表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/23

第5話、一緒なら

「初めての家出は、どうだった?」


 アークは部屋に入るなり、

 ニコニコしながら言ってきた。


 ラインハルト家から戻った、

 次の日の朝の事だ。


「お兄様……もっと言うこと

 ないんですの?」


 私は自分の部屋のソファーで、

 そんな兄の姿にため息をつく。

 

「俺のキマイラ、役に立ったか」


「お兄様みたいでしたわ。

 あとで、褒めてあげて下さいまし」


「いっぱい褒めたし、褒美もやった

 満足そうだった」


 そうか。怪我がなくて良かった。


「なにがあったかは聞いた」


 アークは急に真剣な声を出して、

 ボフンと隣に座る。


「怖かっただろ。大丈夫か」


「お兄様、もう子供じゃありませんから」


 レオン様に殺されそうになった事。

 怖くなかった訳じゃないが、

 それ以上に、哀しく……虚しかった。


「そうか。親父はなんか言ってたか?」


「怒られましたわ。すごく」


「だろうな。家出後は、まぁそうなる。

 俺も何度かした」


 笑いながら、アークは言う。

 できれば、一緒にしてほしくない。


「レオン様のお家は、

 どうなるんですか?」


「どうもならないさ。ちょっと仲は悪く

 なるだろうが。それだけだ」


 力も持った物が、その力を持って

 願いを叶えようとする事は、

 正当な事だ。


 たとえ世界を滅ぼす結果だろうと。

 それを止める為に、令嬢を殺そうと。


 力には。力で対抗するしかないからだ。


「でも、今回の件は知れ渡る。

 情報操作はするが。それでも漏れる

 今回みたいに」


「そうなると。どうなるんです?」


「世界を守りたい奴が、

 お前を殺そうとするだろうな」


「ひっ!」


 私は思わず自分を抱きしめた。

 そんな私を、アークは優しく撫でる。


「だからお前は、学校に行け」


「え? ビーストテイナー養成の?」


「そうだ。セルディア魔獣学園」


「なんでですの?

 ビーストテイナーなんて嫌です」


「あそこはな、安全なんだ。

 独立性が高くて、

 委員会も貴族も手がだせない」


「安全?」


「父上も、お前を守る為に、

 無理して入れようとしてるのかもな」


 無理して……

 慣例的に男しか入れない学校に

 ねじ込んでまで。


「我が子を魔族復活の生贄にしたのに

 守る気はあると?」


「まぁ、2%くらいはあるかもしれん」


「ありませんわ。2%も」


「ま、そう思ったほうが、

 俺らの精神衛生上いいんだよ」


 アークは諦めたように笑いながら。

 立ち上がった。


「だから、学校に行け」


「嫌ですわ。毎日小屋の掃除するとか

 臭いし、汚いし、大変です」


「おぉ、大変だ、と知ってるだけで

 たいしたもんだ」


「それに……魔獣は嫌い」


「そうか? 俺はお前は、

 良いビーストテイナーになると

 思うけどなぁ」 


「は? 冗談でしょ」


「ま、後で、キマイラに顔見せてやれ」


「え? なんでです?」


「心配してたからだ。

 なんでかは、教えてくれないが」


 あぁ。帰り道、ずっと泣いてたから。


「ゆっくり考えろよ」

 と、笑って、

 アークは部屋から出て行った。


 顔、見せてみるか、キマイラ。

 お礼くらいは、言わなきゃ。


 私は、ぼんやりとそう思って

 立ち上がった。



  ◇◇◇◇



 キマイラの小屋にはすでにラウルが居て


「あれ、アスナどうしたの?」

 スコップを持って、掃除をしていた。


「ごめん、僕になんか、用だった?」


「いや、違いますわ。続けて」


「そっか、良かった、続けるね」

 ラウルがにじむ汗を拭きながら、

 スコップで泥をかき出す。


「昨日、誰か、掃除してくれた、

 みたいなんだけど、

 すっごく仕事が甘いのね」


「は?」


「だから、全部やり直しなの。

 アスナ、なんで怒ってるの?」


「な、なんでも無いですわ!

 知りません。続けなさい」


「う?……うん、続けるね。

 あ、小屋の外にキマイラ出すけど、

 アスナ怖いよね、後にする?」


「いや、大丈夫。出していい」


「え? そうなの? じゃ。だすよー」


 中からラウルの声がして、

 キマイラがのそのそと出てくる。


 私の顔をみて、フンと息を吐いた。

 元気そうで良かったとホッするように。


「あ。あの。昨日はありがとう」


 伝わるかは疑問だが、お礼は口にする。


「助けてくれて、感謝いたしますわ」


「ぐるるる……」


 喉のを鳴らして、近づいてくる。

 あぁ、撫でて良いと、そういう事か。


 キマイラのたてがみを

 モフモフ撫でてやると、

 気持ち良さそうだ。


「この私にナデナデを要求するなんで、

 何様ですの、もう……」


 ワシャワシャと、頭を撫でてやる。

 本当、ふてぶてしくて、お兄様みたい。


「あ、あの。昔、お兄様が

 あなたをけしかけた事があって」


 そうだ。まだ小さかった頃だ。


──なんだ、アスナ怖いのか? 平気だ

  キマイラ、触ってみろ。ほら!


 そうやって、

 無理矢理、近づけられた事があって。


「その時、私、

 あなた蹴り飛ばしましたよね」


 そうだ、思いっきり、蹴った。


「だから……その」


 今は。悪かったと思ってる、だから


「だ、だから、あなたが昨日、

 私を、しっぽで叩いたの、

 おあいこにしてあげます」


「ぐる?」

 キマイラは首を傾げて、

 仕方ないなぁ、みたいな様子で笑った。

 本当、お兄様みたいだった。


「あれ? アスナ、キマイラ触れたの?」

 ラウルが出てきて、驚いて言う。


「ち、違うわ。たまたまよ」


「すごいね! 僕はまだ怖いよ、

 触れないよ、キマイラ」


 と、遠巻きに距離を取る。


「そうなの? でも、ラウル、掃除とか、

 楽しそうに世話してるのに」


「世話は好きだよ、魔獣もね。

 アーク様みたいに、なりたいし」


 あぁ、お兄様か。

 お兄様みたいに、魔獣操れたら


 どこにでも、行けるだろうか。

 レオン様は、連れてってくれなかった。

 あんなに、おおきな翼があったのに。


 思い出して、ジワと涙がにじむ。


「あ、アスナ学校行くんだって?」


「え? あぁ、ビーストテイナーの?」


「行くんでしょ? いいなぁ」


「いや、行かないから」


「え? なんで?」


「毎日、魔獣の掃除とか、嫌

 小屋とか、近寄っただけで臭いし」


 やったらやったで、

 仕事甘いとか言われるし。


「今、アスナ平気そうじゃん

 キマイラ触れてるし」


「とにかく嫌ですわ。

 ラウルが代わりに行けばいいんです」


「僕なんか行けないよ。

 授業料も高いし、全寮制だから、

 寮費も生活費もかかるんだよ。

 僕の身分じゃ無理だよ」


 ふーん。


「だから、羨ましい。新しい世界でしょ?

 きっと知らない魔獣もいるし

 見たことない景色も、世界も」


 羨ましい?


「良いなぁ。きっと楽しいよね。

 ビーストテイナーになるの」


 なんで、ラウルが羨ましがってる?


 そんな立派な羽根があるのに?

 好きな時、好きな所に、行けるのに?


 私より、自由なはずなのに。


 あぁ、そうだ。

 行けると思ってない人間には、

 その方法が見えないのだ。


 あんなに立派な羽根があるのに。


 学校に行ったら、あるだろうか。

 この運命から、この呪われた体から、

 逃げ出す方法。


 きっと新しい出会いも、

 新しい知識もあって、だから……


 そうだ、探さなきゃ、なんとしても。


 この運命から逃げ出す方法を。

 自分の手で、足で、逃げ出す。

 そうだ。


「ラウル!」


「ん? なに?」


「一緒に行こう」


「え? なに? どこに?」


「学校、ビーストテイナーの」


「え? 僕と?」


「一緒に行きます。

 一緒なら行きます」


「いやだから……僕には無理だって」


「無理とか言ってんじゃありませんわ!

 行きたいの? 行きたくないの?」


「い、行きたい、です……」


「じゃ、決まり。お父様に、ラウルも

 一緒なら行くってかけ合いますわ。

 ちょうどお目付け役が欲しいとか

 思ってるに、決まってます」


「え? えぇ?」


「お金は、お兄様に出させます。

 有無を言わさず」

 

「え? あの、だって本当に良いの?」


「私の魔獣の世話、掃除、全部代わりに

 やってくださいまし。

 あと。毎朝、起こしに来て」


「う、うん。もちろん!」


「あ、お昼も選んで持ってきて。

 わかってますわね」


「うん、うん! わかった」


「は? なんで泣いてるんですの?」


「な、なんでもない、うん」


「入学試験、落ちたら許しませんわ」


「うん。わかってる。

 ありがとう、アスナ」


「そうと決まれば、ちょっと運んで!

 高い所に行きたい気分なの」


「えぇ? でも、まだキマイラの世話……」


「掃除はもう終わりでしょ?」


「爪の手入れも必要なんだ。

 昨日だれかやったみたいだけど

 すっごい下手なのね」


「はぁ?!」


「だから、なんでアスナが怒るのー?」


 そんな2人を、キマイラが眺めて、

 やれやれ、と息をついていた。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

『次回予告』


「黒の……4枚羽根」


「は? なんだお前」


「私、あなた大嫌いですわ!」


「なんだよ、いきなり」



 楽しかった、って方は、

 いいね、で応援よろしく!


 今日もお疲れ様! モフモフー

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ