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じいじの家の幸運の神


 西大路家の屋敷は敷地が三千平方メートルあまりあり、中央に母屋、そして茶室や倉、離れが点在している。その合間には池や木々が生い茂り豪邸にふさわしい風格を備えていた。


「幸葉、秋人くんを手伝わんでいいのか?」

「ゆっくり飾りたいらしいよ。昨夜遅くまで考えてたみたいだし、あの人凝り性だから」


座敷から見える庭は大きな池があり、時たま鯉が跳ねる音がする。

真理南が磨かれた廊下をすり足で近づいてきた。


「幸葉ちゃんお昼何がいい?」

「何でもいいけど、私も手伝うよ」

「じいちゃんの話し相手してあげて、秋人さんは何がいいかな」

「納豆以外は何でも食べるから」

「じゃあ、じいちゃんの好きなお蕎麦にするね」


真理南が立ち去るのを見計らい源九郎が口を開く。


「このままでいいのかの……」

「真理南ちゃんのことでしょ」

「お前たち同様あれにも遺産を分けるつもりじゃからワシが逝ったらそれから幸せになればよいのじゃが」

「じいじ、口が裂けてもそんな事、真理南ちゃんに言っちゃダメだよ。あの子そういう話を一番嫌うから」

「そうじゃな」


ーーーーー


「何してるのかな?」

「休憩」


飾りつけをしている植木の根元におかっぱ頭の子どもがうずくまっている。おかっぱでフードの付いた赤いコート姿から『女の子』と判断したが、性別を間違った苦い経験が頭をよぎった。


「女の子……かな? 男の子じゃないよね」


その子どもは「うん」とうなずく。


「はは、そうだと思った。よかった。女の子だよな、やっぱり女の子だ。女の子、女の子」

「あんた、危ない人?」

「ち、違うわ! と言うよりこんな所で何してるの?」

「……」

「ここ寒いだろ、ずっとここにいたの?」

「そう、ずっと昔から」

『ありゃ? これ人間じゃないかも』


秋人は財布を取り出すと、その中から小さく折られた紙をとりだした。広げると御札で、その御札を恐る恐る子どもに近づける。


「あたし『魍魎もうりょう』じゃない。これでも神さまの端くれだよ」

「神さま?……子ども姿の神さまと言えば……えーっと」

座敷童子ざしきわらしだよ!」

「ああ、座敷童子ちゃんか」

「ちゃん付けられたの初めてかも」

「そっか……でも、どうしてこんな所に座り込んでるの?」

「あたしにも大人な諸事情がある」

「大人な諸事情ね」

「あんた幸葉の旦那かい?……あっ、旦那って呼び方、気に入らないなら言い換えるけど」

「まぁ近頃は厳しいからね。でも『旦那』に類する者じゃないよ」

「ふーん、往生際が悪いのは知っているけど、あれだけ女をはべらせてたら一人を選べないか。恵早利比売様までたぶらかしているからな」

「『たぶらかして』は失礼だぞ、って恵を知ってるのかい?」

「そりゃそうよ、あの方は有名神ゆうめいじんだからね」


そう言うと座敷童子は立ち上がり尻をはたいた。


「あんた、ちょっと源九郎の所に連れていけ」

「偉そうだな」


座敷童子は秋人に小さな手を差し出だす。


「え、手を繋ぐの?」

「あたしと手を繋げば良い事が訪れるよ。宝くじを買うと五等が当たるかも知れない。一番最初にあたしを見つけてくれたお礼」


ーーーーー


 座敷童子の手を引いて庭から現れた秋人に幸葉が驚いて立ち上がった。


「な、な、ナニ? その子??」

「ととさま、あの人だあれ?」

「なぁ、冗談はやめてくれないか」

「ふふ、波風を立ててみるのも楽しそうだ」

「あ、あ、秋人さんのか、隠し子?」

「違う違う! 座敷童子のリンちゃんだ」

「お、おい! 勝手に名前を付けるな、だいたいリンってどこから出てきたんだよ」

「なんとなく」


座敷童子は縁側の前に仁王立ちすると源九郎に話し始める。


「よく聞け源九郎、あたしは座敷童子だ。二百年前封じ込まれたが今日ついにその封印が解けた」

「リンちゃん、何で座敷童子が封印されるんだ? ひょっとして悪さばかりしてたとかか?」


座敷童子は秋人に振り向くと眉間にシワを寄せて声を荒げた。


「違うわ! 悪しき祈祷師に不覚にも封印されたんだ……この話は後でするから、今は源九郎に話をさせて――」


秋人は座敷童子の脇の下に手を入れてひょいと持ち上げると縁側に座らせる。


「な、何をする」

「はいはい、お靴を脱いで」

「おい! なぜ履物をぬがすのだ」

「縁側に上がるときは履物を脱がないと」


もう一度抱き上げると、自分も縁側に上がり座敷童子をそっと降ろした。


「ここからの方が幸葉のお爺さんがよく見えるだろ」

「あ、ありがと」


再び仁王立ちになり、咳ばらいをして話し始める。


「えーっと、封印が解けたのでまた座敷を借り受けに来た」

「なんだ、リンちゃんは間借りのお願いに来たのか」

「ええー!……間借りではないぞ、だいたい普通、座敷童子は招くものだ。よく聞け座敷童子とは――」

「そのコートとズボン私の小さい時のだよね、じいじ」

「こ、これか? 確かに無断で借りたことは詫びる。寒かったからつい……」

「無断はよくないよな、でも赤いほっぺと赤いコートがよく似合ってるね」

「あ、ありがと」

「いいのよリンちゃん。でもちょっと大きいみたいだね。袖から指の先しか出てないし、でもそれが愛くるしいね」

「あ、ありがと……いや、だからこれからこの座敷を――」

「幸葉さんお蕎麦の用意できたわよ……あら、かわいい子。誰なの?」

「あ、ああ、僕の親類なんだ。ねっリンちゃん。さぁ挨拶して」

「ええー!……あ、あのリ、リンといいます」

「よろしくねリンちゃん。秋人さんの親類なんだ。ここのお手伝いをしている真理南よ。お蕎麦多目に茹でといてよかった。リンちゃんの分もあるわよ」

「あ、ありがと」

「ちゃんとお礼ができて偉いぞリンちゃん。おじさんも鼻が高いよ」

「ええーっ!」

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