第14話、白羽根の暴走
「でも、お兄様、ラウルだって、
そんなに弱くありませんわ!」
風も使えるし、飛べるし。
あれで、意思も強い。
「お前、もしかして聞いてないのか?」
アークはキマイラの手綱握りながら、
後ろの私に続ける。
「あいつの両親の事」
「え? 小さい頃に死んだって」
「ドラゴンに喰われたんだ」
「へ? え?」
「ラウルの目の前で。5歳の時に」
ご、5歳で目の前で両親を食べられ……
「だから、あいつはまだ魔獣が怖い。
だいぶ慣れさせたが、
ドラゴンは、まだ最大級のトラウマだ」
それなのに、
ドラゴンの群れなんかに遭遇したら……
「マズいじゃないですか!
ラウルきっと怖がってる!」
「それで、済めば良いけどな」
「え? なんです?」
「あいつの風は、感情で左右される。
それは、感情を上手く抑えられない
って事と一緒だ」
一際大きな咆哮が聞こえた。
下を覗くと、群れの中に
一際大きなドラゴンがいた。
「お、お兄様! あのドラゴン、
首が3つあります」
「多頭竜のフラゴラス? あれはマズい」
3つ首のドラゴンは口から炎を吐いて、
街を壊し出してる。
「あれだけは、なんとかしないと、
被害がでるな」
アークは顔をしかめて、
キマイラの上で剣を抜いた。
「アスナ。キマイラ操縦できるな」
「へ? え? お兄様?」
「ラウル探して、助けてやってくれ、
頼んだからな」
言うだけ言って、アークは飛び降りた。
キマイラから、真下の多頭竜に。
「お兄様ー!」
落ちた勢いそのままに、
剣を突き立てるのが見える。
地響きと悲鳴に似たドラゴンの叫び。
お、お兄様、強い。
あんなだから忘れがちだけど、
お兄様は、誰より強いのだ。
「そうだ! 私もラウル探さなきゃ」
キマイラの手綱握って、辺りを見回す。
「ぐぁう!」
キマイラが教えてくれる。
広場の所、風が土煙を巻いてる。あれは
「ラウル!」
ふらりと立つ、青い髪。
白い羽根が大きく伸びて、そして
ラウル中心に風が爆発して
周りのドラゴンを吹き飛ばした。
「へ?」
衝撃波がキマイラも巻き込む。
「ぎゃう!」
悲鳴をあげて、跳ね上がるキマイラ。
しまった! 風はキマイラにも毒だ。
キマイラがバランスを崩す。
「く……」
振り落とされないように、
なんとかしがみつく。
キマイラは転がるように着地して、
衝撃で私は投げ出された。
地面で転がる私の周りに、
荷物が落ちる。
「痛っ……いた……」
地面で体を打ったけど、まぁ大丈夫。
キマイラが私をかばう落ち方したから。
後ろで、ぐるるっ、とか細い声がする。
キマイラが私を心配してる。
「ごめんね。ありがと、私は大丈夫。
だから、あなたは離れて」
風は、魔獣には毒だ。
だから、私がやらなきゃ!
顔を前に向ける。
広場の真ん中、そこに立つラウル。
白い羽根を広げて、風を渦巻く。
ラウルの羽根、あんな大きかったっけ?
あんなに、風を集められたっけ?
ラウルの顔に表情が無かった。
見開いた目が、どこも見てない。
「ラウル……」
駆け寄ろうとした時、
ラウルが呟く声が聞こえた。
「みんな……嫌い」
え?
ブワっと風が吹き荒れて、
私は倒れ込んだ。
え? 何? なんて言ってる?
ラウルは無表情のまま、呟き続ける。
「嫌い、嫌い、嫌い、嫌い、嫌い、嫌い
嫌い、嫌い、嫌い、嫌い、嫌い、嫌い」
え? なに?
「大嫌いだ。みんな、この世界。
この世界、大嫌い、嫌い、嫌い」
そ、それは。私がいつも言ってる、
私の口癖。
「ラウ──」
「壊れろ……壊れろ! こんな世界!
こんな、世界!」
風が衝撃波になって吹き出す。
近くのドラゴンが悲鳴をあげて、
吹き飛ぶ。ズシンと、壁にぶつかった。
これは……止めないと……
ラウル止めないと!
「やめて! ラウルやめて!」
叫んでも、反応がない。
正気が無いんだ。
感情が、抑えられないから。
トラウマに苦しんでるから。
「苦しいよね……止めなきゃ」
でもどうやって?
あぁ、私にも、力があれば……
──力を、欲せよ
声が頭に響いた。
は……
足元で、あの本が
風でパラパラとめくれていた。
そうだ、力を。私にも力を!
本に手を伸ばした、
ページは勝手に止まる。
広がった紙面に手を当てる。
その中身を、言葉を一瞬で読み取る。
ジワと脳内に染みが広がった。
本を片手に走り出す。
吹き荒れる風の中を、ラウルの所に。
止めなきゃ、なんとしても!
「ラウル!」
ラウルに抱きつく、
グラと揺れるが、反応すらしない。
お願い! 止まって!
──力を
力を! 私に
ブワッと本から黒い煙が漏れる。
生き物のように渦巻いて、
ラウルにまとわりつく。
お願い! 私に、力を。
私の眼球が黒く染まった。
口に出す、その言葉
「×××××」
聞き慣れず、人の言葉でないソレは、
バツん、とラウルの体を弾き、
強制的にその意識を飛ばした。
グラリと、ラウルの体が倒れる。
羽根が下に下がっていく。
気を失ったラウルが、地面に倒れた。
やった! やっ──
グルンと視界が回った。
え?
膝を付く、思わず口を抑える。
体が、支えてられない。
意識が保てない。
──求めよ、全てを
キユと心臓が締め付けれる。
頭の中で、黒い染みが広がっていく。
な! なにこれ!
私はラウルの隣に倒れ、
意識を失った。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
『次回予告』
「ジル……」
「お前……中に魔族いるんだって?」
「な……なんで?」
「じゃあ、殺すしかないよな」
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今日もお疲れ様! モフモフー