表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

22/23

第22話、失われた禁書

 その日、午前中、セイレーンの授業で。


 私はまた、盛大に水をかけられて、

 おまけにヒレで吹っ飛ばされた。


「ちょ! アスナ、大丈夫?」


「もう! こんな格好じゃ、

 授業受けられませんわ!

 先生! 私、着替えて医務室行きます」


 悪態ついて、はっきり宣言すると

 先生は許可してくれた。


「待って、僕もついて行くよ」


「いや、ラウルは授業受けてなさいよ

 許可も、出てないでしょ」


 そう言って、ラウルを置いて1人で

 小屋を離れる。


「さて、あとは……」


 濡れた服は用意した着替えに、

 トイレで着替える。

 部屋に戻るとバレるからだ。

 誰に? カルアに、だ。


 カルアは普段は近くに居るが、

 水が苦手で、

 セイレーンの授業には来ない。

 だから今がチャンス。


 急いで、図書室に忍び込む。

 授業中は開放されてないが、

 窓から侵入は出来た。


 あとは、禁書庫だ。


 禁書庫はいくつもあるが、

 大体の目星はつけておいた。

 ジルの言う通り、授業中は管理が甘く、

 換気の為に開いてる所もあった。

 狭い部屋に、並ぶ禁書。


 探すのに、そう時間はかからなかった。

 本の方が、

 求める物には話しかけてくるからだ。


──やぁ! 魂を求めるそこの君!

  僕と出会えるなんて運が良いね!


「へ?」


 その本は、本当おしゃべりで、

 調子が良かった。


──僕は魂を呼び出す失われた禁書。

  世界の外に道を作る者!


 私は本を手に取って叫ぶ。  

「お願い! 私、他の世界に行きたい!」


──いいね! 自ら行く勇気のある奴は

  そうは居ないよ!


「できる?」


──肉体は持ってけないよ?


「分かってる」


──どこにつながるか分からないし

  つながった場所に何もない事もあるよ


「分かってる」


──二度と、戻って来れないよ。


「……覚悟は、した!」


──いいね! その勢い!

  さぁ! 僕を外に連れてって!

  気が変わらないうちに、

  レッツ! パーティーさ!


 私はその本を掴んで、

 部屋の外に走り出した。


 廊下に出た時、壁にもたれて、

 その男は待っていた。


「あ……。カルア」


 スーツで、コウモリ羽根の男が、

 こっちをみて笑っていた。


「困るんですよねぇ。

 何をしようとしてるか、知りませんが」


 目を細めて、こっちに手を差し出す。


「闇魔術は困るんですよ。

 さ、その本は渡してもらいます」


 私は本を抱きしめて、

「嫌よ!」

 ハッキリ言い切る。


「往生際が悪いですよ。

 あなたは、生贄として産まれたんです

 どこに行っても逃げられません。

 何をしても、生贄になる運命なんです」


 産まれた時から、そうだった。

 どこにも逃げられないと、思っていた。

 いつか乗っ取られる身体。

 いつか喰われる運命。

 逃げられないと、諦めていた。


 でも違う。教えてもらったんだ。


 出来ないと思ってる時は、見えない。

 やろうと思わない限り、見えない!


 逃げる方法はあるんだ。

 この呪われた身体から。

 この世界から。


 いつか悪魔に喰われる?

 そいつが世界を滅ぼす?


「そんな運命! 私は認めない!」


 そうだ私は、


「私の人生は、命は、魂は、

 私の物だから!」


 絶対に、逃げて見せる!


 カルアが顔をしかめる。

 あーあ、と、残念そうに呟く。


「一度分からせないと、

 諦めないようですね」


 カルアが壁から身体を離して、

 ふわりと浮き上がった。


 ボンとカルアの姿が消える。

 次の瞬間、目の前に現れる。


「ひっ!」


「渡して、もらいます」


 ガッと無遠慮に、

 私の抱えてる本を掴む。


「やめて! 絶対渡さない!」


 ギュと本を握ったまま、

 その手を振りほどこうと引く。


 カルアが小さく舌打ちをして、

 私の首を掴んだ。


「うっ!」


 押されて、背中が壁にぶつかる。

 グッっと顔を引き上げられて苦しい。


 カルアが私の顔を、真近で眺めて、

「最初から、教えておくんでした。

 間違えない様に、勘違いしない様に」


 頬に息がかかる距離で言う。


「あなたは、私のモノだって」


──ずっと、俺のモノだから、アスナ

 あぁ、レオン様もそう言ったっけ……


 みんな、みんな、みんな、

 勝手な事ばっかり!

 ばっかじゃないの!

 はじめっから、ずっと!


「私は、私のモノだからー!」

 全力で叫んだ。


「その通りです、アスナ様」

 声はすぐ近くで、した。

 メリッサ!


 振り下ろされるナイフを、

 カルアが消えて避ける。

 それは、私ギリギリを通る。

 なんならちょっとかすった。


 真横に現れたメリッサが、

 返す反動で、ナイフを投げた。


 ボンっと、そこにカルアが現れる。

 ナイフは煙を纏うカルアを絡めて、

 壁に突き刺さった。


 げほっ、と私は息を吹き返す。


「な……あ、あなた、また!」


 壁に、ナイフで張り付けられて、

 カルアが声を上げる。

 胸の辺りに刺さるナイフが

 シュウシュウと煙を上げている。


「『本体』を押さえたんで、

 もう動けません。さすがに消滅は

 しないでしょうが」


 メリッサは冷静にそう言って、

 やっぱり無表情でこっちを向く。


「アスナ様が、『実行』するまでは

 私が拘束しておくんで、

 安心して、行ってらっしゃいませ」


 そう言って、頭を下げる。


「あ、あなた、

 この人の眷属でもないのに!」


 カルアが壁から苦しげな声を上げる。


「私は、」

 と、メリッサは振り返って。


「『逃げる者』の味方なんで」

 と、勝ち誇ったように言って、

 カルアは顔を歪めた。


「来てくれたの? メリッサ!」


「まぁ、ついでです。

 アーク様から、伝言をたのまれまして」


 お兄様から?


「『家出』するなら、出て行く前に

 俺の所の顔を見せろ、と」


 は……ははっ、なにそれ。お兄様。


「ラウルから

『最近アスナが冷たくなった』

 と報告があったものですから」


 それで、なんとなく分かったのか。

 あの兄は、本当……


「メリッサ!」


「なんでしょう?」


「お兄様に伝えて

『途中で寄れたら寄りますわ』って」


「承知いたしました。では、ご武運を」

 そう言って、初めて、

 メリッサは笑った。


 あぁ、やっぱり、良く似合う。


「ありがと! メリッサ!」


 私は本を両手で抱いて、駆け出す。

 後ろで、カルアが何か叫んでいたが、

 もう、聞こえなかった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

『次回予告』


 次回最終話


「私、すっごく眠いの、

 ここで少し寝てるわ」


「え? 昼寝するの?」


「時間になったら、起こして」


 楽しかった、って方は、

 いいね、で応援よろしく!


 今日もお疲れ様! モフモフー

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ