第15話、嫌な夢
夢を、見ていた。
真っ暗な中で1人だ。
寂しくて、哀しくて、周りを見回す。
そして見つける、その光。
誰かの背中。あぁ、あれは……
「レオン様!」
私の声で振り返る。
笑顔のレオン様。
「あぁ、アスナ。来てくれたのですね」
「良かった。1人で寂しかったのです
お会いしたかった」
「俺もです」
そう言って、笑顔で剣を取り出す。
「これで俺も、使命が果たせます」
え?
「世界の為に、あなたを殺さなくては
なりません、わかりますね?」
笑顔で、真っ直ぐ私の喉に
剣を突きつけて。
な……
絶望で膝を付いた。
涙が溢れて、頬を伝っていく。
私は……あなたに
連れていってほしかっただけなのに。
「世界の為なのです」
哀しくて、歯を食いしばって、
目を瞑った。
カランと、音をたてて、剣は転がる。
へ?
足元の剣から、ゆっくり視線をあげる。
レオン様だったはずのそこに
立っていたのは……
「ジル……」
冷たい目で、ジルが私を見下ろして
顔をしかめて、
「お前……中に魔族いるんだって?」
と、口にした。
ドクンと心臓が固まって、
背筋が凍った。
「な……なんで?」
なんで、あなたがそれを
「お前……世界、滅ぼすんだって?」
無慈悲に、淡々とジルは続ける。
「じゃあ、殺すしかないよな」
ジルが両手を伸ばす、私の首に。
嫌……嫌……いや……
あなたには、知られたく無かったのに。
両手で私の首を締めて、ジルは笑う。
「ははっ。しかたねぇよな」
◇◇◇◇
「嫌っ!」
叫んで、目を開けると、
アークの顔があった。
「あ……お兄様」
兄は優しく微笑んで、私の頭を撫でた。
「大丈夫か? アスナ」
膝枕をされていた。
ベンチのような所で、私は寝ていた。
「悪い夢を見たか?」
私を覗き込んで、アークは言う。
「はい……すごく、嫌な夢を見ました」
「だろうな」
と、アークはまた私の頭を撫でる。
だろうな?
「闇魔法は、心を消費するんだ。
心が疲れた時って、嫌な事ばっかり
考えるよな」
あぁ、そういう事か。
使ったから。闇魔法を、心を。
「そうだ、お兄様。ラウルって」
「安心しろ。そっちで寝てる」
と、隣のベンチを指す。
確かに、横になってる青い髪が見える。
「お前の昏睡魔法が良く効いてる」
効いたんだ。良かった。
夢中で唱えた闇魔術、
ラウルを止める事は出来たようだ。
「良くやった。上出来だ」
アークが、笑って頭を撫でてくれる。
心がジンワリと暖かくなる。
「ドラゴンはもう行った。
お前のおかげで被害は最小限だったし
事務手続きも終わった」
街は、いつもの姿を取り戻していた。
それは良かった……でも。
「お兄様、心を消費するって、
こんなに辛いんですね」
「最初は、みんなそんなもんだ。
慣れる奴もいるし、
そのまま闇に落ちる奴もいる」
それが、闇魔法……
「俺も、最初はそんなだったさ」
「お兄様もですか? お兄様も、
フラウさんのお店で買ったんですか?」
「いや、俺は、学校の図書室で見つけた」
図書室? 学校の?
たしかに、膨大な量の本がある、
大きな図書室だ。
「お前も探してみろ。お前に資格があれば、
きっと見つかる」
資格が、あれば……
「はい。やって見ますわ」
「さ。帰るぞ。ラウルをキマイラに
乗せるの手伝ってくれ」
そう言って、アークは私に笑いかけた。
◇◇◇◇
「お兄様、ラウルって、
あんな強かったんですか」
キマイラの背中で、
いまだ眠ったままのラウルを見ながら。
「ラウル、なぁ。
ラウルの両親。ドラゴンに食べられた
って言っただろ?」
「えぇ、聞きました」
「そのドラゴン、
ラウルが真っ二つにしたんだ」
「へ? え? なんですって?」
真っ二つ? ドラゴンを?
「それって、ラウル5歳の時、でしたよね」
「そうだ。5歳で、目の前で両親喰われて
感情が爆発したんだ。
風で、ドラゴン真っ二つにした」
風で? 5歳で?
「その時、俺は近くにいたんだか……
ラウルは錯乱してたから、
俺がやったと思い込んだ」
錯乱……今日みたいに、
周りにあるもの全てを巻き込む風……
「お兄様。ラウル、何者なんですか?」
「産まれを調べたが、ただの人間だ。
何も混じってない。ただの風使い」
ただの風使い……
「ラウルは、育ち方、次第で、
俺らを超える。その可能性を持つ」
アークは、手綱を持ちながら
振り返って、眠るラウルを眺めて
「すごいだろ? 俺らが、産まれる前から
いろいろ混ぜられて、年月を支払い、
魂を代償に、ようやく得る力を、
こいつは超えるんだ。
ただの人間が、感情ひとつで、さ」
そして、目を細めて笑う。
「人間ってすごいよな」
そう呟いて、また前を向いて
話し続ける。
「だから、俺は、そいつを飼ってる。
敵に、なったら困るからな」
お兄様が、ラウルを引き取ったのは、
そういう意図で……
「私は……ラウルは、私がいないと
何も出来ない、と思ってました」
何も出来なくて、私に同意ばっかりで、
私の周りにいることだけが、幸せだと。
「でも違うんですね」
──こんな世界、大嫌い
それは私の口癖だ。
ラウルはいつも同意してくれて、
否定しないでくれて。でも……
──壊れろ! こんな世界
それが、ラウルの本音だとしたら、
それが、ラウルの願いだとしたら、
「ラウルは、ラウルの意思で生きているし
私は、私の意思で、
決めなきゃなんですね」
進む道を。生きる先を。その願いを。
幼馴染は、ずっと一緒ではない。
いつかは、道が違える。
「そうやって、みんな大人になるんだ」
アークの呟きが、
風になって流れて消えた。
それからしばらくして、
ラウルは目を覚ました。
「あれ? 僕……」
「おぉ、起きたか? ラウル」
アークが振り返って声をかける。
「僕、ドラゴンに、襲われて。
怖くて、気を失ったんですね。
アーク様が助けてくれたんですか?」
「違うぞ。助けたのは、アスナだ」
「そうなの?」
「別に……当然ですわ」
どんな顔していいかわからなくて
顔をそらす。
「ありがと! アスナ」
ラウルはニコニコして、
いつものように、私の肩に触れる。
「触らないで!」
思わず、その手を跳ね除けた。
え? と、ラウルが困惑する。
私も、だいぶん驚いた。
「あ……さ、触らないで、くださいまし」
「えっと、ごめん。そうだよね」
ラウルの声が悲しそうだった。
私はどんな顔も出来なくて、
ずっと、顔を合わせられなかった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
『次回予告』
「なるほど、罠ですね」
「はぁ?」
「あなたに会いたいと、書いてあります」
「だからなに?」
「あなたを呼び出して、
手にかけるつもりでしょうね、と」
「あ、あ、あんたに!
そんな事、言われたくない!」
楽しかった、って方は、
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今日もお疲れ様! モフモフー




