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第10話、セイレーン

「風使いって、弱点とかないの?」


「……アスナ、今、授業中なんだけど」


 横に座るラウルが、ペン片手に答える。


「知ってるわよ。それで、風使いって、

 苦手なものないの?」


 風使いに対抗したい。

 特に、あいつ!


 私はチラリと、

 遠くに座るジルに目をやる。


 あの、黒の4枚羽根。

 無駄に体がでかくて、力も強くて、

 無愛想で口が悪くて性格も悪いあいつ。


 ほんと、頭にくるのだ。


 ジルがこっちの気がついて、

 は? みたいな顔をする。


 慌てて視線を反らす。

 うわ、あいつ目が合っただけで、

 バカにしてきた、ほんとなに。


「ちゃんと授業受けてよね」

 と、ラウルがため息つく。


 授業がつまらないのが悪い。

 先生が説明する事くらい

 もう全部、知ってる。


「まぁ。羽根触られるのは弱いよ。

 力が抜けるっていうか、敏感?」


「風使いの性的に弱い所は良いから。

 もっと違うの」


「違うの……あ、流水系は相性悪いよ。

 濡れると飛びにくいし、

 風も相殺されやすいの」


 流水系か。

 流水系の魔獣使って、

 ジルをびしょ濡れに……わるくない。


「流水系の魔獣って?」


「代表的なのは、セイレーンだね」


 上が女性の体で、下が魚の魔獣。

 混乱魔法と流水系魔術を使い、

 歌で人を惑わす。


「ちょうど、次の時間の掃除、

 初めてのセイレーンの小屋だから、

 行ってみる?」


「うん、行く」


 いつも、掃除はサボってるけど、

 行ってみるか。


 授業が終わって、先生が帰っていく。

 

「さ、行きますわよ。

 連れてって、ラウル」


「ちょっと待って、

 セイレーンの小屋って、どこだっけ」


「もう、しっかりして下さいまし」


「だって、初めてだし……えっと」


 ガサガサと地図を取り出すのを

 呆れて見ていると。


「僕、知ってるよ。2人共一緒にいく?」

 ココが話しかけてきた。


「あら、良いんですの?」


「うん、案内するから、行こう」


「ありがとう! ココ」

 ラウルが喜んでココの隣に並ぶ。

 

 ふんわり、嬉しそうにココが笑う。

 ずいぶん、明るく笑えるようになったな

 と、ぼんやりと思う。

 

 3人で外を歩きながら、

 セイレーンの小屋を目指す。

 

「あ、でも、さっきの話」

 と、ココが歩きながら、話始める。


「いつの話?」


「セイレーン使役して、

 風使いをやりこめる、って話。

 あれ、君には難しいと思う」


「え? 聞いてた? 聞こえた?」


 あれでも、だいぶ小声だったし、

 ココの席は遠かった。

 なんならジルより遠かったはず。


「キツネは耳が良いから」


 と、ピコと白い頭から

 キツネ耳を出してみせる。

 耳も白い。


「なるほど、4耳持ちね」


 人の耳と動物の耳の両方があるから、

 耳が良い。


 そういうのは珍しくない。

 背中に羽根があるのは、

 腕が4本と同じだし、

 4枚羽根は何本だ、って話だし。


 ひたいに3つ目の目がある

 同級生もいれば。

 キマイラが耳が良いのも、

 ライオンの耳と蛇の顔があるからだ。

 蛇に耳があるかは、知らないが。


「それで、なんで無理なんです?」

 私が聞くと、

 ココはピコと耳を髪にしまう。

 自由自在らしい。


「うん、それはね」


 と、ちょうど着いた

 セイレーンの小屋の扉を開けながら。


「本とかには、特に表記されないけど、

 セイレーンは、女性嫌いなの」


 小屋の中が見える。

 石張りの、温泉みたいな部屋に、

 沢山のセイレーンが見え、そして、


 水の塊が飛んできた。


「は?」


 バッシャーンっと、頭から水を被った。

 私だけ。


「な! なにコレ!」


 ポタポタと水を垂らしながら、

 呆然と立ち尽くす。

 何? 今、何された?


「アスナ、大丈夫?

 びしょびしょだよー」


 ラウルが覗き込んでくる。

 隣に居たはずなのに、全然濡れてない。


 完全に、私だけを狙って、

 水をぶつけたんだ。


 クスクス……クスクス……


 中から、笑い声が聞こえる。

 セイレーンが笑ってるんだ。私を。


「セイレーンは、女性が嫌いで、

 そうやって、遊んだりするんだ」


 ココが口にする。

 濡れる前に教えて欲しかったわ。


「どうする?」


「ココ……ブラシ」


「へ?」


「ブラシ取って! 掃除するんでしょ!

 こんな事くらいで、負けないから!」


「うん、わかった、はい」


 ブラシを受け取って、中に入る。

 セイレーン達をにらみつける。


 次、やったら許さないから!


 クスクス笑いが減っていく。

 こんな事くらいで負けない。

 私を誰だと思ってる!


 バケツに水を汲んで、

 床の掃除を始めた。


「おい」


 声がして、ビクリと体が反応する。

 いつの間にか、ジルが横に立ってる。


「な、なによ」


「お前、下着が透けてる」


「は! な、な、な、な」


 あわてて慌てて上半身を隠す。

 そんな私を見下ろして、ジルが


「お前、思ってたより胸あんだな」

 と、言い放りやがった。


 な!


「お、思ったよりって、何!

 なんだと思ってたんですの?」


「想像よりあったな、って」


「どんな想像してたんですの!」

 あなた、私の事ひんにゅうだと?」


「別に思ってねぇし、

 それでもかまわねぇよ」


「かまうか、かまわないか、

 なんであなたに許可されなきゃ

 なんないんです!」


 キーキー言い合ってると、

 またクスクス笑いが聞こえてくる。


 こいつら、自分がスタイル良いからって

 別に、負けてないから!


「アスナ、今日はもう、

 帰って着替えたら? 風邪ひくよ」


 ラウルが心配そうに言ってくれる。

 ほんと、そうしたい。

 寒いし、気持ち悪いし。

 

 そんな事を考えてると、


「は、何言ってやがんだよ」

 ジルが口を挟む。


「ろくに掃除に来ないお嬢様が、

 たまに来たと思ったらもう帰んのかよ

 お遊びかよ。お気楽だな」


 なにこいつ。

 いつも私が掃除サボってるのが

 気に入らないわけ?


「たまに来た時くらい、

 下着見せながら掃除して、

 俺らに奉仕しろよ、

 なぁ、コネ入学の、おじょーさま」


 ジルが後ろから私の肩を掴んで

 グイと引っ張った。


 は? なにすんのよ。


 私が怒るより早く、ジルの手は

 パアンと弾かれた。


 え? 今の、風?


 ラウルが手を伸ばしていた。

 その青い髪を、浮き立たせて。


「やめろよ! ジルディット!」


 バサと白い羽根が伸びて、

 風が吹き出す。

 

 え? ラウル、ブチギレてる?


「なんだよ、やる気か白羽根ごときが!」

 ジルが笑って、羽根を伸ばす。

 黒い4枚の羽根が現れる。


 風があたりに渦巻く。

 2人が生み出してる。


 ちょ! こんな室内で風だしたら!


 キャーキャー悲鳴が聞こえる。

 セイレーンが鳴いてる。


 隣で、ココの体が、グラと体が揺れた。

 目を見開いて、顔が蒼白だった。


 そうだ、風は魔獣にも魔族にも毒で……

 ココは体内に魔族がいるから……


 私は床のバケツを手にとると

「いい加減に、しなさーい!」

 中の水をぶん投げた。


 バシャンとバケツの水は広がって、

 2人にぶっかかる。


「うわぁ!」


「何しやがる!」


 私はバケツを投げ捨てると、

「いい加減、風やめて! 

 ラウル、風抑えて!

 ジルもやめなさいよ!」

 2人に言い放ち、続けて叫ぶ。


「ココが! 苦しんでるでしょうが!」

 と、ココを指す。


 へ? と、ココが青白い顔を上げる。


「ココもココだから!」

 と、私はココに向かって言う。


「苦しいなら苦しいって言いなさい!

 やめて欲しいなら、そう言いなさい!

 自分が我慢すれば良いと思ってる?

 違うから!」


「あ……」

 と、ココが苦しげに呟く。


「風で苦しいの、ココだけじゃないから

 周りの魔獣みんなだから。

 でも、言えるのココだけだから!

 風使いは、言わなきゃわかんないの!」


 風使いは頭が硬い。

 意思を曲げない、周りが見えない。

 信じた物を疑わない。


 だから、必要なんだ。

 止める人が、言ってあげられる人が。


「ほら! 言ってやんなさい!

 このバカ2人に」


「う……うん」


 ココがフラフラと、前に出る。

 びしょ濡れの2人に対峙する。


「ふ……2人共、風やめて。風臭くて、

 苦しい。彼女たちも怖がってるし、

 それに、小屋で風使うの、校則違反。

 だから……やめてよね」

 ココがそう言うと、


「あ……ごめん」

 ラウルがそう呟いて羽根をしまう。


 ジルは小さく舌打ちをして。

「……悪かったな」

 と、呟いた。


 まったく、と、私は息を吐いて。


「さ、掃除して、風臭いのとりますわ。

 ラウル、水汲んできて。

 ジル、あんたもやりなさいよ」


「はぁ? そもそもお前がサボるから」


「ジルが風だしたから、掃除するとこ

 増えたんでしょ! 文句いうな!」


 言ってやると、ジルはまた舌打ちして。


「わーったよ」

 そう言い捨てて、ブラシを握った。


 セイレーンは、もう笑ってこなかった。


「あの……ありがと、アスナ嬢。

 ぼくの上着、うえから羽織って。

 下着は見えなくなるから」

 ココが言ってくれる。


「あら、感謝いたしますわ」 

 私がそう言うと、


 ココはニッコと笑って、

「こっちこそ。へへっ」

 と、嬉しそうに答えた。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

『次回予告』


「やっぱり、君も風邪引いた?」


「も、ってなんですの?」


「心配? ジルの事」


「べ、別に心配とかじゃありませんわ!」



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 今日もお疲れ様! モフモフー

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