41 愛と夏
──────夢に、見た。
うみと二人で砂浜で、お昼ご飯を食べる夢。
夢だったのか、現実だったのかも、もう朧げだけれど。
「ねえ、うみ」
おかかおにぎりを頬張る、君の名を呼ぶ。
「ん?」
その純粋な目は、こちらに振り返って。
何となく、聞きたくなったことを。
「…愛って、何だと思う?」
唐突な質問に、少しうみは驚いて、目を丸くする。
「うーん…」
視線をキョロキョロとさせて考えるうみに、やはり突拍子が過ぎる質問だったかと、自分は少し反省していた。
「えっとね」
波が、寄せて、返してから、うみが息を吸って、
「ぼくは誰かから愛っていうのを貰ったことがないからよく、分かんないんだけど」
「愛って、ちょっとしあわせと似てるなぁって思った!」
あまりにもかなしい言葉を淡々と、けれど何故だかその目を輝かせて、うみは答える。
「幸せ?」
うみもまた、突拍子もない答えで、自分は少し戸惑う。
「ぼくね、はるといると、すごーくしあわせだなぁって思うんだ。それって、愛なのかなって」
うみは嬉しそうに、楽しげに、身振り手振りしながら話す。
「ぼくと、はるの間に愛ってやつがあって、そこからしあわせが生まれてく…みたいな?」
勢いで話す余り、うみは自身の発言に困惑していた。
「えっとつまり……愛って、しあわせのもとなのかなって、うん。ぼくは思う!」
うみは心に納得させるように、うなずいてから、真っ直ぐな目で自分を見て、そう言った。
「愛は……幸せのもと」
小さく声に出してみて、自分はこの考えがとてもしっくり来た。
────自分の中で一番の幸福な記憶は、お父さんと、お母さんと、お兄ちゃんと、4人で幸せに暮らしていた時のこと。
思えば、そこにあったものこそが愛だったのかもしれない。
家族の愛が、その時はまだ、あったのだと。
「…うみは…凄いな」
満足気にニコニコと海を見つめるその横顔に見とれて、自分は口から本音が零れていた。
ちょうど、大きな波の音に掻き消されて聞こえなかったのか、うみはハッとして慌てた様子で再度自分を見た。
「あっ!でもこれはあくまでぼくの考えだからね!ぼくに愛が何なのかなんて…分かるわけ、ないし!」
うみは笑って誤魔化しながら、
「はるは?」
と話を逸らした。
「―――はるにとって、愛って何?」
いつも無邪気に笑っているうみが、この瞬間、ほんの少しだけ恐ろしく見えたのは、きっと気のせいだ。
「自分は……」
自分から話を振っておいて、答えられないなんて許されないと思ったけれど、いくら考えてもうみ以上の答えが出なかった。
ただ一つ、頭に浮かんだ言葉は端的で、口に出すのを躊躇ったけれど、うみは何でも受け止めるという顔をしてこちらを真っ直ぐ見つめていたから、自分は口を開いた。
「……自分にとって愛は、『強くて、儚い』…かな。...とても、曖昧だけど」
「強くて、儚い……かぁ!」
うみは一瞬表情が曇ったような気がしたけれど、直ぐにニコリと笑った。
「愛は強い。いいね!ぼくとはるの愛も、きっと最強だよね!」
意図的だろうか、無意識だろうか。
得意げにニッと笑ううみは、自分が言った、『儚い』という言葉を、きれいに無かったことにしていた。
「ぼくらの愛は最強!」
そう海の方へ強く言ってから、うみは自分に目線だけ向けて、
「ねえはる」
と今度は弱々しく名を呼んだ。
「…ん?」
答えてから、うみと目を合わせようとしたけれど、珍しく避けられてしまった。
「ぼくね、はるのこと、」
うみは、大きく息を吸って、
「 」
息を止めて、何かを言いかけて、それを飲み込んでから、笑って、
「ぼくと、ずっと一緒にいてね?」
強い潮風が吹いて、うみのポニーテールが揺れた。
「……」
自分は何も言えなくて、YESともNOとも答えない代わりに、下手くそに微笑んで見せた。
うみも何かを察するように、微笑み返してくれたけれど、それはあまりにも寂しそうに、微笑んだ。
✱ ✱ ✱
愛は、儚い。
愛は、強い。
これは自分が経験したことの全てを込めたふたつの言葉だった。
愛は、とても強い。
時にすべてを覆い、時にすべてを変える。
どこまでも行けるような、何でもできるような、強い強い、力を持つ。
だからこそ愛は、とても…儚い。
すべてを変える力は、いとも容易く崩れ去る。
愛は、いとも簡単に、壊れてしまう。
愛を分からないと言ったうみが、儚いという事実を無かったことにした。
だから気づいてしまった。
うみも、何かから逃げている。
目を伏せて、目を逸らして、見たくない何かから逃げて、必死に背を向けている。
自分たちは、似た者同士だ。
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ねえ、うみ。
うみは、一体、何を言いかけて、飲み込んでしまったの。
今話も読んで頂き有難うございます。
二人にとっての『愛』についてのお話です。
うみが言いかけて、飲み込んでしまった言葉。
いつか、伝えられるでしょうか。
次話も宜しくお願いいたします。




