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波、晴るる。  作者: 潮留 凪
42/48

42 なつの刃


潮風が、いたずらに香る。

眩しい日差しに、うみは目を覚ます。

 

はるのリュックに付いた時計に目をやると、11時過ぎだった。

 

 「……はる」


隣で眠るはるに、うみは安堵して、微笑む。

しばらく寝顔を見つめていると、はるがゆっくりと目を覚ました。

 

 「おは、よ…うみ…」

 

よく眠れたのか、いつになく寝惚けているはるに、うみは愛おしさが爆発しそうになって。

その指に、そっと自分の指を絡めた。

 

 「おはよう、はる!」

 

幸せに満ちた顔で、うみは笑った。

全部、忘れてしまえるように。

 

 ✱ ✱ ✱

 

尽きてしまった食料を調達する為、昨日走っている途中に見かけたスーパーに行く事にした。


はるを一人にするのは恐かったけれど、不安定なはるを連れ出す方が危険だと思い、留守番をお願いした。 

 

 「すぐ帰るから、どこにもいかないでね!」

 

そう言ってはるのリュックを背負い、ぼくは立ち上がった。

形見の包丁は、ぼくが預かっておくつもりで。

 

 「うん……うみのこと、待ってる」

 

はるも立ち上がり、僕の手を掴み寂しそうに言った。

 

ああ、愛おしい。

迷いが無く、常に気を張っていて、誰の助けも必要としないような。

いつだって、そんな雰囲気を纏っていたきみが。

か弱く、ぼくを必要としてくれている。

健気に、ぼくを待っていてくれる。

 

 「すぐ、戻ってくるね!」

 

ぼくはにやけそうになって、抑えようとして、変な微笑み方をしてそう言った。

 

 「…いって、らっしゃい」

 

そんなぼくが可笑しかったのか、はるも少し笑って、そっと手を離した。

 

 

鉄のフェンスを越えようと足を掛けると、自転車に乗ったお巡りさんと目が合ってしまった。

ぼくは固まってしまい、フェンス越しに近付いてくる男に少し手が震えた。

 

 「ちょっと君、そこ立ち入り禁止なんだけど」

 

腰の曲がった背の低い老人の警官で、比較的柔らかく注意された。

 

 「す、すみません…!」

 

慌てて謝ると、老人の警官はガシャン、と自転車を止めた。

 

 「君は一人?家出か、なんかかい」

 

 「え、っと、……はい、そんな感じです」

 

ぼくはフェンスに掛けた足を降ろして、愛想笑いをした。

 

 「私も若い頃はよくやったもんだ。今すぐとは言わんが、落ち着いたらちゃんと帰るんだよ」

 

呆れたように、優しく言う老人の警官に嘘をつくように、手を後ろに隠した。

 

 「…はい」

 

少しの沈黙の後、警官はこの辺りで殺人事件があったことと、逃亡中の犯人を探し巡回している所だと教えてくれた。

ぼくは思わず一歩後退りしてしまい、警官は動揺するしぐさを見逃さなかった。

 

 「…何か、心当たりでもあるのかい?」

 

先程までと余り変わらない口調だが、ぼくにはそれが酷く恐ろしく、脅すように聞こえた。

 

 「っ……と、」


答えられずにいると、後ろからはるが歩いて来た。

 

 「うみ?何かあっ…た……、の」

 

フェンス越しの警官と目が合い、はるは固まった。

 


あ、やばい。

これは、駄目な、時が進んではいけない瞬間に感じる、嫌な、嫌な感覚、直感。

嫌だ、進まないで、時よ止まれ、時よ止まれ。

 

 "時よ、止まれ…!"

 

 

ぼくの願いも、虚しく。

警官はぼくらが犯人と思わしき情報と同じ『二人組』であることに、一気に態度を変えた。

 

そして、はるのスカートの裾に着いた血に気づいた警官が、

 

 「君、それ…怪我でもしたの?」

 

と疑うような目を向けた。

 

はるは怯え、咄嗟にぼくのリュックを奪う。

包丁を出し、そのままぼくを抱き寄せると、そのまま首元に突き立てた。


 

 「っ…来るな!!」

 

ヒステリックに、叫ぶ。

一歩、一歩とぼくと共に後ずさりしていく。

 

 「は、……るっ…!?」 

 

警官と同じようにぼくは驚いて、名前を呼ぶと、強い口調で、

 

 「黙れ!!!」

 

とはるは、ぼくが発言することを禁じた。

 

 「君!!何してるんだ!!」


警官がフェンスを登ろうとすると、はるは警官に包丁を向けた。

驚いて怯む警官は、登るのを止めた。

 

動きが止まったのを見て、はるは再びぼくに刃を向けた。

 

 「くるな!!来たらこいつを殺す!!」

 「近づいたら殺す!!!」

 

ぼくははるの行動に同様しつつも、もう、はるに任せるつもりで、何も言わなくなった。

 

 「わ、わかったから!落ち着きなさい…!」

 

はるの要求にそう言いながら、警官はフェンスから降り、段々後ずさりした。


 「この先に来たら、その瞬間こいつを殺す!」

 「分かったら、早くここから去れ!!」

 

念を押すように、はるはそう叫ぶ。

やむを得ないというように、警官は立ち去った。

 

姿が見えなくなったのを確認してから、はるはぼくに包丁を突き付けたまま、波止場の先端へと歩いていく。

 

 「はる、いいよ、もうやめよう…?」

 「これ以上、罪を重ねないで…」


ぼくはそう、小さくお願いをするが、はるは前を向いたまま進んでいくばかりだった。

 

 ✱ ✱ ✱

 


 

今話も読んで頂き有難うございます。

ようやく、うみとはる編、クライマックスへの引き金を引きました。

と、言うところで、次話より、武仁編・再が開始致します。

はるとうみの逃亡後、同時進行ではるの行方を探す武仁と、警察との捜査パートになります。


錯綜するあまりうみへ刃を向けたはると、武仁の心情、行動が絡み合っていく様を、見守って頂けたなら。


次話も宜しくお願いいたします。

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