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第11話 槍と穂先と貧血と

「これは死んだかもしれない!死なないけど」




 今僕は広いコロシアムの真ん中で狼二匹と対峙していた。ちなみに左足と左手が折れてる上に全身血だらけでちょっと動くと激痛が走る。




 しかも手に持っている槍は半分に折れて、普通なら完全に満身創痍で諦めている状況だ。




「其れにしても会場は異様な盛り上がりを見せてるな、殺せ殺せ言ってるし狼サイドなのみんな?」




 これは何が悪かったのかなぁ、武器かな?このなかなかの状況に武器選びからちょっと思い出してみよう。






 時間は少し前にさかのぼり、今僕は選手控ロビーでの薄いソファーに座っていた。




 このフロアはアナウンスで呼ばれた選手が個々の控室に入る前の待機場所で、運営スタッフによる本人確認の為にあるみたいだった。




「13番の人いますかー?」




 病院の待合室の様な椅子に座っていると進行表を持ったスタッフが13番を呼んでいたので返事をし、入ってきた方と逆の壁にある個室へと案内され中にはいった。




「じゃあとりあえずここで武器とか選んで待っててくださいね」




 そう行ってスタッフが出ていったので個室を見回すと、壁には色々な武器が並んでおり真ん中の机には温かい食事が置いてあった。




「やった!まずは食事だよね」




 テーブルの上にはスープとお粥?とステーキが置いてあった。あの地獄のサバイバルを経験してから食に対する欲望がすごいかもしれない。




「いただきます!」




 早速スープから頂くとしようかな。スープは黄色がかった野菜が細かく刻んである優しい味のスープで風邪の時でも飲めそうだ、そしてお粥はオートミールだった。




 作ってから時間が経っているのかドロリとしていて初めて食べたがまずくはないが美味しくもなく、お腹にどっしりと溜まる感じだった。




「さてメインをいただこうかな!」




 ステーキは分厚くまだ仄かに暖かい。




 フォークを突き刺しナイフを当てると、しっかりとした厚みのある赤身の肉だった。まぁなんの肉かはわからないけど牛っぽい見た目だ。




 僕はワイルドに肉を大きめに切って口に頬張り咀嚼すると、歯を押し返してくる程の弾力性が有り噛むたび肉汁が溢れてくる、ソースとの相性もよくとっても美味しい。




 ミディアムな焼き加減のこのお肉は、本当に肉を食ってるなと感じるしっかりとした赤身の肉でかなりの満足感があった。




 全部食べたせいで満腹で横になっていると自動ドアが開いてネズミの獣人が入って来た。




「お疲れ様でーす、もうすぐ出番っすよー、おお!全部食ったんすか凄いっすね!腹ペコだったんすか?」




 やたら喋りが軽いネズミの獣人に驚かれた。




「え?ダメだったんですか?」




「イヤイヤ大丈夫っすよーまぁ普通はどれかを食う感じっすねー、まぁほとんどの人は今から死ぬか生きるかなので食わねーっすね」




 どうやらコースでは無かったらしく、食欲無い人用にスープやオートミール、やる気満々な人用にステーキが有ったらしい。




「えーっともう時間になるんで武器選んであのランプがついたら出て来てくださいねー、伝えましたからねー、お願いしますよ」




 そう言って忙しそうにネズミの獣人は出ていった。





 武器選べと言われてもなぁ、サバイバルで使ってた斧か槍ぐらいかなぁ。




「とりあえず槍で行こうかな近付かなくて良いしなぁ」




 そう言いながら僕が手に取ったのは長さが3メートル位の、穂先が金属で持ち手が木で出来たシンプルな槍だった。




「でもコロシアムって剣と盾ってイメージだよね、攻守共に優れてそうだし」




 槍を置いて剣と盾を持って構えてみると意外としっくり来るかも。




 しばらく武器を前にあれこれ考え事をしていたら入り口付近にあるランプに気がついていなかったみたいで、部屋の自動ドアが開いてネズミの獣人が慌てて入って来た。




「ちょっとちょっと困るっすよー、あのランプが光ったら出て欲しいって言ったっすよね?早く早くもうみんな待ってるっす!」




「あ、すいません、どれ使おうかまよってて」




 そして半なかば押される様に自動ドアから出て来た時に手に持っていたのが槍だった。




「まぁこれで良いか一対一なら槍が一番良さそうだし」





 自動ドアの向こうは野球のグラウンドくらいありそうな土の闘技場が広がっていた。


 


 そこを僕が周りを見渡しながらゆっくりと進んでいくと。





「5分耐えろよー!」「1分以内に死ねー!」「10分!頼むとりあえず10分耐えろー!」「今すぐ死ねーー!」





 どうやら僕が何分で死ぬかが賭けになっているみたいだ。




 それと最後のやつはただの悪口だね顔覚えたからなぁ!獣人の区別はつかないけど。




 右手に槍を持って真ん中まで来るとオーロラビジョンに僕が大きく映し出された。




「古代魔法文明はもう何でもありだね」




 そう言いながら上を見上げると天井のドームがゆっくりと開いているところだった。





 開閉式のドームが開ききるまで眺めているとスピーカーからファンファーレの様な音が響き渡り、活舌の良い女性の綺麗な声が聞こえて来た。




『本日はご来場ありがとうございます、大変お待たせいたしました。間もなく本日の第一試合を開催いたします。そして皆様ご予想の方はお済になられましたか?あと5分で締め切りの時間となっております。まだの方は是非闘券のご購入をお急ぎください』




 あーどうやら僕が賭けの対象になっているみたいだ。




 それにしてもこんな大勢に見られるのは前世も含めて初めてなので、もしかして緊張しているのかな?頭が少しぼーっとしている感じがする。




 不死だしもう何度も死んでるのでそういう感覚がマヒしているのかもしれない、そう思いながらストレッチをしたり武器を振ってみたりしていると今度はスピーカーからブザー音が聞こえて来た。




『さぁ!お時間となりましたので予想を締め切らせていただきました!お待たせいたしました、それでは本日の第一試合を開催いたします。第一試合は人間の戦闘奴隷の登場です。いったいどれだけの時間生き延びることが出来るのか!それでは第一試合のスタートでーす!!』




 他人事の様にスピーカーの声を聴きながらオーロラビジョンを見ていると向かいの壁面に有った自動ドアが開き、中から狼が飛び出してきた。




 急いで槍をしっかりと構えるとその後ろからまたもう一匹もう一匹と飛び出してくる。




「あれ?3匹もいるよね、コロシアムって一対一のイメージだったんだけどこれは殺しに来てるよね?」




 まぁしかし始まったものは仕方ない、とにかく槍の利点はリードがあるところだからね!所詮畜生だ、とりあえず一匹ずつ倒すしかないね!




 こちらへ牙を剥いて走ってくる狼に狙いを定め槍を突き出す。すると狼は右左へステップを踏み上手によけてくる。




「うそっ早いな!」




 そのまま槍で横に払おうとすると穂先に噛みつかれた。




「がうぅるるぅ!」




 槍が引っ張られて体制が崩れた所にもう一匹の狼が来て、左足に噛みついて顔を激しく振り回した。




「ぐあぁ痛い!」




 その拍子に右手の槍が軽くなったと思ったら半ばから折れてしまっていた。




「もぉ!くっそいったいなぁ!!!」




 そう言いながら折れた槍を足に噛みついている狼に力いっぱい突き刺すと、うまく目に突き刺さり一瞬びくりと震え他と思ったら力尽きたのか左足を噛んでいた狼が外れた。




 噛みつきが外れた事を喜んだその隙きに左から激しい衝撃があったかと思うと、もう一匹の狼が左腕に噛みついてきた。




「ぐぁぁ!」




 とにかく同じ様にそいつも刺してやろうとすると、さっと口を放し槍の先を噛みつき砕いて距離を取られた。




「これは腕も足も折れてるね、噛むっていうかかみ砕く感じ!狼ヤバイ!死ぬほど痛い!死なないのに死ぬんじゃないかなってくらい痛いよ!」




 一匹殺された事で狼2匹が距離を取ってくれたので何とか体制を立て直す。まぁちゃんと立てないけど。






 そんなこんなで冒頭に戻るが今僕は折れた尖ってない木の槍を握って狼とにらみ合ってる状態だった。




 まぁ槍が良いとか悪いとかじゃなくて、狼が三匹も出てくると思わなかったからなぁ、そろそろ血も流れすぎて力が抜けそうだ。




 狼が警戒しながら周りをまわっている。いやらしいな、もっと油断してくれても良いのに。




『早く死ねー!早くしてくれー!間に合わなくなっても知らんぞー!』『もうちょっとだーもうちょっとがんばれー!あと1分頑張って死ねー!』




 周りがうるさくて仕方がない。




「殺せるもんなら殺してくれって感じだよ!」




 狼が噛みつくフェイントをしたので少し下がろうとしたら、僕の後ろ側にあった狼の死骸につまずいてしまいバランスを崩してしまった。




 それを見た狼が前から首を狙って飛びかかって来たので何とか折れた左腕を突き出して首を守ったが、後ろからも激しい衝撃があったと思ったら狼が僕の右足を噛んで首を振っている。




 何とか痛みに耐えながら右手に持った折れた槍を左腕を噛んでいる狼の目を狙い突いた。




 しかし激しく噛みつき首を振られる中うまく狙えず、槍を避けようとした狼の口の辺りに当たり牙が一本飛んだだけだった。しかしそれにより左腕を噛んでいた狼が距離を取ってくれた。




 上半身が自由になった僕は、右足を噛みついて引っ張ってくる狼を力いっぱい槍で叩いたが狼は全然離れず足をかみ砕いてくる。逆に槍の先が割れた、頭蓋骨って硬い。




「ぐぁぁぁああああ」




 痛みに目が回りそうになりながら絶叫を上げ、今度は短く持って折れた槍を突き刺すと首に刺さり狼が離れた。




 その際右手の力が抜けて刺さったまま槍を持っていかれてしまった。




「こら!槍返せ!」




 槍を刺したまま離れていった狼に文句を言っていると、後ろから激しい衝撃が首に走った。




 さっき左腕を噛んでいた狼が後ろから首に噛みついてきていた。


 そのまま激しく前へ突き倒されうつぶせの姿勢になった所を、狼は首を噛みながら押さえつけてくる。首はやばい死ねる!死なないけど。




 なんとか拘束を解こうと右手をばたつかせると、何かに手が当たったので掴んでみると折れた槍の穂先の方だった。




 穂先を後ろ手に突き刺したが体勢が悪かったのかうまく刺さらず、狼は噛むのをやめない。ミシミシと骨の砕ける音が聞こえてくる。こっちも食いちぎられたらさすがにまずいのでひたすら何度も狼を突き刺した。




 すると急に背中に重さを感じ、首の後ろからの圧迫感が消えた。




 何とか血まみれになりながら右腕一本で体を起こすと、ドサリと背中から首に噛みついていた狼が落ちた。




 痛む首で周りを見渡すと、さっき首に折れた槍を刺した狼も少し離れた所で血まみれになって倒れていて3匹の狼全部が周りで横たわっていた。




 「うおおおおおおおおおおお!」




 僕はついテンションが上がって膝たちのような形になり動く右腕を上げて絶叫してしまった。




 もう一度叫んでやろうと思って右腕を上にあげたところで意識が遠のいていく。




「あっ、立ち眩みが。血を流しすぎたかな」




 僕はそのまま意識を失ってしまった。

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