余計にたちが悪い!」
カルアはまたドロンと消え、
私のすぐ目の前に現れる。
黒いコウモリ羽根で浮いて。
その細い指で、
私のアゴをツイと持ち上げる。
「これは、忠告です。
あなただいぶ嫌がってそうなので」
「な……なにを!」
「立場を、受け入れなさい。
ご主人様の贄になる事を、喜べば良い」
こ、コイツ、顔が近い!
「やめて! この」
腕を振ると、当たる前に消え、
少し向こうにまた現れる。
「気に入りませんか?
じゃあ、こういうのはどうしょう?」
両手を広げたカルアが、
白い煙に包まれる。
消える時と感じが違う。
しゅわしゅわ湧いた煙に包まれ、
その姿が変わる。
黒の、4枚羽根、黒髪……
「まさか……レオン様」
レオン様が笑う。
心を鷲掴みにする、その笑顔で。
「私、どんな姿にも、なれるんで」
と、レオンの姿でカルアが言う。
「なんで……」
なんで、その姿を知ってる?
「私、ずっとあなたの近くに
いましたから。全部、知ってます」
は?
「あなたが、なにをされて、
なにをされたいか、全部知ってます」
知ってて、その上で、これを……
こんな事を……
「悪いようにはしませんよ」
そう言って、近づいてくる。
あ……
頭が混乱して、うまく力が入らない。
心臓が勝手に鼓動を始める。
レオンの手が伸びてくる。
その手が本人でないと知っていて、
拒絶するすべを持たない。
抱きしめられるのを、拒否できない。
その感触が、心を埋める。
「受け入れてください」
耳元で呟かれて、脳を揺さぶる。
「……カルア」
口に出す、その名を。
カルアが笑って、私の顔を覗き込む。
「お望みなら、いくらでも、
して、差し上げられますよ」
頬に手を添えられて、
顔が近づいてくる。
あぁ……これは、
私は目をつぶり、
唇が重なる前に、
コブシを突き出した。
どろんと、当たる前に消えた。
私は目を開けて、
再び現れたカルアを睨む。
すでに、元のスーツ姿に戻っていた
「あんたが、
すごく頭に来る事は、わかった」
「気に入りませんでしたか、残念」
「私、あんた、だいっきらい!
今すぐ消えて! 二度と現れないで」
「そうですか。では今日は消えましょう
でも、また現れますからね」
煙をまとって、カルアが消える。
そして、すぐ後ろで、ボンと音がする。
「これは忠告ですからね」
後ろから耳元で言われて、
ゾクと背中が震える。
「変な気を、起こさないで下さいね」
その手が両肩に乗って、
ドクンと心臓がなった。
「やめて!」
「ではまた」
カルアは消え、黒い煙もすぐ消えた。
私は、誰もいなくなった部屋で、
1人荒い息を繰り返す。
心臓が鳴りすぎて痛い。
私はフラフラを歩いて、
ベッドに倒れ込んだ。
使い魔? 眷属? いやそれよりも
「レオン様……」
目をつぶれば蘇る。
感触、抱きしめられた感触。
でも違う。
レオン様は温かかった。
あいつ……カルアは、
すごく冷たかった。体温が、感触が。
「ぜんぜん、違うのよバカ」
呟いて、顔を押さえる。
レオンの顔を、感触を、声を、
突きつけられた剣を、
思い出して、泣いた。
ずっと、声をあげて、泣いた。
あぁ、あの男、カルアは
ずいぶんと、余計な事をしてくれた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
『次回予告』
「あんた、名前、何?」
「ココ……」
「あなたもサボり?」
「違うよ……僕と、一緒に居ると、
みんな不幸になるんだ」
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今日もお疲れ様! モフモフー