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第4話、世界の為に

 突然来たのに、

 ラインハルト家の人はみんな優しくて、


 泥だらけの私に、

 シャワーを貸してくれて、

 新しいドレスも着せてくれた。


 髪もセットし、メイクもしてくれた。

 支度を終えて、客間に行くと、

 レオンが待っていた。


「お待たせしました、レオン様」


「アスナ……その」


「どうされました?」


「いや改めて、あなたは、綺麗だなと……」


「へ?」


 顔を赤らめて、恥ずかしそうに

 言われては、私の顔も赤くなります。


「あ、ありがとうございます」


 赤い顔を両手で隠して、

 レオンの向かいのソファーに座る。


 客間は広くて、低い机を囲んで、

 いくつものソファーが並んでいた。


「あの、あなたが良ければ、ですが」


 と、レオンは言いにくそうに。


「隣に、座ってくれませんか?」

 と、自分の隣を指した。


「え?」


 ブワッと顔がほてりだす。

 隣に? レオン様の隣に。


「よ、よろしいのですか?」


「もちろんです。

 あなたを……近くで感じたいのです」


 私は、鳴り出した心臓を抑えながら、

 レオンの隣に移動して、

 同じソファーに腰掛けた。

 

 すぐ隣に彼がいる。


 その事だけで、

 心臓が鳴り止まなかった。


「あの、突然来てすみませんでした。

 しかも、キマイラで」


「あなたは、魔獣は苦手だとばかり……

 乗れるようになったんですか」


「あ……その、それしか

 お父様に黙って来る方法が無くて……」


 なりふり構わず来たもんだから


「そこまでして、

 会いに来てくれたのですね」


「レオン様に、会いたかったのです」

 

 あなたに、どうしても。


「あの、レオン様。

 父が婚約を勝手に破棄して、

 でも、私は……」


 私は、


「私は、レオン様が好きです。

 だから、そのレオン様さえ

 よろしければ」


 よろしければ、お願い


「私を! 連れてってください。

 私をあなたの側に、あなたの所に」


 クラウジット家の外に

 この呪われた運命の外に


「あなたと一緒に居たいんです!」


「アスナ……」


 悲痛に叫んだ私を、

 レオン様が抱きしめる。

 その勢いと強さが、

 私の心を慰める。


 貴族の娘とか、悪魔の生贄とか、

 もう嫌なんだ。


 私は1人の人間として、

 あなたに愛されたいだけなのに。


「俺も、アスナが好きだ。

 ずっと、一緒にいたい」


 レオンの言葉に、心が満たされていく。

 私は背中に手をまわし、

 レオンの大きな背中をギウと握る。


 バサとその背中から、翼が現れる。

 黒くて、大きな四枚の羽根。


 まるで私を連れ去ってくれるようで、

 その時は嬉しかった。


 知らなかったんだ。

 羽根が生えた風使いにとって、

 羽根を伸ばすというのは、

『戦闘態勢』も意味するのだと


「でもその前に……あなたの中に、

 魔族がいるというのは、本当ですか?」


……え?


 反射的に体を離す。

 レオンの顔を見る。


「その魔族が『ルシファルス』

 だというのは、本当ですか?」


 憐れむような、慈しむようなその顔で、

 その言葉を放つ。


 ビクと体が反応して、

 反射的に立ち上がる。


 混乱しだす頭で、レオンを見下ろす。


 どうして……

「どうして、レオン様が、

 その名を知っているのですか」


 呟いた私に、レオンは視線を逸らす。


「知らない風使いは居ない。

 風使いでなくても同じです。

 それは、絶対に復活させてはならない」


 世界に終わりをもたらす魔族だから

 世界を滅ぼす悪魔だから。


「アラド様が復活させようとしてると

 情報が入った。それは絶対に、

 阻止しなければなりません」


 わかりますね?


 と、レオンは諭すように言ってくる。


 わかりません。

 何もわかりません。


「アラド様が、力を持って

 ルシファルスの復活を実行する

 と、いうなら。我々は力を持って

 それに対抗しなければならない」


 なぜ、立ち上がるのですレオン様。

 なぜ、剣を持っているのです?


「あなたの中の魔族を

 復活させる訳にはいきません」


 あぁ、これが。

 政治的意見の対立。


 世界を滅ぼしたい父上と、

 世界を守りたいラインハルト家の。

 絶対に相いれない対立。


 だから、お父様は婚約を破棄した。

 世界を守りたい人たちは、

 いずれ私を殺そうとするからだ。

 世界を守る為に。


「ご理解下さい。風使いは、人々を守り、

 人に為に戦ってきた種族です。

 我々は、人々を……世界を守る為に

 すべてを捧げてきた」


 あぁ、風使いの奴らは、

 頭が堅い!


「わ、私を殺すと、そういう事ですか?」


「あなたは今日、一人で、

 誰にも告げずに、ココに来た。

 このチャンスを逃せません」


「私があなたに会いにきたのが、

 私を殺す好機だと!」


「あなたを今、返してしまっては、

 アラド様に守られてしまうでしょう

 今しかないのです。

 人々を守るには、世界を救うには」


「その守りたい人々に、

 私は入っていないと!」


「あなたに罪が無いのは分かります!

 俺だって、やりたくない! でも!」


 でも……


 と、レオンの視線が下がっていく。


 あなただって、

 きっとこんな事したくないだろうに。


「それでも、やらなきゃならない。

 俺が、その罪で闇に落ちるとしても。

 その罪は背負う。俺1人が。

 それで世界が、

 大切な人達が救われるなら」


 その大切な人の中に、

 私は入っていないのですね。


 足から力が抜けて、ガクンと膝をつく。


「わかってください。

 これしか方法がないのです」


 レオン様が剣を抜く。

 光る、手入れされた刀身が見える。


「せめて俺1人で、

 俺の手で下せるように、

 皆に手配しておきました」


 あぁ、だからみんな優しかった。

 体を綺麗にしてくれて、

 ドレスも、身だしなみも。


 ははっ、と口から乾いた笑いがでる。


 なにやってんだ、私。

 こんな事をされる為にここまで来たのか

 なりふり構わず、自分の手で……。


 殺されるのか。

 好きな人の手で。


 あなたに、殺されるなら幸せです、と

 思えたら良かったんだろうか。


 あぁ。レオン様。

 あなたの黒い四枚の翼は

 私をどこかに連れてってくれると

 思ってました。


 あぁ。そうだメリッサの言うとおり。

 自分で行けなきゃ、どこにもいけない。

 

 レオンの剣が、真っ直ぐ、私に向かう。


 世界がなんだ! 何を救うんだ!

 あなたは私を救わない!

 世界の為に死ね? それが運命?


 そんなの! 認めない!


「あーーーーーーーーーーーー!」


 両手を握りしめて、懇親の力で叫ぶ。

 

 なにが、悪魔だ! 私は私だ!

 

 叫びながら立ち上がり、

 レオン様を見る。

 レオン様は冷静な目で、こっちを見て。


「諦めて下さい。

 この屋敷の人間はみんな知ってる

 叫んでも誰も来ません」


 助かろうと思わない人間に、

 その方法は見えないんだ!


 私は、両手を握りしめて、

 懇親の力で叫ぶ!


「お願い! 助けて!」


 バコン! と私の後ろで激音がする。

 は? とレオンが視線をあげる。


「助けて! キマイラ!」


 部屋に飛び込んできたキマイラが、

 咆哮をあげる。口から炎を吐き出す!


「な!」

 

 レオン様が炎にまかれて、飛び下がる。

 その間に、

 私の前にキマイラが降り立った。


「来てくれた。ありがとう」


 そのたてがみを撫でる。


 キマイラは、耳が良い。

 私が全力で叫べば、きっと来てくれる。

 爪は壁を切り裂き、最短距離で。


 お兄様は。いつも私を助けてくれた。

 お前もきっとそう。


「ありがとう! お願い乗せて!」


 キマイラの背中に乗って、飛び上がる。


「アスナ!」


 レオンが剣を持って、

 立ち上がるのが見える。


 ドクンと心臓が鳴った。


「レオン様……私は、あなたが好きでした」


 ボロと涙があふれる。


「好きでしたのに……

 もう、それも終わりです」


「あ……」


 レオンの顔が引きつっていく。

 まるで、なにか取り返しのつかない事を

 後悔するように。


「行こう。もういいよ、帰ろう」

 

 私はキマイラのたてがみを撫でて言う。

 ぐる……と答えが帰ってくる。


 最後に大きく炎を吐いて、

 キマイラは壁を突き破った。


 外はもう真っ暗で、

 その中、空をかけるキマイラの背中で

 ずっと泣いていた。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

『次回予告』


「一緒に行こう」


「え? なに? どこに?」


「学校、ビーストテイナーの」


「え? 僕と?」


「一緒に行きますわ。

 一緒なら行きますわ」



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 今日もお疲れ様! モフモフー

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