第20話、冷たい理由
「アスナー、居る? 起きてる?」
朝、いつものように
ラウルが起こしに来た。
「お、起きて……ますわ」
なんとかドアを開けて顔をだす。
「どうしたの? アスナ、酷い顔」
「ちょっと、嫌な夢、見て」
と、ボサボサの頭でため息をつく。
闇魔法の代償だ。心の消費。
昨日使ったから。
「大丈夫? 今日は午前中は掃除で、
午後からペガサス小屋で授業」
「昼まで、寝てますわ」
「じゃあ、昼に迎えに来るね。
また小屋まで運んであげるから」
あぁ、羽根で? それは……
「それは、もう結構ですわ」
「え? どうして」
「別に、自分で歩くから……
抱っこされて飛ぶとか、恥ずかしいし」
ラウルが、え? と不安な顔をする。
「な、なんで?
最近、運ばしてくれないよね。
なんかあった? 僕、なにかした?」
「別に……何もしてませんわ
歩いて行くのが普通です」
もう、ラウルに私の世話ばかり
させるのは、やめたほうが良い。
歩いて行ける所には自分でいこう。
ただそう思っただけなんだけど。
「ジルに……運んでもらうの?」
「え? な? なんですって」
「ジルに運んでもらうから、
僕いらない?」
「いや、そうじゃなくて、
歩いていきますから……」
「でも、昨日はジルに抱っこされて
飛んでたんでしょ?」
え? は? ん?
「そ、それ、誰に聞いたんですの?」
「ココが見たって、聞いたから」
あぁ、だから昨日、ジルの部屋に
私を知らないか、訪ねに来たのか。
「ジルには抱かれるのに、
僕にはさせてくれないの?」
「それ、表現が誤解を生みますわ!」
「なんで、アスナ、最近、冷たいの?
何がいけないの? ジルが良いから?
教えてよ! 直すから!」
あぁ! もう! めんどくさい!
「だから違うって! もう、帰って!」
無理矢理、ドアを閉める。
ドアの向こうで、
ラウルが、あ……と呟くのが聞こえる。
そのまま様子を伺っていたが
ラウルは帰ったらしい。
疲れてる心に、こういうのは堪える。
ラウル、不安そうな顔してたな。
でも仕方ない。
ラウルは、ラウルの道がある。
そうだ。
私はそのうち、ここから逃げる。
いつかラウルの前から居なくなる。
「すいぶんと、冷たくなりましたね
あの白羽根に」
カルアが現れて、椅子に座る。
勝手に座らないで欲しい。
「なんか理由があるんですか?」
「別に、何もないし、あっても
あんたには教えませんわ」
「またずいぶんとカリカリしてますね
闇魔法の影響ですか?」
「あんたの影響も、あるからね!」
やれやれ、みたいにカルアは首をふる。
「困るんですよ。
あなたはご主人様の贄であるので。
健全な魂と、健全な肉体で
あって欲しいんです」
「勝手な事いわないでよ……」
本当、今日、
カルアの相手してる気力ない……
とりあえず、昼までまた寝ようかと、
ベッドに戻る。
「まぁ、なので、あの本は処分しました」
そう、あの本は処分……
「は?」
ベッドから飛び起きる。
カルアが余裕の顔でこっちを見ている。
あの本って、まさか!
私はドレッサーに駆け寄って、
引き出しを開けた。
そこに入れておいたはずの、
お兄様に買ってもらった魔術書が無い。
「えぇ。私が処分しました。
あなたが悪夢にうなされてる間に」
カルアの声で振り返る。
ははっ、と私の口が引きつる。
こみ上げる怒りと、どす黒い感情。
ジワと心が染まっていく。
「あなたに、力をつけられても。
闇に染まられても困るんです」
スーツで、いけ好かない男は、
雄弁に話し続けている。
「あなたは、ご主人様の生贄なので。
どこかに行かれては困ります」
ギリと歯を食いしばる。
あぁ、上等だ!
そっちがその気なら。
私は、絶対に、ここから逃げるから。
魔族の生贄? 誰がなるか。
この呪われた身体から……
絶対に逃げる!
そのすべての決意を飲み込む。
何も言わず、ベッドに戻る。
「おや、怒るかと思いましたが?」
「別に、怒る元気も無いだけよ」
どうせバレたら邪魔されるんだし。
疲れてるし。今じゃ、ない。
「私、昼まで寝るから」
「そうですか、おやすみなさいませ」
カルアが頭をさげる。
「今日は、下着で寝るわ」
「へ?」
思わず顔をあげたカルアに
水理玉を投げつけた。
「ぎゃあ!」
びしゃあ、とカルアに水がかかる。
スーツも、コウモリ羽根も、
ビショビショになる。
「な……なにすんですか!」
「別に、仕返しよ。
濡れると、嫌でしょー?
下着で寝る訳、ないでしょ」
カルアが、顔を歪めて、あなたねぇ……
と、悔しそうに呟く。
「ゆ、許しませんからね!」
「はいはい、おやすみ」
「あぁ、もう!」
ボンっと音をたてて、カルアは消える。
許さない、は、こっちの台詞だから。
呟いて、ベッドに横になった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
『次回予告』
「お前、どこに行こうとしてる?」
「な、な、何の事?」
「行くな」
「え?」
「どこにも、行くな」
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今日もお疲れ様! モフモフー




