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魍魎(もうりょう)の番人


「見つけた」


狼の半獣人、幸葉ゆきはが頭上の尖った耳を小さく左右に動かすと革ジャンパーの裾から飛び出した太く長い尾をなびかせながら、ショートパンツからスラリと伸びた足で地面を蹴り走り出す。


『血をほっする鬼人おにびと』の彩希さきが、可憐な少女の姿をし、スイセンの花柄模様の着物に紫のはかまを身に付けて右手を高く掲げた。その手に長い直刀が具現し、それを一振りすると幸葉に続く。


 その後ろから『新米の神』伽理奈かりなが巫女装束の上に神の証である『神の衣』をまとい「ほな、行くで~」と小躍りしながら飛び出した。


 サラサラとしたショートヘアーの髪を揺らしながら『負の感情が人に具現』した椿つばきがグレーのジャージに身を包み姿勢を低くしながら藪の中へ走り込む。


 幸葉が走った先には廃れた神社に巣くう犬の様であり、狼の様でもある『迎亡鬼げいぼうき』という『魍魎の獣』が潜んでいた。走る幸葉に獣らは飛び掛かる。それをかわし、長い足を力いっぱい屈伸させ幸葉は上空に飛び上がった。獣らもそれを追って飛び上がる。しかし幸葉は空中で前転し、『獣人』の鋭い爪を振り下ろすと、その爪を受け獣たちは次々と落下していった。


 別の獣ら三匹が、剣を構えて走る彩希に飛び掛かる。一瞬早く飛び掛かった獣を走りながら斬り裂くと、彩希はまるで慣性を無視するかのように残像を残しつつ真横に移動し、くるりと回る。その勢いで一匹を下方からすくう様に斬り、返す剣先でもう一匹を貫いた。


「このいにしえの剣にあがなうう者は地獄に落ちるのみだ!」

「カッコええ、彩希ちゃん」


そう言うと伽理奈が衣をなびかせながら彩希の横を踊るように通り過ぎて行った。


 伽理奈が立ち止まると獣たちが一斉に襲いかかる。飛び掛かった獣らに一回転して回し蹴りを次々と見舞った。するとその獣は『神の衣』の力により、もんどり打って飛ばされながら消滅する。それをの当りにした獣たちはその光景に恐怖し、尾を下げた。


「お次は誰や~」


そうつぶやきニヤリとほほ笑む。その不気味さに後ずさりし、逃げ出す獣たちを追い回し次々と回し蹴りを繰り出した。蹴られた獣たちも飛ばされながら消滅していく。


 藪の中では椿が姿勢を低くし、両手を刃物のように変化へんげさせ、ひそんでいる獣らを次々と斬り倒していった。椿が藪を抜け出したすぐ後に、二匹の獣が背後から飛び掛かる。その気配を感じて振り向き様に一匹を斬り倒したが、もう一匹の鋭い爪が椿に触れようとした時、椿の体がスッと消えジャージがはらりと地面に落ちた。獣の鋭い爪が空を切る。その背後の地面から椿の体が盛り上がるように現れると、その変化へんげした手で獣を斬り倒した。椿はホッと一息つく。


「クチュン!」


身震いし、一糸いっしまとわぬ姿に胸の前で腕を交差させ「きゃっ」と叫ぶと、目を閉じ勢いよくうずくまった。落ちた衣類を拾い集めるとキョロキョロと辺りを見回す。そしてそそくさと身に付けた。


◇◇◇◇


 しばらく攻防は続き、幸葉と彩希、そして伽理奈と椿がひらけた場所で背中合わせになっている。その周りを相当数の迎亡鬼が囲み、じりじりと近寄ってきていた。すると、流れ星のように空を幾筋もの光が流れ、獣の頭上に降り注ぐ。それは、元女神のめぐが放った矢だった。


 大きな牡丹の花をあしらった着物の上に透き通った羽衣を着て大きな弓から矢を斜め上に放つ。再び光の矢が降り注ぎ、射貫かれる獣らを見て、他の獣らは混乱し始めた。それを見計らい巫女で妖狐ようこと人の半妖であるはなの手を引き、幸葉らと合流する。


 華が手を胸の前で合わせ、目を閉じ念じ始めると、すぐさま輝く結界が獣らと隔てるように周りを囲んだ。


「見事な結界だ、華よ」


彩希が構えていた剣の先を地面に突き刺すと、華は「はい」と答え、胸の前で合わせた手をサッと広げる。結界は一瞬で半径を広げ、迎亡鬼げいぼうきの群れをなぎ倒し、その結界の消えた後にはむくろが累々と横たわっていた。



 喧騒けんそうが静まった境内の拝殿前で秋人あきひとが立っているのを幸葉が見つけ、駆け寄ろうとしたが『来るな』と手で合図をされる。


「拝殿に何かおるぞ、親玉かも知れぬな」

「秋人さん一人で大丈夫かな」

今宵こよいはろくに活躍しておらんから、ここいらで見せ場を作らぬとさまにならぬわ」


 秋人が左手で作った手刀を頭上からサッと振り下ろすと、その先から光り輝く三日月の様な光波が拝殿奥に放たれる。拝殿の中が明るく輝き、真っ黒なモヤが秋人目がけ飛び出してきた。そのモヤはうねる様に素早く動く。とっさに飛びのくが、わずかに触れられた右袖がボロボロと崩れ落ちた。それを見て更に後ろに飛びのく。しかしモヤの動きは速く、一瞬で頭から飲み込まれた。その光景に幸葉らが飛び出そうとした時、飲み込まれたはずのモヤの反対側に秋人が突然現れ光波を打ち込む。光波はモヤの中で稲妻のように走り、黒いモヤは一瞬痙攣し、その動きを止め、その場に淀んでいった。


 秋人が一枚の御札を取り出し、それをモヤの上に静かに落とすと御札は炎のように激しく輝き出す。モヤは一瞬大きく伸び上がるが震えながら一気に四散。それと同時に迎亡鬼の骸も細かな光の粒となり空中に消えていった。黒いモヤが四散した後には輝くガラスの塊のような『魍魎の魂石』が落ちていて、それを拾い月にかざしていると、その右手に幸葉が飛びつく。


「魂石も回収完了。任務終了だね、お疲れ様」


腕にもたれ掛かった沙也加の獣人の耳を秋人は見つめていたが、無意識に人差し指で突ついた。すると「いやん」と肩をすくめる。


「うん!」


力を込めると耳と尾が体に吸い込まれ、目を細めながら笑顔を向けた。

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