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第17話、愛する罠


 アスナ。

 先日のご無礼をお許し下さい。

 あなたの気持ちを考えず、

 すみませんでした。

 俺は、まだ、あなたを愛してる。

 あなたと一緒に過ごせる方法がある。

 どうかまた、俺と

 

 俺と会ってくれないでしょうか──


「『ご無礼』で済むと

 本当に考えてるのかしら」


 レオン様の手紙を読みながら、

 私は呟いた。


 指定された日時は、今日。

 場所は、学園の敷地のすぐ外。

 森を抜けた先。


 私は森の小道を歩きながら、

 空を見上げた。


 多分、罠なんだろう。 

 カルアが言ったように。


 メリッサに追い返されてから、

 カルアは今日まで出てこなかった。


 たぶん、もう止めても無駄だと、

 諦めたのだろう。


 罠だと知ってる。何されるかわかる。


 正直、怖い。

 それでも、行くのは……


──俺は、まだ、あなたを愛してる


 手紙に書かれたその文字が、

 少しでも本当の可能性があるなら、

 無視出来ない。


 たとえ、また殺されそうになろうと。


 それがどんなにバカな事だろうと。

 ただ、あなたに会いたいのだ。

 レオン様。


 視線を空から戻す。

 前から誰か歩いてくる。


「あ……」


 ドクンと心臓が鳴った。

 前からジルが歩いて来ていた。


 たまたま、偶然か。

 校内で、すれ違う事くらいは、ある。

 

 私は顔を伏せて、

 すれ違う為、道の端を歩いた。


 早くなる心臓を抑えて、

 ジルとすれ違う。その瞬間、


「おい」


 パシっと、私の手が掴まれる。

 体が跳ね上がった、

 反射的にジルの顔を見た。


「行くな」


 ジルは真っ直ぐ、私を見て言った。

 心臓が大きく鳴る。


 な、なんで……


 背中が震えて、呼吸が止まった。


「風が、変な巻き方をしてる。

 誰が、何しようとしてるか知らねぇが。

 危ねぇから、そっち行くな」


 私の手を握ったまま、ジルが言う。

 握られた手から、熱い体温が伝わる。


 反射的に、駆け寄りそうになる。

 腕を引かれるまま、その言葉に従えたら

 どんなに良いだろうか。


 コクと私の喉が鳴った。

 それが出来たら、ほんとに良かった。


 でもダメだ……

 あなたは、何も知らないから。


「あ……あなたに、関係ないでしょ……」

 震える声で口にする。


「は?」

 ジルの怒った声が聞こえる。


「私が、どこ行こうと、

 あなたに、関係ないでしょ……」

 足が震えた。


 本当は、怖い。

 本当は、止めて欲しい。

 でもダメだ。

 あなたは何も知らないから。


 ジルは、しばらく私の顔を見つめてから

 顔をしかめて、


「そうかよ」

 私の手を離した。


「悪かったな」

 そう呟いて、背中を見せる。

 離れていくジルの背中を見ながら、

 荒く鳴り響く、心臓を抑える。


 押し寄せる後悔に、

 気が付かない振りをして、前を向く。

 私には、その手を握り返す資格がない。


 レオン様の待つ所へ、足を進めた。


  ◇◇◇◇


 待ち合わせ場所が、学校の外なのは、

 たぶん、敷地内だと、手が出せないから


「アスナ……」


 森を抜けた先、草原の手前で、

 レオン様は待ってた。


 丈の長い草むらを背景に、

 振り返り、私に笑顔を向ける。


 それが、あの日、私を殺そうとした時の

 笑顔と同じで、心がざわつく。


「来てくれたのですね」


 笑いかけるレオンを見て、

 足を止める。

 前のように、駆け寄る事は出来ない。


「レオン様、手紙に、書かれた事は

 本当ですか?」


 私を、まだ愛していると。


「もちろんです。

 先日は、すみませんでした。俺も、

 そうするしか無いと思ってました」


 世界の為には、私を殺すしかないと。


「でも、今は違う。あなたを救う方法を

 あなたを助ける為に力を尽くします」


 私を助ける方法?

 この呪われた身体から救う?


「そんな方法があるのですか?」


「見つけます、必ず。ラインハルト家の

 総力をあげて。だから、どうか。

 私と一緒に来てください」


「一緒に?」


 レオン様と、一緒に?


「それしか、方法がないのです。

 あなたを生かす為に」


 生かす為に、か。殺さない為に、か。

 私は、あなたに連れて行ってもらうのを

 ずっと望んでいた。


 何も考えず、その胸の飛び込めたら、

 どんなに良かっただろう。


「レオン様の所に行ったら、

 私は、どうなるのですか?」


「俺の所で丁重にお迎えして管理します」


「管理?」


「不自由はさせません。求める物は

 すべて用意しますし、

 俺も毎日会いに行きます」


 どこかに閉じ込めて、

 魔族化しないように見張ると、

 そういう事ですか。


「その間、あなたを救う方法を探します。

 あなたと悪魔を分離させ、あなたを

 救う方法を」

 

 救う方法。そんなのがあれば知りたい。

 あるかもしれないですね。

 でも、それは。


「それは……私を閉じ込めなくても、

 探せますよね?」


 私の悲しい声は、

 サァと風に巻かれてレオンに届く。


「協力してほしいのです! あなたにも」


「人体実験がしたいと?」


「あなたで試す必要はあります。

 魔術も除術も最高級の手配をします」


「それで、打つ手がなくなれば、

 いよいよ手にかけるのですね」


「それ以外に方法はないのです!」


 レオンの声が、悲痛に響く。

 

 方法がない。

 昔の私なら、それを信じて、

 あなたに付いていったかもしれない。

 でも、いまは知ってしまった。

 方法は、無いんじゃない。

 見えないだけなんだ。


「私は、あなたを好きでした」

 すごく、好きだったんだ。

 信じたかった。

 また愛してくれると。


「でも、それはもう終わりました」


 もう、分かった。

 あなたは、絶対に、

 私の事を想ってはくれない


「あなたと一緒には行けません」


 はっきりと言い切る。

 風が吹き荒れ、レオンの髪を揺らした。


「俺は、あなたを愛してるのに……」


「それが、愛だと本当に思ってるなら

 改めてください」


「言ったと思いますが、

 他に、方法がないのです」


 バサとレオンの背中から翼が現れる。

 それを合図に、後ろの草むらから

 数人が現れる。みんな翼がある、

 ラインハルト家の配下の風使い。


「あなたには、従ってもらうしか

 ありません。力ずくでも。

 どんな手を使っても。」


 あぁ、やっぱり罠だったじゃないか、

 と、誰かに笑われた気がした。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

『次回予告』


「あなたは良くやりました。

 でも、俺には敵いませんよ」


「ひ……ぐっ!」


「安心してください。

 あなたを殺しはしません」


「あ……」


「ずっと、俺のモノだから、アスナ」



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 今日もお疲れ様! モフモフー

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