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波、晴るる。  作者: 潮留 凪
31/48

31 海と夏と

先程投稿したものは誤りです。

こちらが本当の31話になります。


ご了承下さい。




 

 「間違ってる!!!」

 

──────どうしてここに居るんだろう。

 

 「こんな……世界……」

 

─────一体どこで、間違えたのかな。

 

 「こんな世界!全部全部!!」

 

─────ぼくらは、一体どこで。



 

 「こんな世界間違ってる!!!!!」


 

虚しく空へ消えていく、彼女の泣き叫ぶ声が。

  

ぼくは、永遠に忘れられないのだろう。

 

 

 

  ✱ ✱ ✱ ✱ ✱ ✱ ✱


 

 「せーのっ」

 

停車した電車から、セーラー服を纏った二人の少女がよっ!と勢いよく、

 


 「「―――到着!!」」

 

 

仲睦まじそうな揃った足取りで、跳んで降りた。

 

友人同士、旅行にでも来たのだろうか。

夏休みにしては少し早いような気がしたが、私が学生の頃とは違うのかと、さほど気に留めていなかった。

 

過ぎゆく電車を見送ってから、隠れていた大きな景色に、二人して息を飲んでいた。

こんなにも美しい景色を毎日見ていること、私はそれを、とても幸福に感じている。

 

その大きく、美しく輝く海に、しばらく二人は見とれていたが、一人の少女がハッとして、

 

 「……はるっ!早く近くまで見に行こ!」

 

と楽しそうに笑って、もう一人の少女の手を引いて走って行った。


彼女たちの夏休みが、どうか楽しいものになりますように。

私は密かにそう願って、駅員の仕事に戻った。

 

通り過ぎる間際に見えた、一方の少女の痣は、きっとなにかの見間違いだろう、と。

 

  ✱ ✱ ✱ ✱ ✱ ✱ ✱


 

異様な胸の高鳴りに、香る潮風に。

ただ誘われるまま、心のままに走った。

 

逃げ出したあの時とは違う。

これはぼくの、ぼくらだけの夏なんだ。

 

 「うみ、待って」

 

ぼくに手を引かれながらそう言うはるは、穏やかに笑っていた。

 

 「海だ…海だ…!うーみーー!!」

 

語彙力を失うほどに、ただ圧倒されていた。

 

寄せてはまた打ち返す、心地の良い波の音。

眩い陽射しに、煌めく砂浜で。

ぼくは幼い子供のように、はしゃいでいた。

 

 「うみが……ふふ…海しか言えなくなった」

 

そんなぼくを少し馬鹿にするように笑いをこらえるはるに、ぼくは眉をしかめた。

 

 「だって、海すごいんだもん!」

 

言ってから、ぼくはもういちど波打ち際まで走って行って、

 

 「はーーるーーー!!!」

 

と喉が痛むほどに強く、海へ叫んだ。

 

 「ふ…ふは…ふふふ」

 

ぼくの突拍子もない行動に、はるは下手くそに笑っていた。

はるはきっと、無表情なわけでも、感情が薄い訳でも無い。

ただただ、本当に不器用なだけ。

 

周りの波を立てないように、自分を押し殺して。

 

そんな、はるが抑えてきたものを、ぼくの前では見せてくれる。

それがどうしようもなく嬉しくて。

こんなにもドキドキするのは、きっと夏の暑さのせいだって、自分に言い聞かせた。

 


そう、夏の暑さは無敵なんだ。

何にだってなれる気がして、何だってできる気がして。

 

 「はるも!やってみてよ!」

 

ええ、と苦笑するはるの手をグイと引いて、波打ち際まで連れてきた。

 

 「ほら!」

 

楽しくて、楽しくて仕方が無いや。

ドキドキとおさまらない高揚感が、ぼくの胸を支配した。

 

 「……う、うみーっ…」

 

はるの、蚊の鳴くような声にぼくは思わず吹き出した。

 

 「ぶっ……ははは!もう恥ずかしがらないでさ!ねっ?」

 

トンっとはるの背中を軽く後押しする。

しばらく立ち尽していたはるは、覚悟を決めたように深く息を吸って、


 


 「……うーーみーー!!!」



 

初めて聞く、はるの大声だった。

 

 「っ……はあ、はあ」

 

はる自身もこんなに大きな声を出すのは初めてのようで、荒い息と、顔が赤かった。

 

 「だ、大丈夫はる!?無理させてごめん…」

 

ぼくは無理に煽てたことに申し訳なくなって、俯いた。

 

 「……うみ」

 

呼ばれて、顔を上げるとはるはまた若干曲がった変な笑顔をしていて、

 

 「ありがとう」

 

くしゃっと、更に笑った。

 

 

その瞬間に楽しいが全部、愛おしいに変わったのをはっきりと感じた。

 

 「すっきり、したでしょ?」

 

そう言って微笑んでみせたけれど、きっと今のぼく、はるより下手くそに笑ってるだろうな。

涙を堪えて笑うのって、難しいや。

 

 

✱ ✱ ✱

 

 

海沿いをずっと歩いた先に見つけたコンビニで、昼飯を購入した。

途中、目に留まった花火セットがどうしても諦めきれなくて、はるにお願いした。

 

はるは購入したビニール袋の中からそれを取り出して、

 

 「もう買った」

 

と照れながら笑った。

 

 

海に戻り、ぼくが持ってきた大きめのビニールシートを、波の方から少し離れた砂浜に敷いた。

荷物を置き、靴を脱ぎ、ついでに裸足になった。


────────解放感。


なんだか自由になった気分で、うんと足を伸ばした。


 

それぞれ購入したものを膝に乗せてから、

 

 「「いただきます」」

 

二人で手を合わせて言った。

 

ぼくは、はるがいつも食べていた3種類のサンドイッチ。

はるは、物凄く季節外れなあんまん。

 

 「この時期に肉まんとか売ってるの珍しいよね」

 

言いながら、ぼくはハムチーズサンドを頬張る。

 

 「あんまん、好きだから嬉しい」

 

はるは嬉しそうに、出来たてほかほかのあんまんをちぎって食べた。

 

こうして昼飯を食べていると、いつもの屋上と変わらないな。

今ならまだ、あの場所へ戻れるだろうか。


 

思いかけて、はっと思い出す。

そうだ、戻っても、ぼくもきみも、居場所なんか無くて。

きっと、きみが奪われてしまうだけで。

 

 

そんなの、そんなの絶対、ぼくが許さない。

 

 


"はるを、誰にも奪わせはしない"

 

  


 

 

 

 

密かに胸の内で、その覚悟を再確認した。

今話も、読んで頂き有難うございます。


実に5ヵ月ぶりという、とても久しぶりの更新です。

うみとはるの夏も、とうとう終わりの足音が近づいてきています。

今回は、ようやく辿り着いた"二人の海"でのお話です。


再び二人の夏を動かしていこうと思うので、どうか暖かく見守っていただけたなら。



次話も、よろしくお願い致します。

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