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波、晴るる。  作者: 潮留 凪
23/48

23 広がる波紋と夏


祖母の後に続いて、自分は風呂に入った。

後に入る父の分を残すため、最小限の量のお湯だけで洗って素早く出た。

 

5分程で出てきた自分を見て祖母は驚いていた。

年頃の子はお風呂が長いもの、とでも思っていたのだろう。

 

自分に続いて兄も入ったが、同様に5分程で出てきた。

父が風呂に入ると、兄と自分は同時に息を深く吐いて体の力を抜いた。

 

 「あら、仲良しなのねぇ」

 

祖母は、悪気も無さそうに優しく笑った。

実際は、父の機嫌を伺わなくて済むこの一瞬に安堵していた。

 

 

正直、母が死んだという実感があまりなかった。

父が死んだ時よりもショックだったはずなのに、何故だろう。

まだ心が、受け入れたくはないと言っているような。

 

 「今日は沢山の人に挨拶をして、疲れたでしょう」

 

祖母はそう言いながら兄と自分にお茶を出してくれた。

お礼を言ってから一口飲むと、じんわり暖かかった。


✱ ✱ ✱

 

お茶を飲み終わる頃に、父は風呂から上がった。

 

 「お風呂、有難う御座いました。とても気持ち良かったです」

 

父はまた、お手本のように微笑んだ。

 

 「それは良かったわ。いつも私一人だとお湯が余ってしまうのよ。だから貴方たちが使ってくれると、捨てずに済むから助かるわ」

 

祖母の優しさに漬け込むみたいに。

父は、まるで詐欺師のようだと思った。

 

少しして父が帰ろうとしたので、自分と兄も立ち上がった。

祖母は泊まっていけばいいのにと言ってくれたが、父はそこまで迷惑はかけられないと車に乗り込んだ。

 

 「波琉ちゃん、波人くん、また来てちょうだいね」

 

祖母は少し寂しそうに笑った。

自分と兄は、はいと微笑んで車窓を閉めた。

 

最後に父が、ご馳走様でしたと軽く頭を下げた後、車が動き出した。

 

また3時間、無言の車内が続くんだろうと思っていた。

すると高速に入ってから、父が口を開いた。

 

 「もう二度と、あそこには行かない」

 「だから綾波のことも、義母さんのこともあの家での事も、全部忘れろ」

 「いいな」

 

いつもの、威圧的な父の言葉。

兄は悔しそうに、拳を強く握っていた。

 

 

自分は、絶対に嫌だと思った。

死んだ父も、母も、自分の大切な人だ。

 


"お前を親だなんて、大切だなんて、死んでも思わない"

 


そう心に強く誓って。

 

 ✱ ✱ ✱


深夜、父は家に着くなりいつもより強い酒を4本開け、リビングに居座った。

 

自分はそのまま部屋に入り、部屋着に着替えてからベッドで横になった。

疲れもあり、眠気はしていた。

けれどどうしても、寝付けなかった。

 

明け方の4時になっても、自分は寝れずにいた。

ベッドで何度寝返りをうっても、気持ちの整理がつかなかった。

 

何となく外の風に当たりたくて、部屋を出ると、扉の前に兄が居た。

兄は、大きな鞄をふたつ持っていた。

 

 「お兄ちゃん、どこか行くの…?」

 

自分がそう聞くと、兄は申し訳なさそうな顔をした。

 


 「波琉……ごめんな」

 


それだけ言って、兄は家を出ていった。

 

自分は何も聞けず、追いかけることも出来なかった。

全てに、ただただ、実感が湧かなかった。

 

兄の部屋は、全てが綺麗に片付けられていた。



 

ベッドの上に、『今までお世話になりました』と書かれた付箋だけが置いてあった。

 

今話も読んでいただき有難うございます。


気持ちの整理がつかないはるに、追い打ちをかけるように家を出て行った、兄・波人。

武仁と二人きりになってしまったこの家は、次話、はるの運命を大きく左右する。


次話もよろしくお願い致します。

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