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第21話、賭けの景品

「図書室? 僕も行くよ」


「1人で行くから、

 ラウルはついてこないで」


「え……でも」


「ただのテスト勉強だから。

 1人の方が集中できるし」


「そっか、もうすぐテストだもんね

 じゃあ……また午後の授業で……」

 ラウルが悲しい顔で、離れていく。


 いい加減慣れてほしい。

 心が痛む。


 学校の図書室は広い。

 膨大な書物の量。


 さて、探そう。


 お兄様は、ここで見つけたはずなんだ。

 禁書の闇魔法。

 別の世界から、魂を召喚する方法。

 召喚できるなら、行く方法も

 魂だけ分離する方法も。

 きっとある。


 この世界から出ていくために。

 メリッサみたいに逃げる為に。


 レオン様が吹っ切れたのは、

 いいタイミングだった。

 未練が少なくて良い。

 ラウルも1人にきっと慣れる。


 あとは……

 頭に浮かんだジルの顔を

 慌てて否定する。


 別に……

 そういうのじゃないから。


 ジルは何も知らない。

 何も知らないから……

 知ったら、きっと。

 きっと……


 私は頭を振って、

 本に手を伸ばした。


 闇魔法、別世界……

 それっぽい本は沢山あるけど、

 具体的は方法が乗ってる本なんかない。

 

「うーん。難航してる」


 また一冊、本棚から取り出して、

 パラパラめくる。 


 お兄様は、ここで見つけた。


──お前も探してみろ。

  お前に資格があればきっと見つかる


 資格か。

 それはどんな類のモノなのか。


 外の光の入らない、

 誰も来ない本棚の、奥の隅なんかに

 闇魔術関連の本はある。

 基本的に禁書だから。だからって……


 そんなに、高い所じゃ、なくたって、

 いいでしょおおおおおおおおお!


 目当ての本に、精一杯、手を伸ばす。

 あと少しで、届くうううううう……


 誰かが後ろから、その本を取った。


 え?


「ほら」


 すぐ後ろで、本を渡してくれたのは

 ジルだった。


「あ……」

 心臓がドクンと跳ね上がった。


「あ……ありがと」

 ジルの顔が見れなくて、背中を向ける。

 本棚の方を向いて、本をめくる。

 本の内容が入ってこない、

 後ろのジルが気になる。


「おい」

 突然、後ろから抱きしめられた。


 ビクンと反応して、

 本を落とす所だった。


 な……な、な、な、なにぃ?


 ジルの腕が、

 後ろから私の首を抱きしめていた。

 吐息を、耳に感じる。

 その部分が、ジンと熱を帯びる。


「な、なに?」

 震える声を、気づかれないように。

 私は聞く。


「お前、どこに行こうとしてる?」

 耳元で、ジルが呟く。

 ドキと心が跳ね上がる。


「な、な、何の事?」

 もつれる口で、なんとか誤魔化す。


「お前が見てる本、探してる本、

 見てたら。なんかお前、

 どっか行きそうだな、って

 なんか思ったんだよ」


 す、鋭いですね。じゃなくて

 私が手に取る本、

 気にして見てたんですか!


「行くな」


 悲痛な、その声が

 耳からしみ込んでくる。


「どこにも、行くな」


 それは甘く、心をからめとっていく。

 目をつぶって、溺れたくなるほど、

 魅力的で。


 何も考えず、飛び込めたら、

 どんなに良かっただろうか。

 その甘さに、浸かっていられれば……


 私はそっと

 首に抱きつくジルの腕に触れる。


 その瞬間、蘇る。


──お前……世界、滅ぼすんだって?


 そう言って私の首を締める。悪夢。


──じゃあ、殺すしかないよな。

 ジルが私の首を締める感触。

 思い出す、恐怖。


 あぁ、きっと、やっぱりダメなんだ。

 ここでは、私は溺れられない。


 私は、ジルの手を掴んで、

 ふっと息を吐き出す。


「私が、しっぽ巻いて逃げるとでも?

 そんな事はしませんわ」


「……ほんとか?」


「えぇ。私は、どこにも行きませんわ」


 平然と言い切ると、

 ジルはそのまま少し押し黙って。


「そうか」

 私を抱きしめる腕に、力をこめた。

 ジワと背中の熱量が罪悪感を責めた。


「この図書室には、

 禁書庫がいくつかある」 


 ジルが耳元で、唐突に話し始める。


「禁書庫?」


「普段は鍵がかかってて入れない。

 だが、授業中は管理が甘くなる」


「え? そうなの?」


「兄貴に教えてもらったんだ。

 お前の探してる本も、あると良いな」


 そこまで言って、ジルは私を離した。

 

 振り返ると、

 ジルは悲しげな顔をしていて。


「何しようと、してるか知らねぇが、

 頑張れよ」

 

 放たれたその言葉が、

 私の心に深く響いた。


 背中を向けて、去ろうとするジルに


「あ、待って……」


 声をかける。

 なにか、言わなきゃいけない気がして。


「なんだよ」


「あ……次のテスト。もうすぐ、でしょ?」


「あぁ、そうだな」


「私が、勝ちますわ」


「は? 何言ってんだ?」


「私が、絶対、勝ちますわ」


「コネ入学のお嬢様が、

 俺に勝てる訳ねぇだろ」


「じゃあ、勝負ですわ。私が勝ったら、

 今度こそ、お父様に言って、

 あなたを退学にしてやりますわ」


「言ってろ。それで、俺が勝ったら?」


「万一、私がテストで

 負けるような事があれば」


 そうしたら、その時は。


「私があなたにキスして差し上げますわ。

 ありがたく思いなさい」


 一瞬、ジルの目が見開いて、

 数秒して、ははっと口元を緩ませる。

 ふわと笑ったまま、


「いいだろう。絶対に、俺が勝つ」

 と、言い切った。


「何言ってますの?

 私が負けるとでも?」


「いや、俺が勝つ。覚悟しとけ」


「覚悟するのはそっちですわ」


 ははっ、ジルが笑う。

 つられて私も笑う。


「覚悟、しとけよ」


「そっちも、ですわ」


 数秒、見つめ合ってから、

 じゃあな、と、ジルは笑って、

 帰って行った。


 あぁ……と、私は声を漏らす。


──覚悟しとけよ


 覚悟はできた。

 私は、そのテストを受けない。


 願わくば、あなたとキスしたかったけど


──絶対に、俺が勝つ 


 その言葉と、笑顔だけで十分だ。


 お兄様が言っていた『資格』が

 何か分かった。


 自分1人じゃ絶対にたどり着かない。

 それは人との『絆』だ。


 私はジルの笑顔を思い出す。


 逃げた先で、

 あなたに似た人と幸せになろう。

 そう思って、ふふっと笑った。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

『次回予告』


「一度分からせないと、

 諦めないようですね」


「ひっ!」


「渡して、もらいます」


「やめて! 絶対渡さない!」


「最初から、教えておくんでした。

 あなたは、私のモノだって」



 楽しかった、って方は、

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 今日もお疲れ様! モフモフー



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