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第19話、ベッドで2人


 ジルの部屋は思いの外、綺麗だった。


 ベッドに優しく、座らされ。

 やっとジルの腕から降りる。

 ここまで、ずっと抱えてきてくれた。


「茶ぁ、飲むか?」


「ブレナンティー?」


「そうだ。故郷の名産の茶葉だ」


「いただきますわ」


 カチャカチャと準備をしてから、

 ポットとカップを2つ持って、

 ジルは戻ってくる。


 私の前に机を運んで、カップを置き、

 お茶を注いだ。


「良い香り」


「そうか」


 椅子を引っ張ってきて、ジルも座る。

 机を挟んで向かい合い、

 カップに口を付ける。


「あいつ……」

 しばらくして、ジルが口をひらく。


「あいつ、誰だ」


「レオン様? レオン・ラインハルト様」


「ラインハルト……また、だいぶ良い家に

 俺は喧嘩売ったな」


「今更でしょ。

 私にしょっちゅう売ってるのに」


 まぁ、それもそうか。

 と、ジルはまたカップに口をつける。


「それで、あいつ、お前の何だ」


「……元婚約者、ですわ。

 今は、婚約破棄してる」


 あぁ、とジルは呟いて、

「そう言う、話か」

 と、息を吐き出す。


「お前、まだ好きなのか?」


 聞かれ、バチンと顔をあげた。

 ジルと目が合った。


「ち、違う!

 もう……もう、終わったの」


 そうだ。完全に、終わってしまった。

 未練のかけらも無く、

 信じる価値も、無いほどに。


 ジルはそんな私を見て、


「そうか。良かった」

 と、呟いた。


「良かっ……え?」


 良かった? それは……

 心臓が鳴り出す。

 顔が熱くなっていくのを感じる。


「あ……あの」

 声が震えて、上手く出ない。


「なんだ?」


「た、助けてくれて、ありがと……」


「別に、気にすんな」


「戻って、きてくれたの?」


 ジルは、行く前にすれ違ったはずだ。

 たしかにすれ違って、帰っていった。

 でも、わざわざ戻ってきた。

 多分、私の為に、何も知らないのに。


 ジルは少し、考えてから。


「なんか、お前、

 助けて欲しがってる気がしたんだよ」

 と、言いにくそうに言った。


「へ……?」


「だから、助けねぇと……って」


 私、けっこうジルに酷い事言ったのに。

 本当は怖かった。

 本当は助けて欲しかった。

 分かってくれたんだ。

 何も言わなかったのに。


 ジンと心が震えて行く、

 トクンと鳴る心臓が、呼吸を荒くする。


「あ、あの……ジル」


「なんだよ」


「その椅子、硬くありません?」

 ジルの座る椅子を指して言う。


「は? 別に、そんな事ねぇよ」


「私は、その椅子、

 硬くて座ってられませんわ」


「いや、今座ってるの俺だし、なんだよ」


「別に……こっちは、柔らかいのになって」

 自分の座るベッドの、

 隣をさすってみせる。


 ジルは少し考えて、

「あぁ……そうか」

 と、立ち上がる。


 私の隣に、ジルが座る。

 手が当たって、ドキリとする。

 二人分の重みで、ギシと音が鳴った。


 心臓がうるさい。

 少しだけ触れる手が、もどかしい。

 

 私は手を伸ばして、ジルの腕に触れる。

 きっと赤くなってる顔で、

 ジルの顔をチラと見る。


「……なんだよ」


「別に……なんでもないわ」


「そうか、なんでもないなら……」


 ジルが両手を伸ばして、

 私の両肩を掴む。

 

「しかたねぇよな」


 グイと両肩を押されて、

 体勢が後ろに倒れていく。


 ギシっとベッドが軋む。


 近づいてくるジルの顔と、

 その熱を感じながら、目を瞑った。


 唇が触れ合うより早く、扉が叩かれた。


「ジル! ねぇ! アスナ知らない?

 昼からずっと居ないんだ。ねぇ!」


「は? あいつ……」

 ジルが顔を上げる。


「え? ラウル?」

 思わず私も声を上げる。


「え? 今、アスナの声した?

 中にいるの? ねぇ」

 ラウルがドンドンとドアを叩く。


「お前、バカ」


「あ、ごめ……」

 口を押さえたが、もう遅い。


「ねぇ、アスナいるの?

 何やってるの?」

 

「な、なんでもねぇ、何もしてねぇ」

 ジルが慌てて、ベッドから降りる。


「そう、ラウル。何もしてない!」

 バタバタと、私も立ち上がる。


「今、ドア開けるから待ってろ」

 ジルがドアに駆け寄って、扉をあける。

 その後ろに付いて、私も顔をだす。


 ラウルは私の顔を見て

「良かった。どこにも居ないから、

 心配したんだ。でも何やってたの?

 ジルの部屋で」


 な、何やってたか?


「お、お茶を頂いてた、のよ」


「お茶?」


「そうだ。いっぱい送られてくるんだ。

 消費を、手伝って貰ってた」

 ジルも同意する。


 ラウルは部屋の中を覗いて、

 ポットとカップを見て、

 あぁ、と納得したようだ。


「ブレーナムの、名産のお茶っ葉だね。

 良い香りだよね」


「そうだ。今度お前にも飲ませてやる」


「え? ありがと……」


「だから、今日はお前ら帰れ」

 ハァ、と疲れたようにため息を吐いて、

 ジルが言う。


「どうしたのジル、なんで疲れてるの?」


「別に。コネ入学のお嬢様の相手

 想像以上に疲れるだけだ」


「あら、相手してあげたのは

 こっちですわ」


「はぁ? なんだと?」


「疲れましたわ」


「お前……もう二度と来んなよ」


「言われなくても、来ませんわ」


「なんか2人、仲良くなってない?」


 ラウルの言葉に、2人同時に叫んだ。


「「なってない!」」


「なんで顔、赤いの? 二人共」

 ラウルは両方の顔を見比べて、

 首を傾げた。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

『次回予告』


「ジルに……運んでもらうの?」


「え? な? なんですって」


「ジルに運んでもらうから、

 僕いらない?」


「いや、そうじゃなくて、

 歩いていきますから……」


「ジルには抱かれるのに、

 僕にはさせてくれないの?」



 楽しかった、って方は、

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 今日もお疲れ様! モフモフー

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