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2-2

「まーその話はもういいじゃん。で、昨日のあれ何なの? 魔法少女って?」


そう言ってアップルタルトをつまんだのはキャス。

ここは学校の周りを取り囲む森にある湖のほとり、そこでカレンとキャスとあたしはシートを広げて『作戦会議』という名のお茶会を開いている。昨日あたしが寝てしまって出来なかった分の振り替えだ。

カレンはあたしの幼馴染で親友。古くから続く名家のお嬢様で気立てが良くて、とっても可愛くてとっても優しい。華やかにきらめく金色にも似た栗色の髪は腰まで真っ直ぐ伸びていて、前髪を短く切りそろえているのもまた可愛い。優しげな緑色の瞳で見つめられると、この子と友達になれて良かったなと毎回心の底から思う。

キャスはユアンの親友で、初等部の高学年あたりからいつの間にかユアンと仲良くなっていた印象。銀色に輝く短髪に橙色の鋭い目は少し怖そうに見えるけれど、話すとすぐに良いヤツだってわかるし、頭の回転が速くていつも感心させられる。あたしも他人のことを言えた義理ではないけれど、温室育ちで丁寧な話し方をする生徒が多い中、初対面で彼の砕けに砕けた口調に驚いたのは懐かしい話だ。

森にはあまり他の生徒は立ち入らない。この湖はユアンと探検して見つけた隠れスポットだ。校舎からそれ程距離が離れていなくて、道もユアンが草木を避けてくれて歩きやすくなっている。決して大きくはないけれど青く澄んだ湖の上を爽やかな風が吹き抜けて、とても気持ちが良い。湖の周りは開けていて見晴らしも良いし、秘密の話をするのには絶好の場所。

キャスの疑問に、あたしは脇に置いていた古い本を二人の前に差し出した。


「そうよ!あたしさっき図書館で探してきたの、見てこれ!」

「……これは、何語かしら……?」

「これ、古代ジタリアイラリヤヘブラワ語?」

「え、何、古代、じた……?」

「大昔の超マイナーな言語」

「キャス君は本当に博識ですわね」

「へー……ごめん、その言語は知らないんだけどさ」


どこからそんな知識を仕入れるのだろうと思いつつ、本の表紙の隅を指さした。


「ここ見て! これ、あたしが昨日持ってたステッキにそっくりなの!」

「お、ほんとだ。よく見つけたなー、すげーじゃん」

「えへへ、こういう探し物は得意なんだー」

「お星さまとお月さまのモチーフがついた可愛いステッキですわね。とすると、この表紙に描かれている女の子もやはり、魔法少女なのでしょうか?」

「うーん、この本が読めたら良いんだけどさ……」


読める?とキャスを見れば、うんにゃ、と首を振られた。カレンを見ると、苦笑されてしまった。残念。あたしも残念ながら言語方面には明るくない。この言語の名前もついさっき知ったばかりだ。

まーでも、とキャスが本をぱらぱらとめくっている。


「これ、昨日の毛玉にそっくりだな。関連性めっちゃありそうじゃん」


彼が手を止めて指し示す挿絵を見れば、確かに昨日見た毛玉とそっくりな絵が描かれている。


「うぅ~これが読めたらなぁ……そんな文字見たこともない……」

「家に辞典あったっけな。読めたら報告するから、借りてい?」

「えっほんと!?もちろん、さっき借りてきたばかりだから大丈夫!!」

「おー」


わぁもう希望の光が見えてしまった。やはり持つべきは友だ。


「解読いつになるかわからんし、とりま確認しときたいんだけど」

「どうしたの?」

「昨日どうやってあの姿になったん?」


問われて、うーーーん、と首を傾げてしまった。


「そうですわね。あの毛玉さんを何とか出来るのは、今のところはレイリアだけですもの。またあの毛玉さんの大群が来る前に、条件がわかれば随分と心強いのですけれど」

「でもほんと、わかんないんだよね。昨日、ここに居たら毛玉の大群が来て、びっくりして湖に落ちて、溺れかけて、ユアンに助けられて、それで意識取り戻したらああなってたんだよね。あ、溺れたら変身するとか?」

「あー、生命の危機に瀕したら的な?」

「試してみよっか」

「だっ、だめですわ、そんな危ないこと!本当に溺れてしまったらどうするつもりですの……!!」


カレンが青ざめてあたしの手を掴む。

本気で心配してくれている。申し訳ないながら、少し嬉しい。


「まー溺れたの初めてじゃないだろーし、変身したのが昨日初めてだっつーなら可能性としては低いわな」

「そっか……」

「良かったですわ……レイリアが危険な目に遭わないと何とか出来ないのなら、私、あの毛玉さんに叩かれている方がずっと良いですもの」

「カレン……!!」


本当に良い子過ぎる。嬉しすぎて思わず抱き着くと、カレンは驚きつつも優しく抱き返してくれる。幸せ。

心行くまでぎゅーっとした後、カレンから離れながら再び首を傾げる。


「でもそしたら、本当にわからないんだよね」

「俺、一つ心当たりあるかも」

「え?」


背後から響いた声に振り向くと、ユアンが立っていた。生徒会の用事とやらは終わったらしい。

用事と言いつつ実際は噂のあの方と仲良くしていたんだろうと思いつつ、優しいので黙っていてあげる。


「いつからいたの。あと昨日のこと絶対に許さないからね。で、心当たりって何」

「お前、もう少しこっちが答えやすいように話せよ……」


ユアンが溜息を吐くけれど、こっちだって物申したい気持ちを押さえているのだから察するべきだと思う。

あたしの隣に座って来たのでリンゴジュースを注いで置いてやった。そのコップに手を伸ばしつつ、ユアンが礼を言う。こういう所はちゃんとしているのよね。

でも。


「さっき来たとこ、カレンとお前が手を握り合ってる辺り。昨日のことはお前がひたすら寝てたのが悪い」

「はぁ!?」

「で、心当たりだけど」


本当に失礼な男である。言い方が全然優しくない。

一番聞きたい答えのターンになったので怒りたい気持ちを抑え、ユアンの言葉の続きを待つ。


「……」

「…………早く言いなさいよ」


自分で言い出しておきながら、何故か言い澱んでいる。


「あ、オレわかったかもー」

「何でしょう……?」


ユアンは一度溜息を吐くと、


「人工呼吸した」


と言った。

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