31 海と夏と
先程投稿したものは誤りです。
こちらが本当の31話になります。
ご了承下さい。
「間違ってる!!!」
──────どうしてここに居るんだろう。
「こんな……世界……」
─────一体どこで、間違えたのかな。
「こんな世界!全部全部!!」
─────ぼくらは、一体どこで。
「こんな世界間違ってる!!!!!」
虚しく空へ消えていく、彼女の泣き叫ぶ声が。
ぼくは、永遠に忘れられないのだろう。
✱ ✱ ✱ ✱ ✱ ✱ ✱
「せーのっ」
停車した電車から、セーラー服を纏った二人の少女がよっ!と勢いよく、
「「―――到着!!」」
仲睦まじそうな揃った足取りで、跳んで降りた。
友人同士、旅行にでも来たのだろうか。
夏休みにしては少し早いような気がしたが、私が学生の頃とは違うのかと、さほど気に留めていなかった。
過ぎゆく電車を見送ってから、隠れていた大きな景色に、二人して息を飲んでいた。
こんなにも美しい景色を毎日見ていること、私はそれを、とても幸福に感じている。
その大きく、美しく輝く海に、しばらく二人は見とれていたが、一人の少女がハッとして、
「……はるっ!早く近くまで見に行こ!」
と楽しそうに笑って、もう一人の少女の手を引いて走って行った。
彼女たちの夏休みが、どうか楽しいものになりますように。
私は密かにそう願って、駅員の仕事に戻った。
通り過ぎる間際に見えた、一方の少女の痣は、きっとなにかの見間違いだろう、と。
✱ ✱ ✱ ✱ ✱ ✱ ✱
異様な胸の高鳴りに、香る潮風に。
ただ誘われるまま、心のままに走った。
逃げ出したあの時とは違う。
これはぼくの、ぼくらだけの夏なんだ。
「うみ、待って」
ぼくに手を引かれながらそう言うはるは、穏やかに笑っていた。
「海だ…海だ…!うーみーー!!」
語彙力を失うほどに、ただ圧倒されていた。
寄せてはまた打ち返す、心地の良い波の音。
眩い陽射しに、煌めく砂浜で。
ぼくは幼い子供のように、はしゃいでいた。
「うみが……ふふ…海しか言えなくなった」
そんなぼくを少し馬鹿にするように笑いをこらえるはるに、ぼくは眉をしかめた。
「だって、海すごいんだもん!」
言ってから、ぼくはもういちど波打ち際まで走って行って、
「はーーるーーー!!!」
と喉が痛むほどに強く、海へ叫んだ。
「ふ…ふは…ふふふ」
ぼくの突拍子もない行動に、はるは下手くそに笑っていた。
はるはきっと、無表情なわけでも、感情が薄い訳でも無い。
ただただ、本当に不器用なだけ。
周りの波を立てないように、自分を押し殺して。
そんな、はるが抑えてきたものを、ぼくの前では見せてくれる。
それがどうしようもなく嬉しくて。
こんなにもドキドキするのは、きっと夏の暑さのせいだって、自分に言い聞かせた。
そう、夏の暑さは無敵なんだ。
何にだってなれる気がして、何だってできる気がして。
「はるも!やってみてよ!」
ええ、と苦笑するはるの手をグイと引いて、波打ち際まで連れてきた。
「ほら!」
楽しくて、楽しくて仕方が無いや。
ドキドキとおさまらない高揚感が、ぼくの胸を支配した。
「……う、うみーっ…」
はるの、蚊の鳴くような声にぼくは思わず吹き出した。
「ぶっ……ははは!もう恥ずかしがらないでさ!ねっ?」
トンっとはるの背中を軽く後押しする。
しばらく立ち尽していたはるは、覚悟を決めたように深く息を吸って、
「……うーーみーー!!!」
初めて聞く、はるの大声だった。
「っ……はあ、はあ」
はる自身もこんなに大きな声を出すのは初めてのようで、荒い息と、顔が赤かった。
「だ、大丈夫はる!?無理させてごめん…」
ぼくは無理に煽てたことに申し訳なくなって、俯いた。
「……うみ」
呼ばれて、顔を上げるとはるはまた若干曲がった変な笑顔をしていて、
「ありがとう」
くしゃっと、更に笑った。
その瞬間に楽しいが全部、愛おしいに変わったのをはっきりと感じた。
「すっきり、したでしょ?」
そう言って微笑んでみせたけれど、きっと今のぼく、はるより下手くそに笑ってるだろうな。
涙を堪えて笑うのって、難しいや。
✱ ✱ ✱
海沿いをずっと歩いた先に見つけたコンビニで、昼飯を購入した。
途中、目に留まった花火セットがどうしても諦めきれなくて、はるにお願いした。
はるは購入したビニール袋の中からそれを取り出して、
「もう買った」
と照れながら笑った。
海に戻り、ぼくが持ってきた大きめのビニールシートを、波の方から少し離れた砂浜に敷いた。
荷物を置き、靴を脱ぎ、ついでに裸足になった。
────────解放感。
なんだか自由になった気分で、うんと足を伸ばした。
それぞれ購入したものを膝に乗せてから、
「「いただきます」」
二人で手を合わせて言った。
ぼくは、はるがいつも食べていた3種類のサンドイッチ。
はるは、物凄く季節外れなあんまん。
「この時期に肉まんとか売ってるの珍しいよね」
言いながら、ぼくはハムチーズサンドを頬張る。
「あんまん、好きだから嬉しい」
はるは嬉しそうに、出来たてほかほかのあんまんをちぎって食べた。
こうして昼飯を食べていると、いつもの屋上と変わらないな。
今ならまだ、あの場所へ戻れるだろうか。
思いかけて、はっと思い出す。
そうだ、戻っても、ぼくもきみも、居場所なんか無くて。
きっと、きみが奪われてしまうだけで。
そんなの、そんなの絶対、ぼくが許さない。
"はるを、誰にも奪わせはしない"
密かに胸の内で、その覚悟を再確認した。
今話も、読んで頂き有難うございます。
実に5ヵ月ぶりという、とても久しぶりの更新です。
うみとはるの夏も、とうとう終わりの足音が近づいてきています。
今回は、ようやく辿り着いた"二人の海"でのお話です。
再び二人の夏を動かしていこうと思うので、どうか暖かく見守っていただけたなら。
次話も、よろしくお願い致します。




