4 夏の痛みに
あっという間に、一週間が経過した。
あの日から、まだ彼女とは話せていない。
屋上に行く勇気もなく、ぼくは体育館裏で一人、昼休みを過ごしていた。
壁にもたれ掛かり、小さく座っていた。
なんとなく風に揺られていると、ふと、体育館の中に誰かが入ってくる音がした。
誰かが、誰かを無理やり引くような。
そんな音ともに、怒鳴り声が響いた。
「何度言えば分かんだよ!」
ぼくはビクッとした。
恐怖とともに興味が湧き、ドアの隙間から少し中を覗いた。
中に居たのは────彼女だった。
「お前はいつも!いつも!」
「クソっ!」
そう言いながら彼女を蹴っていたのは、数学教師の仲村だった。
「!っ……」
声を出そうとして、やめた。
ぼくなんかに、何ができる?
彼女の、名前も知らないのに。
"こんなぼくじゃ、何も出来ない"
ただ黙って見ていることしか出来なかった。
彼女は何度蹴られても、ただじっと耐えていた。
何度も何度も、身体中の痛みを堪えて。
そんな彼女を見ているのが、苦しくて。
“ぼくの方が泣いてしまいそうだった”
と、チャイムが鳴った。
「くそ……!」
小さくそう吐いて、仲村はズカズカと体育館を出ていった。
✱ ✱ ✱
──────ぼくは、走っていた。
廊下を走って、息を切らして、階段をかけ上った。
彼女は、きっとあれが初めてでは無いのだろう。
今まで何度も、何度も同じようなことを。
彼女を、どうして教室で見ないのかがわかった。
分かってしまった。
涙を堪えて、ぼくは4時間目の授業を受けた。
内容など全く頭に入らず、ただ彼女のことだけを考えていた。
彼女はきっとこれを、知られたくないのだろうと。
“何としてでも、隠さなきゃ”
今日ぼくが知ってしまったことを、絶対に悟られないようにしなければ。
彼女を………守るために。