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七人目の仲間、華


 神社の『魍魎もうりょう退治』から半月が過ぎ、ゆきは館の奥座敷では並べられた料理を囲んで華の歓迎会が開かれようとしていた。縁側のガラス戸からチラチラと舞う雪が座敷の明かりに照らされ美しく光っている。そんな中で秋人がおもむろに立ち上がった。


「それでは改めてみんなに紹介するよ、こちらが清瀧きよたき はなさんです」


そう言うと華が辺りを見回して小さく頭をさげる。


「ボクと幸葉と恵は、華さんの村が『魍魎もうりょう狩り』に襲われたときに手助けしに行った事があるんだ」

「あの時はお世話になりました」

「まぁボクはその前に、華さんに向こうずねを蹴られたことがあるんだけどね」

「何したん? 華ちゃんにイヤラシ事したんちゃう?」


伽理奈の言葉に華が慌て出し、真っ赤に染まった顔の前で両手を振りながら


「いいえ……あ、あの時はまだ子供で……」


視線が秋人と華に集中したが、ニコニコしながら何食わぬ顔で話題を変える。


「華さんはいくつになったの?」

「はい……二一歳です」


下を向いて小声で答えた。


「若いね、この中には化け物級の年齢の人もいるよ……化け物だけど」


「ふん」と彩希が横を向く。


「華さんの能力はこの前見たよね、強力な結界が使えるんだよ。お母さんは伝説の妖狐ようこ華御前はなごぜん』さん、お父さんは人間なんだ」

「さすがは、女狐めぎつねの娘だの」

「彩希、失礼だよ――」

「よいではないかえ、私は『血をほっする鬼人おにびと』おぬしは半分鬼人かの、幸葉は狼の半獣人……のう華よ、ここはそんな魍魎もうりょう吹き溜まり(・・・・・)ぞ、誰に遠慮することもなく自分をさらけ出せばよい。気持ちが明るくなるぞ」


彩希は華に向かい微笑んだ。その微笑みを見て満面の笑みを浮かべ「はい」と返事を返す。それを聞き、恵がうなずきながら腕組みをした。


「さすが彩希ちゃんだ、いい事を言うね。年の功にはかなわないよ」

「何を言う、駆け落ちの元神よ。おぬしとはそう変わらん」

「変わるよ! 私より一五〇歳も上だよ」

「ボクが思うに二人からしたら一五〇歳くらいはもう誤差の範囲だけどね……」


胸の前で軽く手を打つと秋人が続けて話す。


「さてと、それじゃあ美女の住人たちを紹介していこうか、先ずは西大路にしおおじ幸葉ゆきはここの親分だよ」

「もう、美女はいいけど親分はやめて!」

「怒られた。ここの管理人さんだよ」

「幸葉だよ。私はね、子どもの頃に狼の獣人に襲われたの。でもひと噛みされただけだから獣人化といっても全身じゃなく耳と尻尾と手先だけ。あと身体能力とかね」

「幸葉の獣人の血がボクにも入っているんだ。その話は機会があればね」

「華ちゃんこれから仲良くしてね」

「はい、こちらこそお願いします」


「次は五辻いつつじ めぐ。彩希が言った通り『駆け落ちの元神さま』なんだ。人の男性を愛しちゃって何百年も続けた神さまをあっさりと捨てちゃった。でも、その男性の話は禁句でね」


秋人は唇の前で人差し指を立てた。華は「まぁー」っと口に手を当て、それを見て恵は苦笑いをしている。


「神さまの時の名前は恵早利比売命えさりひめのみことって言うんだ。そうそう、恵は駆け出しの小説家なんだ。まだ出版されたのは一冊だけど。『堕落だらくの神』だったっけ?」

「おいおい、『追憶ついおくの神』だよ!」

「そう追憶だ。その本がね、結構人気なんだ」

「確か『お笑い系』の本だったかの?」


彩希が茶化すと恵が真剣な表情で返す。


「そうなのよ、真面目に『自伝』書いたつもりなんだけどさ、感想のほとんどが『腹の底から笑いました』系なのよ。まったく」

「それから恵はここの『日本茶カフェ めぐめぐ』もやってるんだ」

「へへ……自称二四歳、お茶畑で一五〇年くらい神さましてたの。お茶は詳しいから、ここの日本茶カフェを切り盛りしてんのよ。美味しいお茶とお菓子もあるから暇なとき顔を出してね。私の本も置いてあるからさ」

「はい伺います。それに本も是非読みに行きます」


「それから、こっちは壬生伽理奈みぶかりな伽理奈比売命かりなひめのみことっていう新米の神さまだ。唯一『魑魅魍魎』《ちみもうりょう》じゃないんだけど……」

「一番魍魎(もうりょう)っぽいがの」


彩希がつぶやくと伽理奈は照れ笑いをした。


「神さまになってから三年だったっけ? 下積みは二〇年くらいって聞いたから今は二三歳くらいかな、それと華さんが勤める事になっている神倉坐神社かみくらにいますじんじゃの巫女さんだ。華さんの先輩だね」

「あのぉ、なぜ神さまが巫女を?……」

「宮司さんの手違いで祭神さんがブッキングしちゃったんだ」


伽理奈がおっとりとした口調で華の耳元にささやく。


「みんなからな『ちょっと残念な神さま』て呼ばれてんねん」

「ざ、残念な神さまなのですか?……」


華の言葉に伽理奈は眉を八の字にし、頭を掻きながら照れるように笑った。


「初めての祭神さんやから気合入れて来たんやけど、もう先着の神さんがってな、『えっ』ってなって。来る時、壮行会まで開いてもろたからカッコ悪いし簡単に帰られへんやろ、そやから宮司さんにお願いして巫女で雇てもらってんねん。これから一緒に頑張ろな。うちの事は伽理奈お姉ちゃんって呼んでくれる?」

「宜しくお願いします。伽理奈お……お姉ちゃん」


 秋人は椿の方にゆっくりと移動し、真後ろに立った。椿は気配を感じ、少し緊張しているところを後ろから肩をつかまれ「きゃっ」と小さく声を上げ首をすくめる。


「それから御前おんまえ 椿つばき、この子は負の感情が人に具現した魍魎もうりょうなんだ。でも、心はすごく優しいんだよ。見た感じは二二歳くらいかな、でも生まれて今年で三年目だ。一度食べた料理の味を再現できる特技を持ってるから、それで彩希と二人でここの昼食屋を任されているんだよ」


そう紹介されると彩希が自慢げに話し出した。


「私が切った食材を椿が調理をするのだ。私は接客も担当している。椿の美味しい料理と私の巧みな接客で店を繁盛させているのだぞ、華」

「そうなのですよ。私はあまりお付き合いは上手じゃないけど、華ちゃん仲良くしてくださいですよ」

「こちらこそ、料理が得意なのは羨ましいです」

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