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第81話 酒と師匠と宴会と


 赤黒い鎧を着たレオファルドに僕は爪を伸ばして切りかかるとギャリリンとまるで金属と金属をすり合わせた様な音が鳴りその鎧に弾かれた。


「ふは、はははははは!素晴らしい!これでこの俺の体に傷をつける事が出来る者はいないだろう!魔人でもこんなもんだ!はははは!」


 そう言いながら高笑いをしていたが僕は少し後ろに飛び距離を取ると四つん這いになった。


「なんだあの魔法を放つのか、いいだろう受けてやろう!」


 そう言いながらレオファルドは手を前に出して赤黒い剣をクロスさせる構えを取った。


 僕は口を大きく開くと真っ黒なビームをレオファルドに放った。


「はぁ!こんな物弾き飛ばしてやるわ!」


 そう言いながらレオファルドは剣でレーザーを防いでいたが僕は感覚で分かっていた。これがまだ本気ではないと。


 だんだんと口から放たれるレーザーの太さが増していくのが分かる。レオファルドもそれを感じたのか焦りだした。


「なっ、ちょっと待て!一回ストップだ!まて!!」


 膨らみ続ける黒い光の束にレオファルドが飲み込まれていった。


 激しい音と衝撃の後、辺りは虫や動物の気配も無く静まり返り、目の前の森の木々はまるでミキサーにでも入れたかのように粉々に砕け散り、軍隊でも行進できそうなほどの広い道が真っすぐに出来ていた。


「ぐ、ぐおぉぉおおお!」


 声と共に少し向こうの地面が膨らんだかと思うと土の中からレオファルドが姿を現した。


「なんだそのでたらめな魔力は!」


 そう言うレオファルドの姿は赤黒い鎧が殆ど剥がれボロボロの血みどろで体も所々炭化している様だった。


「くそっ!魔人の暴走に等付き合っていられん!」


 そう言いながら僕の方へ大量の赤黒い槍を放つと森の方へと駆け出すのが見えた。


 にげる?!そう思った瞬間僕はもうすでにレオファルドの近くへ来ており、そのまま何度も爪で切り裂くと軽くレーザーを放ってレオファルドを屋敷の方へと弾き飛ばした。


 その衝撃で屋敷は半分くらい吹き飛び倒れて居るエイドルたちの方へも瓦礫が飛んでいた。


 危ない、この規模で戦っていたらマイキー達が巻き込まれてしまう。頼むからもう少し違う方で戦ってくれ!


 そう願っても特に聞き入れてくれないようで半壊した屋敷に倒れて居るレオファルドに向かってまたレーザーを軽く放ったり爪を飛ばして手足に突き刺したりと完全に遊んでいる様だった。


 そして何度かサッカーボールの様にレオファルドを蹴り飛ばすとレオファルドはバイスの横に転がって行った。


 待って待って、そこだとバイスも巻き込んでしまう!止まって!


 そう思っていると殆ど動かなかったレオファルドが隣にいるバイスを掴み持ち上げると盾にするようにして口を開いた。


「待て!こいつを殺すぞ!!」


 そう言ってバイスを人質に取るレオファルドに向かって僕の体は全く気にする様子も無く口を今日一番大きく開いた。


 その瞬間、世界がゆっくりになった。


 待て待て待て!待ってくれ!このままじゃ周りにいるエイドルもマイキーも死んでしまうよ!やめろやめろやめろ!やめてくれー!!!


 ゆっくりと流れる世界の中口から真っ黒なビームが放出されていく。


 おい!いい加減にしろ、これは僕の体だ!勝手をするな!寄越せ!返せ!くそ―ーーーーー!!!!


 その瞬間、世界に色が失われていった。



 レーザーの軌道がそのまままるで生きているかのように上へと伸びていき空へと吸い込まれていった。


「はぁはぁはっ、止まった」


 ゆっくりと世界に色が戻っていき、僕は体の自由を取り戻すことに成功した。


 その代償かは分からないが体中が痛い、そして力が入らない。


 体の痛みに膝をついた瞬間、顔に衝撃が走り僕は仰向けに倒れていた。


「くそっ!魔人の力を舐めていた。今度は暴走する前に完全に殺してやる!」


 どうやら僕はレオファルドに顔面を蹴られて今仰向けに倒れているみたいだ。全身が痛み過ぎて分からなかった。


 今僕の目に入っているのは穴の空いた月だけだった。その視界も横腹の痛みと共に流れるように消えていった。


 僕はレオファルドに蹴られて地面を転がった。


 なんとか首を動かして視線を向けるとレオファルドは保険の為か左手にバイスを持ったまま右手で魔力を練りかなり大きい赤黒い槍を生成していた。


「これで終わりだ!完全に殺してやる!」


 まずい、今僕が死んだらみんなが殺されてしまう!そう思い何とか起き上がろうとすると広範囲の地面に魔法陣が浮かび上がって来た。


「なんだ!?まだ力を残しているのか!?早く死ねっ!」


 そう言いながらレオファルドが魔法を発動するとそのまま赤黒い槍はするすると小さくなって消えてしまった。


「はぁ?なんだこれは!?何が起きているんだ!?なっ、うごけん!!」


 レオファルドがじたばたしているとよく知っている声が聞こえて来た。


「もう終わりよ、レオファルド」


 何とか声がした方を向くと森の中から師匠が歩いてきていた。


「貴様は!ティーレシア!何をした!」


 師匠はレオファルドを無視して僕の方へ歩いて来ると背中を支えて起こしてくれた。


「待たせたわねシュウ。オークションはちゃんと落札してきたわよ。エイドルの妻子も無事に宿に届けて来たわ。遅くなってごめんね」


「僕の方こそごめん、こんな感じになってて」


「大丈夫よ、こんなボロボロになってよく頑張ったわ。誰も死んでいないし問題ないわ」


 そう言いながら師匠が僕に優しく微笑んだ。


「これは何だ!力が吸われる!!今すぐやめろ!!!」


「久しぶりねレオファルド。止めるわけないじゃない。あなたの心臓はとっくに解析済みよ。その魔法陣はそれとパスを繋げて魔力を放出するようになっているわ。さっさと死になさい、今度は跡形も無く消し去ってあげるわ」


 師匠は怒っているのかいつもよりキツイ口調でそう言うと魔力を操り魔法陣の光が強くなった。


「ぐぐっぐあぁぁぁ!俺は死なんぞー!何度でも、何度でもよみがえってやる!次は貴様ら全員殺してやるからな!覚えて居ろぉぉぉぉ!!!」


 レオファルドがそう叫んだあとだんだん白くなり灰にって風に吹かれて散っていった。


 そこに残っていたのはヴァンパの心臓とキューブとリエルの欠片だけで、あとは何も残っていなかった。


「あいつはもう復活しない?」


「そうねあの心臓はもう世に出さないからまずその心配は無いわ」


「よかった」


 そうつぶやくと左の手首辺りが熱い感じがして見てみると蔓に花が咲いていてそれが散っていき僕の傷が急速に治って行くのがわかった。


「ああ、まってまって僕じゃなくてエイドルやリエルを先に…ああ、ダメか」


 相変わらず勝手な呪印さんにがっかりしていると師匠が僕を覗き込んで来た。


「シュウ大丈夫?!」


「僕は大丈夫みたいだよ。呪印が勝手に治してくれた。ティーも来てくれてありがとう!」


「師匠でしょ、もう。でも大丈夫そうね」


「うん、でもリエルが!」


 そう言って動くようになって僕たちはリエルの所に駆けつけるとリエルは干からびた感じになっていたがかすかに息をしていた。


「さすが天使ね、生命力がすごいわ。シュウこれを」


 そう言って師匠がリエルの欠片を僕に手渡してくれたので僕はリエルの口にそれを押し込むと、まるで巻き戻しでも見ているように干からびていたリエルがうっすらと光りながら元に戻っていく。


「バババーン!リエルちゃん復活!」


 いやなんとなく分かってたけど、、いい加減な生き物だね天使って。


「シュウ―!ありがとう!」


 そう言いながら大人サイズのリエルが抱き着いて来た。


「元気になってよかったよ。それより早速なんだけどエイドルとバイスを治せるかな?」


「オッケーだよ!任せて」


 そう言ってリエルが光る玉をポンポンと二人に投げつけると傷だらけだったバイスも途中まで血を吸われて息も絶え絶えだったエイドルも傷が無くなり呼吸が安定した。


「ありがとうリエル!」


 そう言って撫でてあげるとリエルも嬉しそうにしていたが急に叫び始めた。


「あ、ああ、ああぁぁぁ、まだ足りないよー!」


 毎回だがやっぱりリエルは縮んで行き6歳くらいのサイズになって止まった。


 縮んだ勢いで尻餅をついたリエルは周りをきょろきょろと見まわして僕を見つけて飛びついて来た。


「シュウーお腹すいたー!」


「はいはい帰ろうか」


 僕たちはレオファルドが乗ってきた馬車にエイドルとバイスとマイキーを載せて、御者台にあれから抱っこしているとすぐ寝たリエルを抱えながら師匠が運転でかえることになった。


 空を見るともう白み始めていた。


「シュウ、これ」 


 そう言って師匠が僕にキューブを手渡して来たので受け取り、片手でポーンと投げると爪呪印を伸ばし真っ二つに切り裂いた。


 サラサラと風に飛ばされていくレプリカキューブを眺めながら師匠に話しかけた。


「そう言えば偽キューブの方はどうだった?」


「ええ、出元が分かったわ」


「じゃあ次はそこに行くんだね、どこだった?」


「ルーガス帝国の帝都よ」


 帝都っていう事は絶対あいつが絡んでるよね。間違いない気がする、エンバーミング…できれば二度と会いたくなかったけど、行くしかないよね。それに色々やられてばっかりって言うのもね。


「じゃあしばらくは又馬車の旅かぁ。お尻が強くなりそうだね!あーとりあえずしばらくお風呂に入ってゆっくりしたいよ」


「相変わらずぶれないわね、まぁとりあえずしばらくはゆっくりしてから出発しましょうか獣人の事も有るしね」


 そんな事を話しながら僕たちはどんどん明るくなっていく森の中の道を町に向かってゆっくりと進んで行った。






 僕は今ニアさんたちがいる森のキャンプに訪れていた。


「ホンマありがとうなシュウー。持つべきものは友達やな、いや、もう家族言っても過言やないな」


 そんな調子のいい事を言っているニアさんと獣人達に僕は囲まれていた。



 あれからだけど、宿について意識を取り戻したエイドルは奥さんと子供と涙の再開を果たし、マイキーは起きて多めに報酬を渡すとさっさとスラムに返って行ったし、相変わらずドライな感じで帰り際もまた何かありましたらご用命をとかかっこつけて迎えの子供たちと帰って行った。


 魔狼のバイスは僕と師匠について来ると言っている。師匠はどうせだめでも勝手について来そうだし魔狼の追跡能力からは逃れないだろうからと許してくれた。


 そして町で奥さんと子供の奴隷契約の手続きや(町を出るために必要らしい)なんやかんやでやっとニアさん達と合流することが出来て今に至る。


「ほいでこれからシュウはどうするんや?」


「師匠と帝国にむかう予定だよ」


「ほんまかーじゃあ一緒にいくか?うちらも帝国らへんに帰るで。あの辺でテロ活動してるからな」


 そんな物騒な事を言いながらニアさんは悪そうに笑っていた。


「ん-どうだろ?師匠に聞かないと分からないけど行けたら一緒にいこう!」


 今日は師匠はオークションの方の手続きと旅人ギルドなどに用事があるようで僕だけで来ていた。


「そうかそうか、まぁそんな事より今日はパーッと行こうか!みんな宴会の用意せー!」


 そう言うニアさんにいち早く返事を返したのは変態のジェイムスだった。


「分かりました!私にお任せください!」


「いやいやアンタは何もせんでええわ!そこに正座でもしとけ!」


 ニアさんに言われ嬉しそうに正座するおっさんはかなり気持ち悪かった。


「シュウ様のその目もご褒美です」


 獣人達に飽きられて僕のリアクションに喜ぶジェイムスから離れ宴会の用意を手伝っているとまるでまた獣人の国に居るような懐かしい気分になりふとエリザベスさんの事も思い出した。


「あーやっぱりエンバーミングに会って借りを返さなきゃいけないよね」


 そう一人で考えてると急に後ろから肩を抱かれた。


「何してるんやー!シュウ!はよ飲むでー!」


 なんかうるさいけどしんみりしているよりいいかもしれない、次は帝国かぁ道中も何もなければいいんだけどなぁ。


 そんな事を考えながら賑やかな宴会に飲まれ、お酒にも飲まれていった。



 今回少し話が長くなりました。

 次回からまた新しい話が始まりますが更新が不定期なりますのでもしよかったらブックマークや評価を頂ければモチベーションに繋がりますのでよろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 面白かった^^更新がされてないのは残念ですがブックマークはしておくので更新楽しみにしてますm(._.)m
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