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第6話、黒の4枚羽根


 セルディア魔獣学園は

 広大な敷地をもつ学校で、

 敷地内には、森も山も砂漠も含まれる。


 魔獣の小屋も点在しており、

 授業を行う教室棟も、

 生徒が宿泊する宿舎もあった。


「二人共受かって良かったよね」


 ラウルが私の荷物を持ちながら、

 嬉しそうに言う。


「ラウルはともかく、

 私が落ちるわけないじゃない」


「アスナ、勉強は誰よりできるからねぇ」


「当然ですわ」


 学園の小道を歩きながら、

 空を見上げる。


 スカイドラゴンが近い。

 屋敷からだと、あんなに遠かったのに。


 生えてる植物も、

 流れる風も、屋敷に流れるそれと違う。


「もうすぐ歩くと宿舎だって

 早く荷ほどきしないと、

 明日から授業だから」


「ラウル、私の荷物も片付けといて」


「えー、じゃあ、急がないと

 僕の荷物までまわらないよぉ」


 ラウルが、両手いっぱいの荷物を、

 抱え直した時だった。


 バサと大きな音がして、

 風の塊が落ちてきた。


「うわぁ!」

 ラウルが驚いて、後ろに倒れる。


 風を纏った黒い物体は、

 地面に降り立ち、翼を伸ばす。

 背中から4枚の羽根を持つ男が、

 立ち上がった。


「黒の……四枚羽根!」


 思わず呟いた私の方を、


 黒髪の、その男が振り返って、

 不機嫌そうに顔をしかめた。


「は? なんだお前」


 ドクンと心臓が鳴る。

 あぁ、嫌な事を思い出した。


「ちょっと、あなた!」


 私は男の向かって叫ぶ。


「あ?」


「私、あなた、大嫌いですわ!」


「なんだよ、いきなり」


「大体、危ないでしょ。

 今、羽根で落ちて来たでしょ」


「あぁ」


「ラウル、倒れたでしょ。

 怪我したらどうするの!」


 私が指すと、

 ラウルが荷物いっぱいで

 立ち上がって


「ぼ、僕は大丈夫だよ。

 アスナの荷物も汚れてないよ」


「だってさ」


「そういう問題じゃありませんわ!」


「気にしてない方が悪い。

 次は空も気にしとくんだな。ここじゃ、

 魔獣だって降ってくる。気をつけろよ」


「落ちてきといて、何様なんです?

 あんた、どこの家の誰!」


「人に名前聞く時は、

 まず、自分で名乗れよ。お前は?」


「私は、アスナ。

 アスナ・クラウジットですわ」


「は? クラウジットって……」

 男の顔が歪む。

 私の恰好を上から下まで見て、

 あぁ、と納得したように。


「クラウジット卿がコネ入学させた

 お嬢さまって、お前か」


「こ……こね!」


「魔獣も触れない箱入りなんだって?

 ここじゃ、誰も特別扱いしねぇからな

 お嬢さま」


 あきらかに見下して、

 バカにした様子で。

 

「な……そういうあんたは、どこの誰よ?」


 荷物を抱えてる所をみると、

 今日入寮してきた新入生、

 つまり同級生だ。


「ジル、だ。ジルディット・ブレーナム」


「ブレーナム?」


 辺境の、小さな領地だ。


「なんだ、落ち目の属領地ですわね」


「なんだと、この野郎」


「あなたなんて、お父様に頼んだら、

 すぐ退学にできるんだから」


「やってみろよ、お嬢様」


「ちょっとやめて二人共!」

 ラウルが慌てて、間に入った。


「初日に喧嘩しないで! 君もやめて。

 アスナ、コネじゃないし、

 魔獣も触れるよ」


「男しか入れない学校に、

 女で入学してんのが、

 コネでなくてなんなんだよ」


「それは……」


「それとも、脱いだら付いてんのか?

 ちょっと見してみろよ、お嬢様」


 は? なに言い出してんのこいつ。


「いい加減にしろよ!

 それ以上は、僕だって怒る」


 ラウルが叫んで、その腰から、

 バサりと翼が伸びた。


 風が、集まってくる。

 ラウルの青い髪が、浮き出す。


 羽根を持つ、風使いは、

 風を操る。


 そういやラウルも風、使えるんだっけ

 と、忘れていた事を思い出す。


 ジルはそんなラウルを見て


「白羽根か」

 と、見下したように言って、


「お前、名前、なに?」

 と、聞いた。


「へ? ラウル、だけど」


「ラウル・何? どこの家?」


「いや、ただの……ラウル」


 ラウルがそう言うと、

 ジルはふん、と笑った。


「親なしの、拾われっ子か」


「な……」


 すん、と風が止んだ。


 お兄様が言っていた。

 ラウルの風は、

 感情に大きく左右される。


「捨てられたのか? 不憫だな。

 お嬢様の下僕で奴隷で、不幸だな。

 理不尽な事ばっかりだろ」


 ラウルの背中が震えてるのが分かる。

 私は小さく息を吸い込んで、

 一歩前にでた。


「言いたい事は──」

 コブシを握りしめて、


「──それだけですの!」

 思いっ切り叩き込んだ!


「ぎゃ! アスナ、殴った?」


「なにしやがる! この!」


「謝れ! 謝りなさい! ラウルに!」


「アスナやめて! 僕大丈夫だから!」


「ラウルは捨てられてない!

 ラウルは不幸じゃない!」


「上っ等だ! やんのかコラ!」


「ラウルは、私の幼馴染!

 奴隷じゃなーい!」


「やめてアスナ! ジルも対抗しないで

 うわっ! ちょ! ぎゃ!」


 青い空の下、

 三人の叫び声が学園に響いていた。



  ◇◇◇◇



「痛っ! あの黒羽根、思いっ切り

 蹴り飛ばしやがりましたわ」


 腕の青あざを擦りながら、私は口吐く。


「でも、ジル。顔は殴ってないね」


 ラウルが青あざに湿布を貼ってくれる。

 ラウルの頬にもあざがある。

 ほとんど巻き込まれただけだが。


「あいつ、次あったら容赦しませんわ」


「アスナと、本気で喧嘩できる人、

 久しぶりだよね」


「ラウル、なんで機嫌良いんですの?」


「へ? いや、アスナ言ってくれたから」


「なにを?」


「僕は、不幸じゃない、って」


 なに当たり前な事、言ってるのか。


「当たり前でしょ。私の側にいるのが、

 不幸な訳ないじゃない」


「うん、そうだね。僕は不幸じゃないよ」


 ふふっ、とラウルは笑う。

 いつも幸せそうなのを、私は知ってる。


「というか、この椅子硬すぎ!」


「えぇ? ここ、僕の部屋なのに」


「座れたもんじゃありませんわ!」


「今度クッション作っておくよ。

 アスナ専用の」


「早めにね」


「ちょこちょこ来る気なんだ、僕の部屋」


「当然でしょ。ダメなの?」


「まさか。嬉しいよ」

 そう言って、また笑った。



  ◇◇◇◇



「じゃ、明日の朝、起こしにくるからね」


「遅れたら承知しないから」


「わかってるわかってる、じゃおやすみ」


 自分の部屋の前で、ラウルを見送る。

 扉をしめて、電気をつける。


 ラウルの部屋よりは広い。

 屋敷にある部屋よりは狭いが、

 不満はない。


 ラウルが荷物は配置してくれた。

 ドレッサー、クローゼット、ベッド。


「うん、気に入った。良い部屋ね」


 見回して、笑顔を作った時だった。


「ほんと、良い部屋ですね」

 後ろから男の声がした。


「へ?」


 振り返ると、スーツを来た男がいて、

 笑ってお辞儀をした。


 その背中に、真っ黒の

 コウモリみたいな羽根があった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

『次回予告』


「名を名乗りなさい!」


「カルアです。

 ご主人様にもらった大切な名です」


「わ、私を殺しにきたの?」


「まさか。逆ですよ」



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 今日もお疲れ様! モフモフー

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