45 在る夏の為に -荻原
―――荻原の予想は的中し、事件性のある行方不明として、総勢38名が導入された。
行方不明は初動が命。
警察のデータベースに情報を登録し、全国の拠点で情報共有され、同時に聞き込みや監視カメラの追跡など、捜査が開始された。
仲村 波琉の足取りを辿っていくと、幾つかの防犯カメラに目撃情報が挙げられた。
同時期に行方知れずになっていた、仲村 波琉と同じ学校に通う夏木海心も、共に映っていた。
二人は都心の駅で降りると、そのまま夜行バスに乗って幾つか県を超えた。
再び目撃されたのは、愛媛県のとある田舎の駅だった。
そこから先は交通機関を利用した記録が無く、今も滞在しているとして、周辺の捜索が行われた。
✱ ✱ ✱
「───下灘駅周辺のホテルや宿の顧客リストには、記録がありませんでした。偽名を使用した可能性を考え、受付にも確認を取りましたが、それらしき二人組は来ていない、と」
捜査会議で一人、席を立ちメモを手に報告する高本巡査。
「となれば、外で寝泊まりしている可能性が高いな」
高本含め30名程の捜査官と向き合うようにして、長机の前に座る、一人のお偉いさんが言う。
夏真っ盛りとはいえ、夜は冷える。
加えて海のすぐ側となれば、潮風を凌げる、屋根のある場所に寝泊まりしているはずだ。
「女の子二人で、何日持つんでしょうね…」
報告を終え、席に座りながら高本は呟く。
二人は恐らく、仲村波琉が見つからない為にあえて宿などには泊まっていない。
所持金にもよるが、持って4日程度だろう。
その後も各班による報告がされ、引き続き目撃情報を辿っての捜索が行われる事になった。
✱ ✱ ✱
「お疲れ様です、荻原さん」
老眼鏡を掛け、資料と睨み合っている荻原に、高本が缶コーヒーを差し出す。
「おぉ、ありがとさん」
カチっと音を鳴らし缶の蓋を開け、勢いよく飲む。
缶から口を離しながら、少し首を傾げ、
「...ん、こういうのは先輩が後輩にやるやつじゃねえのか...?」
と、呟いた。
「ま、時代の流れですよ。細かい事は気にせず!」
続いてカフェオレを飲んだ後、高本はお得意の好青年スマイルでニカッと誤魔化す。
誤魔化されてやるか、と言わんばかりに荻原はコーヒーをもう一口啜った。
「そういえば、荻原さんはずっと何を調べてるんですか?」
山積みになった資料の一つを手に取り、高本が聞く。
荻原はコーヒーを置き、再び資料に目を通し始める。
「これか?……まあ、"別の視点"って所だな」
「別の視点?…え、こんなの報告してましたっけ」
高本が資料に目を通していくと、全体には公表されていない情報が数多く見られた。
どころか、捜索範囲と呼べるかどうかすら怪しかった。
「まだ全体には言ってねえよ、リュウジにはまあ、詰められて言ってあるがな」
眼鏡を外し、目頭を押えながら荻原は言う。
高本は資料から目を離し、疑問に思う。
「リュウジ…?署の人間ですか?」
「ん?ああ、今井流司。今の警視総監だよ。警察学校時代の、俺の同期だ」
持っていた資料を思わず落とすほど、高本は動揺し、
「け、警視総監……!?」
と驚いた。
「警視総監と同期って…。な、何で警部なんかで燻ってるんですか…!?」
「失礼な奴だな……ま、色々あんだよ」
荻原は高本の落とした資料を拾いながら、一瞬、過去の事件がフラッシュバックする。
救えたはずの命、救い損ねた命が。
沈みきった荻原の傍にそっと缶コーヒーを置く、今は亡き先輩刑事の記憶。
「色々、ですか…」
気になるなぁ、と顔に書いてあるような高本を無視し、荻原は資料をまとめる。
「いいから、お前はお前の捜査をしろ。俺は俺の捜査をするから」
コーヒーをグッと飲み干すと、高本の肩を叩いてから荻原は去って行った。
✱ ✱ ✱
それは突然に、無線に連絡が入った。
少女達が滞在していると思われる場所の周辺の公園で今朝、30代男性の遺体が発見されたと。
嫌な予感が、した。
愛媛県警と連携し捜索に当たっていた為、当然周辺の警官が現場に出向く。
だが、偶然か必然か。
俺は高本を連れ出し、少女達が滞在していると思われる愛媛県に向かっていた。
連絡が入ったのは、その道中の事だった。
「……高本、急ぐぞ」
バタン、と強く車のドアを閉める。
パーキングエリアでしばし休憩する予定だったが急遽変更し、現場まで急行することにした。
「え、…荻原さん、まさか」
飲んでいたコーヒーの口を離して、高本は驚く。
やはり勘のいいヤツだから、薄々気付いているようだった。
「二人を守れるか、怪しくなってきたな…」
願わくば、最悪のエンディングとならないよう。
固唾を飲み、高本は車の速度を上げた。
✱ ✱ ✱
今話も読んで頂き有難うございます。
お久しぶりの更新です!
冬が明け、春を迎え、一気に私生活が忙しくなり、暫く更新をお休みしておりました。
今年も徐々に気温が上がり、夏の気配がしてきましたね。
夏へ向かうと共に、『波、晴るる』も更新を再開していけたらと思っております。
次話も宜しくお願いいたします。




